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ショウヤとデート(2)

どれくらい歩いたろうか… 僕らは、とある地下鉄の駅の近くの大通りに出た。 すぐそこに、割と大きな遊園地があった。 もう日が暮れかかっていた。 「すごいなーこんな所まで歩いてきちゃった…」 「折角だから、ちょっと寄っていきましょう」 僕らは駅前の人混みに紛れて、 その遊園地の敷地内に入った。 ちょうどイルミネーションの灯りがつき始めて、 黄昏時の薄暗い中に、 それらが中途半端な感じにともっていて… 何とも幻想的な空間を作っていた。 ショウヤはまた、カメラを構え、 何度も何度もシャッターを切った。 「黄昏時のカオルさんも…良いですねー」 僕は、ふと思い立って言った。 「ショウヤさんも一緒に撮りませんか?」 「えええっ!」 まごつくショウヤの横に並び… 僕は、自分のスマホを取り出すと、 自撮りモードにして、それを高く掲げた。 「はい、チーズ」 カシャッ… 安っぽいシャッター音が響いて、 何とか2人一緒の写真が撮れた。 「結構いい感じに撮れました」 僕はすぐにそれを、彼に見せた。 「…」 ショウヤはそれをマジマジと覗き込んで… そして、ふっと笑った。 「自分を撮ってもらうなんて、いつ振りだろ…」 「もっと写ったらいいのに…ショウヤさんカッコいいんだから」 「…いや、オーラが全然ないですよ…特に、カオルさんと並ぶと余計に…」 「…そうですかー?」 僕はその画像を一生懸命見たが… ショウヤの言うところのオーラっていうのが、 僕にはサッパリわからなかった。 「カメラマンの眼力ってすごいんですねー」 「…そんな事ないですよ」 ショウヤはまた、少し寂しそうに…呟いた。 「…こんなに…見えなきゃいいのにって、思うときもあります…」 「…」 辺りは、すっかり暗くなった… 灯りがくっきりと浮かび上がり、 僕らはいつの間にか、 美しいイルミネーションに包まれていた。 「すごく綺麗ですね…」 ショウヤは、また目の色を変えて… それらを背景に、僕を撮りまくった。 「ああー今日は良い写真いっぱい撮れましたー」 「…それは…よかったです…」 「やっぱり、さしあたり練習で、カオルさん動画を作ろうと思います」 「…あーそうですかー…」 また恥ずかしい在庫が増えてしまうな… 「…お腹空きましたね、どうします?この辺でどっか入りますか…それとも地元に戻りますか?」 「…そうですね…やっぱ戻りましょうか…」 何となく… 飲んで酔っ払ってから、遠い道のりを帰るってのが 少し億劫な気がするのは… 僕も、もうあんまり若くないってことなのかな… 「カオルさんって、ホントに地元好きですよねー」 また見透かしたように、彼は言った。 そんなわけで、僕らは、地下鉄で…地元に戻った。 「今日つき合ってもらったお礼に、僕が奢ります」 「えっ…いいんですか?」 「…知ってる店でいいですか?」 「何でも大丈夫です」 そしてショウヤは、割と僕らの家の近くの、 地下にあるイタリアンのお店に入って行った。 「こんばんは…」 「いらっしゃいませー…あ、ショウヤくん、まいど」 オシャレな店構えな割に、 気取らない感じの店員さんが、彼に声をかけた。 僕らは、向かい合って座った。 「この店…近いし、気になってましたけど…初めて入りました…」 「そうなんですね、意外に安いんですよー」 とりあえず僕らは、 いつものハイボールとレモンサワーで乾杯した。 「今日はホントにありがとうございました」 「いいえーこちらこそ、楽しかったです」 適当におつまみ小皿を何品か頼んで… ショウヤは、ワインを注文した。 「盛り付けもオシャレですねー」 早速彼は、それらを写真に撮っていた。 僕も自分のスマホで…撮影した。 カシャッ… ショウヤがまた、僕にカメラを向けた。 「ワイングラス越しのカオルさんも…素敵です…」 あ、またあんまり飲ませ過ぎないようにしないと… メンドクサくなったり、 変なスイッチ入ったりするからなーこの人… 「大丈夫です…昨日満喫しましたから…」 僕はまた、彼のカメラに見透かされた… 「ふふっ…ショウヤさんって、ホントにエスパーみたいですね」 もう、この人の前では…僕は何も隠せない。 余計な事は考えずに、 この人と一緒の時間を楽しもう… 僕はしみじみ…そう思った。 とりあえず、そのワインが空になった所で、 僕らはその店を出た。 「…ごちそうさまでした、逆にスイマセンでした」 「よかったら…また散歩、つき合ってください」 「はい、是非また誘ってください…」 そして僕らは、ショウヤの家の前まで来た。 「…階段の上まで来てもらっていいですか?」 彼が、少し恥ずかしそうに…小さい声で言った。 僕は、何だろ…と思いながら、 彼の後について階段を上った。 家のドアの前で…ショウヤは僕を振り向いた。 「最後に…キスしても…いいですか…?」 僕は、また少し胸がキュンとしてしまった。 「…はい」 そして僕らは… どちらからともなく、口付けた。 ゆっくり口を離れて… 最後に彼は、囁くように言った。 「ドライでイキたくなったら、また呼んでください」 「…っ」

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