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宵待ちのピクニック(4)

無事、撮影を終えて… 僕らはまた暗闇の中、私服に着替えた。 そして改めて乾杯した。 「いやー無事終わってよかった…」 「ショウヤお疲れー」 「編集が…大変だろうけどな…」 「いやもう、編集もめっちゃ楽しいんです!」 ショウヤが熱く語った。 「そうそう、また…裏作ってよ」 「何、裏ってー?」 「ショウヤが自分用に作った裏Deadがさー、めっちゃエロいんだよ」 「何それ、観たいー」 「あーもう…嬉しくてついつい、シルクさんに送っちゃったんですよね…」 「ありがたかったわー」 何ですかねーその裏ってやつは… 嫌な予感しかしませんけど… 僕らは、いつまでも盛り上がっていた。 持ち込んだ飲み物や食べ物も… ほとんど全部、たいらげてしまった。 「そろそろ解散にする?」 「そーだねー」 「いい加減騒いでると、通報されかねないからな…」 そして荷物を片付けてながら… サエゾウが、僕に声をかけてきた。 「ねーカオル…」 「…なんですか?」 「もうちょっと…ここにいてくれないー?」 僕はつい、反射的にシルクの方を見てしまった。 「えっ…でも…片付けとか、あるし…」 「別に、これ洗うだけだから…お前いなくていーよ」 シルクは、しれっと言った。 「…」 「じゃあいいじゃんーカイは?」 「俺はこれ、店に戻さなきゃいけないから」 言いながらカイは、クーラーバッグを肩にかけた。 「あ、じゃあ…俺もちょっと寄ってこうかな」 「お、いいよー」 ショウヤとハルトも、 自分の荷物をまとめながら言った。 「僕は帰って、早速編集したいです」 「俺も荷物多いから、元気なうちに帰る…」 「…」 サエゾウは、僕の肩に手を回しながら言った。 「もうちょっと、宵待ちの余韻に浸らせてー」 「…はい」 僕は答えながら… やっぱりシルクの方を見てしまった。 「お疲れ、カオル…弁当楽しかったな、また花見んときでも作るか…」 「…うん」 見つめる僕に、彼は笑いながら言った。 「何?…俺と一緒がいいの?」 「…ううん…」 僕は慌てて、首を横にぶんぶん振った。 「たまにはいいよね、シルくんー」 「全然いーよ」 「…」 そして僕らは辺りをすっかり片付けて、 それぞれの荷物を手に持った。 「じゃあ、また来週リハだな…LIVEも決まったことだし…あ、カオルの新曲もやってみよう」 「うん、じゃーねー」 そう言って僕らは、手を振って解散した。 カイと並んで歩くシルクは、 一度もこちらを振り返らなかった。 僕はずっとそれを、目で追ってしまっていた。 そんな僕を見て、サエゾウが言った。 「…ごめんねーシルくんと帰りたかったー?」 「…いいえ…」 僕は首を振った。 そして、サエゾウを振り返って静かに言った。、 「せっかくの宵待ち公園だから、僕もサエさんと一緒に、浸りたいです…」 「マジでー?」 サエゾウは、それを聞くと、 それはそれは嬉しそうに、僕に抱きついてきた。 「すげー嬉しいー」 彼は僕をギューっと抱きしめながら 小さい声で続けた。 「ウソでもいーよ…」 「…っ」 「ウソでも…お前がそんな風に、俺のこと気にかけてくれんのが、嬉しい…」 「…」 僕は、それを聞いて… たまらない気持ちになった。 僕らは、ベンチに並んで座った。 「今日は月…見えないねー」 「…それこそ、宵待ちの時間にならないと出てこないかも、しれませんね…」 「…いつぶりかなーお前と2人なのって…」 「…あの、デモ音源作ったときですかね?」 「あーそっかー」 サエゾウは、僕の手を握った。 「お前のおかげで、ホントに俺…充実してる…」 「…そう…ですか?」 「バンドが楽しくってしょうがない…」 「…」 「また、お前と一緒に曲作りたい…」 「…はい」 それから、サエゾウは…しばらく黙ってしまった。 何か、思う所があるのかな… 僕は時々、チラッと彼の横顔を覗き見た。 サエゾウは、何だかとても、 寂しそうな表情をしていた。 「あんまり楽し過ぎて…怖くなっちゃうんだよねー」 「…えっ?」 「これが、無くなったら…もう俺、生きていけない気がする…」 「だって、今こんなに、バンド充実してるんだから、そんな心配する必要ないんじゃないですか?」 「…ねー…そうなんだけどねー」 サエさんて、 妄想し過ぎて突っ走るタイプなのかな… 「いっそ今…このイチバン楽しいまんま死にたいー」 「ダメです!」 それを聞いた僕は、サエゾウの手を、 両手で強く握りしめながら、言った。 「サエさんがいないと困ります!サエさんが死んじゃったら、ものすごく悲しいです!」 「…」 「僕は、サエさんが大好きです。サエさんの曲もギターも、サエさんも!」 「…」 「…ずっと、サエさんと一緒にやりたいです」 「…」 サエゾウは、ふっと笑って… 小さい声で続けた。 「じゃあ…俺がまた、今みたいに寂しくなったとき…俺の側に居てくれる?」 「いつでも呼んでください…」 「ヤラしい事しても…いいの?」 僕は、微笑みながら… 彼の目を見つめながら、キッパリ答えた。 「ヤラしくなかったら…サエさんじゃないです」 「…」 サエゾウは、ちょっと泣きそうな表情で… 力強く、僕を抱きしめた。

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