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働くシルク(1)

シルクは段ボールの中から… 見たこともない機械を取り出した。 大きさは、まあデスクトップのPCくらいか… それをもっと厚くどっしりさせた感じ… 表面にいくつものスイッチが、機械的に並んでいた。 「それ…何なの?」 「まあ、音を出す機械だな…俺が作った」 「ええーっシルクが作ったの?…これ…」 「うん…何か不具合出ちゃったらしい…」 「…ふうん…」 残念ながら、見ただけでは、 どういう機械なのかも、何が不具合なのかも 僕にはちっとも分からなかったが… 彼は、いつも食事するテーブルの上に、 作業用のシートを敷いて、その機械を上に置いた。 それから戸棚から、PCを出してきて、 機械の横に置いて…それを起動させた。 更に、色々なケーブルを取り出してきて、 機械とPCを繋ぎながら…僕に言った。 「コーヒー飲みたい…」 「…どこにある?」 「上の棚に入ってる…お湯はポット使って…」 「…わかった」 僕はキッチンに行った。 上の棚を開けてみると… 確かに、コーヒー淹れるためのセットが見えた。 僕は背伸びして、それを取り出した。 「カップはこだわらない?」 「…うん」 僕は、食器棚を漁って… 白いマグカップを2つ取り出した。 ポットにお湯を沸かしながら… カップにドリッパーを乗せ、ペーパーを敷いて… 粉コーヒーを適当に入れた。 「ブラックでいいの?」 「…うん」 ふと見ると… テーブルの上は、 すっかり色々な機械や道具で埋め尽くされ… そこは完全に『工房』になっていた。 「…シルクって、こんな事する人だったんだ…」 僕は思わず呟いた。 彼は、PCの画面を見ながら、 その機械のスイッチを順番に押しながら呟いた。 「ちゃんと…働く…おじさん…」 「あはははっ…」 お湯が沸いたので、僕はコーヒーを淹れて… そのマグカップを、シルクに渡した。 「はい…」 「サンキュー」 「上手く淹れられてるか分かんないけど…」 「…ん、美味いよ」 それをひと口啜ると、彼はまた…作業に没頭した。 「…」 僕も、キッチンに立ったまま、 コーヒーを飲んだ。 …ウロウロしててって言われてもなー どうしようかな… とりあえず僕は、自分のスマホを持って… 再び布団に寝転んだ。 そして…SNSやらニュースやらを、 何となく見ていた。 「…あーこれか…」 ひとりでブツブツと呟きながら、 彼はその機械を、着々と分解しているようだった。 僕はいったん起き上がって… 彼の手元をチラッと覗いてみた。 シルクは、機械の中の基板を取り出していた。 そして、それを入念にチェックしていた。 うわースッゴい細かい作業だー しかもあんな暗号みたいな配線… 素人には、サッパリ分からないや… 僕はそのまま、再び煙草を吸いにいった。 シルクってすごいんだな… あんな機械…作っちゃうんだ… しがないフリーターな僕なんかとは大違いだ… 「…ふぅー」 煙草を消した僕は… また布団に戻って、仰向けに寝転がった。 何となく、自分で自分が情けない気がして… スマホをポイっと枕元に置くと、 目を閉じて…腕で目元を覆った。 僕は…何にも出来ないなー なんて、ぼんやり考えているうちに… 僕の頭の中に…ふと、メロディーが浮かんだ。 「…」 …なんか、曲出来そう… 僕は頭の中で、その浮かんだメロディーと歌詞を、 何度も何度も繰り返し、練り直した。 そして再び起き上がり…スマホを手に取った。 メモのアプリを開いて、 歌詞をランダムに打ち込んでいった。 時々、シルクが道具をテーブルに置く音が聞こえた。 僕は歌詞を練りながら… たまに小声でメロディーを口ずさんでしまった。 「…ふふっ」 シルクが、手元から目を上げずに、小さく笑った。 「…あっ…ごめん…気が散る?」 「全然…もっとデカい声で歌っていーよ」 どのくらい時間が経っただろうか… 僕はいつの間に、その作業に没頭していた。 頭の中で、すっかり曲が出来上がっていった。 「ふう…」 そして僕は、またスマホを枕元に置くと… ゴロンと横になった。 家帰ったら…すぐに音源作ろう。 そう思いながら… 僕はまた目を閉じた。 時々、カタッという音が聞こえた。 いいな… こんな風に、他の誰かの気配がする空間って… そんな心地良さを感じながら… 僕はそのまま、また眠ってしまった。

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