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働くカオル?

「ふうー」 またも…どのくらい時間が経っただろうか… 何とか最後まで、曲の打ち込みが終わった。 歌のメロディーは、 まだ若干固まってない所もあるが、 他の皆に伝わるであろうレベルまではもっていけた。 あくまでも、音源なので… サエゾウのように、音のひとつひとつに拘りを持って作ったわけではないにしろ、それなりに時間はかかってしまった。 「…」 ふと見ると…僕の布団に、シルクが寝転がっていた。 あーそうだ… 飲み物買って…来るって言ってたっけ… すっかり放置してしまった… 悪い事したな… 「…シルク…ごめん」 「…」 返事が無かった。 近寄ってみると…彼は眠ってしまっていた。 シルク…今日は1日中仕事してたからなー きっと疲れてんだな… 僕は、そっと彼から離れて… 換気扇の下に行って、煙草に火を付けた。 シルクが飲んだであろう ハイボールの空き缶が、置いてあった。 あーホントに放置しちゃったんだなー 何にも気付かないなんて… そんなに集中してたのか… 自分が、そこまで周りが見えなくなっていた事を、 僕はしみじみ自覚して、そして反省した。 冷蔵庫を開けると… 僕の分のハイボール缶も買ってあった。 僕はそれを取り出して…空けて…飲んだ。 そしてまた、それを片手に機械の前に座った。 せっかくここまで出来たんだから、 皆に渡すところまでやってしまおう… そう思って僕は、 ゴソゴソと…もう1つの機械を取り出した。 「…終わった…?」 そのゴソゴソで目を覚ましたシルクが、 小さい声で言った。 「あ、ごめんねシルク…缶、ありがとう…」 「…んー」 シルクは、身体を僕の方に向けた。 そして、僕が出してきた機械を見て…言った。 「…お前…スゴいの使ってんだな…」 「あ、これ…?」 僕の音源作成の手法は… ハッキリ言って10年前のままで止まっていた。 学生の頃に、おもちゃ感覚で買った機械… 音源打ち込み用の、 いわゆるドラムマシンが進化したような機械と… それを録音してミックスする… いわゆる昔のMTR的な機械を… いまだに使っていたのだ。 PCを持っていないので、 進化しようが無かったのだ… 「20年前の人?」 「…そんなに…?」 シルクは起き上がって…その機械をマジマジと見た。 「これで…どーすんの?」 「いや…だって…皆に渡すには、CDにしなきゃなんないかなと思って…」 「…」 彼は、しばらく考えて… もう1つの、ドラムマシン的な機械を見て言った。 「それから直接PCに取り込めんじゃないの?」 「えっ…そうなの?」 「…PCあれば…の話だけどな…」 「…それが出来ないからしょうがない」 シルクは、続けた。 「…しょうがないなーウチのPCでやってやるよ」 「えっ…ホント!?」 「…うん」 彼は、のそのそと起き上がって… その機械を手に取った。 「うん…大丈夫と思う…何番に入れた?」 「あ、1番…電源入れたら自動的に出ると思う」 「…分かった…じゃ、コレ預かってく」 「…よろしくお願いします…」 そしてシルクは立ち上がって… 換気扇の下で煙草を取り出した。 「…しっかしお前…すげー入っちゃうのなー」 「…すいません…」 「いや逆に、すげーと思ったわ…サエもだけど…」 「…」 そして、しみじみ言った。 「ホントに…ミュージシャンなのかもな、お前ら…」 「…」 そんな風に言われて… 僕は内心、とても嬉しかった。 僕は、またゴソゴソと… その録音する方の機械を片付けると、 シルクの隣に行って、またハイボール缶を飲んだ。 「…ってことで、今日はもう終わりで大丈夫?」 「大丈夫…です…シルクのおかげで」 「じゃあ…」 言いながら彼は、煙草を消した。 そして、徐に…僕の身体を抱き寄せると、 堪え兼ねたような感じで、くちびるを重ねてきた。 「…んっ」 彼はまた、僕の口の中に舌を滑り込ませると… それを激しく僕の舌に絡めた。 「…んん…んっ…」 僕はすぐに、ポーッと…気が遠くなってしまい… ガクンと膝を折ってしまった。 そんな僕の身体を支えるように抱きしめると、 シルクはそのまま布団になだれ込んだ。 そして、僕の頬を撫でながら…呟いた。 「…ここでショウヤに可愛がられたんだろ…?」 「…うん」 僕は、少しだけ後ろめたい風に、頷いた。 シルクは、ニヤッと笑った。 「上書きしてやる…」 言いながら彼は、僕の上に覆い被さると… 再び激しく口付けてきた。 僕はまた…胸がキュンと熱くなった。 …シルクも、そんな風に思ってくれたんだ… なんなんだろうな… この、ホッとしたような気持ちは…

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