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撮影開始(1)

その日僕らは、前に撮影会をやった、 ショウヤ家所有の、廃墟スタジオに集まった。 もちろん、酒缶をいっぱい買い込んで行った。 「一応明日まで押さえましたから、ゆっくりしてってください」 「えーそんな事言われたら、ただの飲み会んなっちゃうよー」 「飲み会ついでで大丈夫です」 「じゃあ、とりあえず乾杯するか…」 ホントにとりあえず… 僕らはそれぞれ缶を手にした。 「じゃあ、これから始まるPV撮影…頑張ろうーっていう名目で…」 「かんぱーい」 「にゃー」 飲みながら… ハルトはワサワサと荷物を開いていった。 「どんな感じでやってくの?」 「撮影会と同じ感じです。まず、とにかく皆さん着替えてもらって…色んな場所で、色んな動画を撮っていきます」 「わーこれ、めっちゃカッコいい!」 サエゾウが、刑務官コスプレ衣装を見て叫んだ。 「あーごめんね、これ、サエんじゃないんだ」 「えーそうなのー」 「カイシル用…サエはこっちの、白と黒ね…」 「こっちもいいけど…後でこれ、着てみていい?」 「あー是非、着てみてください!それはそれで写真めっちゃ撮りたいです!」 さしあたり、ショウヤの指示のもと… 刑務官2人と、白いサエゾウ… そして黒い僕の、準備が整っていった。 「まず、2人が立ってる画と…黒カオさんと3人で立ってる画と…2人の間で白サエさんが弾いてる画…いきますね」 「ほーい」 「その後で、ひとりひとりも撮ります」 「…」 スゴいなー ショウヤさんの中では、 もう、完成のイメージが出来てるんだな… 持ち込んだスピーカーから、 割といい音量で、Deadの曲が流された。 そして、廃墟の一角に… 刑務官2人が、カッコよく佇んだ。 2人はまたスッカリ役者の顔になって… 意味もなくカッコつけていた。 その様子を、ショウヤは動画で撮っていった。 それから… 刑務官2人の間に、黒い僕が立たされた。 「黒いカオルさん、白いカオルさんを見下ろしてください」 ショウヤの指示が飛んだ。 えー誰もいないのにー? 思いながらも、一応やってはみた… 「…その床の模様とかを見るんじゃなくて…そこに、白いカオルさんが居ると思って…」 「…」 言われてる事はわかるんだけどね… 実際…模様しか見えないからなー 「見下ろすっていうか…見下す感じでお願いします」 模様は模様だからな… それを見下せって言われてもなー 「はあー」 隣でシルクが溜息をついた。 「ちょっとくらい、想像できないのかよー」 「…スイマセン…」 「…カオルさんは後回しだな…」 ショウヤが独り言のように呟いた。 「カオルさん、とりあえず休憩で大丈夫です。サエさん、お願いします」 あー とてもやんわり言ってくれてるけど… これは間違いなくダメ出しだな… 僕はすごすごと、ハルトの側に戻った。 「とりあえず飲んどけー」 ハルトは、ハイボール缶を差し出した。 「どうしよう…あんな風に演技出来ないんですよー」 僕は、項垂れながらそれを飲んだ。 向こうでは、白いサエゾウが、 本当に『白いサエゾウ』になり切って、 ギターを弾くフリを演じていた。 「そーだな…白を先にするべきだったかな…」 ハルトは小さく呟くと、 立ち上がって、ショウヤの側に行った。 そして、彼が手を止めた隙に…彼に耳打ちした。 「僕も、そう思ってた所です…」 ショウヤが小さい声で答えた。 ハルトは僕の元へ戻ってきて、言った。 「ごめんね、白から先にやるとこにした」 「えーーっ」 そして、白いシャツを取り出しながら続けた。 「こっちに着替えて」 「…」 そんなわけで… せっかく出来上がった『黒いカオル』から… 僕は『白いカオル』に作り替えられていった。 「白い方が、割と素でイケるからね…」 ハルトは言いながら… 落としたメイクを、また上塗りしていった。 「それでも、ちょっとは演技しないといかんなー」 「…」 「いったん誰かに姦ってもらうか…」 「…っ」 「呼んだー?」 さしあたりの撮影を済ませた白サエが、 意気揚々と、近付いてきた。 「…あー割と適任かもね…」 ハルトは再び立ち上がって、 ショウヤの所へ行った。 とりあえずショウヤは、刑務官2人の、 1人ずつのショットの準備を始めていた。 彼らは、何やらボソボソと相談した。 それからハルトは、ニヤニヤと笑いながら… こっちへ戻ってきた。 「それでお願いしますってさ…」 「…それでって…」 「白サエに姦ってもらっといてってー」 「やったー」 サエゾウが、目を輝かせながら叫んだ。 「若干、無理矢理な感じがいいってさ…」 「よっしゃー」 「…」 あーもう… やっぱりそんな流れですか…

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