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撮影2日め(3)

「あ、絡まないバージョンを撮ってなかった…」 サエゾウとカイに挿れられ… やや呆然と身体を拭かれていた僕の耳に、 そんなショウヤの更なる無責任な呟きが聞こえた。 「…」 「…だってさ、カオル、まだイケる?」 イケません… って言ったら止めてくれるんでしょうか…? 「とりあえず、いったんみんな着付け直そうねー」 言いながらハルトが、僕の側にきてしゃがんだ。 「も少しこのまま横になってる?」 「…はい」 ハルトは、ふっと微笑みながら僕の頭を撫でると、 立ち上がって向こうへいった。 そして彼は、他の3人様の着物を… テキパキと着直させていった。 ショウヤも僕の側にきた。 「すいませんカオルさん…無理させて…」 「…いえ…何とか大丈夫…です」 「僕が開発しちゃったばっかりに、カオルさんの消耗度が上がっちゃいましたよね…」 あー確かにそうだわ… イってもイってもキリがないんだもんなー 「…でも…気持ちいい…です…」 僕は、力無く言った。 ショウヤはそんな僕を見下ろして… たまらない気持ちになった。 「ありがとうございます…カオルさんの頑張りを、絶対、無駄にしないようにします…」 ショウヤは改めて、決意を新たにしていた。 「…カオル、起きれそうー?」 向こうから、ハルトが叫んだ。 「…どう…そうですか?」 「…」 僕はゆっくり身体を起こした。 ショウヤに支えられながら、 僕は何とか、立ち上がった。 「大丈夫です…」 そして僕は、ややフラつく足取りで… ハルトの元へ向かった。 「あー…激しく姦られちゃった感じに着崩れてる…」 「それはそれで…いい画だな」 ハッとなったショウヤが、 急いでカメラを持って、こっちへやってきた。 「ああ…ホントだ…」 うっとりと呟きながら、 彼は断りもなく、そんな僕の姿を… カシャカシャと、カメラに収めていった… 「気が済んだ?」 「あ…はい、すいません…」 そしてようやく、ハルトは僕の着物を着せ直した。 「今度はちょっとキツくするからね」 「…はい」 乱れた髪も綺麗に整えて… 僕の支度も無事終えた。 そして再び、僕らはカメラの前に立たされた。 「普通に、LIVEの感じでお願いします。1回で終わらせます!」 ショウヤはそう言って、カメラを構えた。 「これ終わったら…今日は終わりだ」 カイが小さい声で言った。 「…うん」 「がんばろーね、カオル…」 「…はい」 そして、本日既に10回めくらいの… 宵待ちの曲が、気持ち良く流された。 今日の最後か… ここでこの曲を歌うのは、これが最後か… そんな若干切ない気持ちも込めて、 僕は、丁寧に…歌い舞った。 「お疲れ様でしたー」 「ふうー」 今日はこれで終わったけど… 宵待ちは、まだ半分なんだよな… 動画の撮影って、大変なんだなー そんな事を考えながら… 僕は黙々と、衣装を脱いでいった。 「時間内に終わってよかったです…」 撮影機材を片付けながら、ショウヤが言った。 完全撤収の時間まで、30分近く残っていた。 ハルトは、皆が脱ぎ捨てた着物を、 丁寧に畳んで仕舞っていった。 着替えが済んだメンバーは、 手分けしてドラムセットやアンプを片付けた。 全ての片付けが終わる頃には、 もう撤収時刻が迫っていた。 そして僕らは、そのスタジオを後にした。 「疲れたな…」 「今日はどーする?まだ一滴も飲んでないよな…」 「なーんか、真面目にやっちゃったねー」 真面目に… ヤられちゃった感じもありますが… 「シルクんちでいい?荷物あるしー」 「いいよ」 ハルトの大荷物を、手分けして持って… 僕らは電車で、地元の駅まで戻った。 「じゃあ、買い出し組と、荷物運び組に分かれよう」 とりあえず、 シルクとハルトとショウヤが、全部の荷物を持って、 先にシルクの家に行くことになった。 カイサエ僕は、買い出し組になった。 「今日はシルクんもお疲れだからね…食べ物もいっぱい買っとこうー」 「そうだな…」 やがて僕らの買い物カゴは、 大量の酒類と、 大量の惣菜やつまみでいっぱいになった。 「ちょっと買い過ぎじゃないですか…?」 「だってお前がいっぱい食べるんじゃんー」 「サエさんに言われたくないですっ!」 「あははは、まー大丈夫だろ…足りないよりは残った方がいいし…」 中国の人みたいな文化ですね、このバンド… 僕らは、大荷物を下げて、シルクの家に向かった。 「…重ーい…荷物運び組の方がよかったなー」 サエゾウがボヤいていた。 そして僕らも、シルクの家に合流した。 バサバサと、買ってきたものがテーブルに並んだ。 そりゃーもう、置ききれないくらいの量だった… 「…どんだけ買ったんだ…」 シルクが呆れた顔で言った。 「だってカオルが食べたいってゆーから」 「サエさんでしょ!」 「まーとりあえず、乾杯しよう…」 カイが言った。 みんなそれぞれ、自分の缶を持った。 「今日もホントにお疲れ様でした…」 ショウヤが言った。 「おかげ様で、Deadは全て撮り終えました。宵待ちは、まだあと、ロケ撮影が残ってますが、今日は良い画をたくさん撮れました。それから…」 「…それ、長くなる?」 シルクが、ショウヤの挨拶を遮った。 「にゃー!」 その隙をついて、サエゾウが大声で言った。 「乾杯ー」 「かんぱーい」 僕らはようやく酒にありついた。 「…」 ショウヤは、ちょっとだけ… 不完全燃焼な表情に、なっていた。

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