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リハと新曲(1)

撮影の真っ最中ではあるが… LIVEが近いこともあり、 僕らは久しぶりに、普通にリハで集まった。 「何か、フツーにリハって久しぶりな気がするな」 「そーだねー」 セッティングしながら、 シルクとサエゾウが言い合っていた。 「カオルの曲、かけていい?」 カウンターの中からカイが僕に訊いた。 「…はい」 そして、僕が先日作った音源が…流された。 自分が作った音源を、大音量で流されるっていう… こればっかりは、何度経験を積んでも やっぱり小っ恥ずかしい… 「歌ってー」 「えっ…」 「歌も聞かないと、イメージ湧かないー」 「…」 ここの人達は、 もっと小っ恥ずかしいことを…求めてくるからなー 僕は致し方なく… その音源に合わせて歌った。 月の光の下で… under the moonlight 瓦礫に埋もれて、 愛する人形と一緒に燃えてしまうっていう… そして初めて結ばれるっていう… 可哀想だけど幸せな2人の歌だった。 「…熱そうだな」 「切ないなー」 「よくそんな、とんでもない状況を想定できるな…」 「人形…マネキンとか、好きなんです…」 「怖くない?」 「変なのー」 僕は、人形が好きだった。 いわゆるドール系も勿論好きだが、 特に、昔ながらの洋品店にいるようなマネキンとか、 それを使った案山子とか、大好きだった。 高校生くらいの頃に、 どこかの観光地の歴史館みたいな所で、 再現場面に立っていたマネキンに、本気でときめいて 何度もそこに通った事もあった。 「…変ですか?」 「そーね…ちょっと俺には理解できない」 シルクがキッパリ言った。 「あはははっ…」 カイが笑いながら、人数分のハイボールを出した。 「まあ、カオルの気持ちに寄せて…やってみよう」 「…」 「うん、カオル人形だったら、ちょっとわかるー」 「そーだな…」 「…っ」 僕らは小さく乾杯してから、 改めて、所定の位置についた。 「どーする…早速新曲からやってみる?」 「うん」 サエゾウが、少し考えながら言った。 「ちなみにさーこれ、ギター変えてみてもいい?」 「あー勿論です、どんどん変えてください。もともとチャチなギターの音しかない機材なので…何となくこんな感じ〜ってだけですから」 「わかったー」 「ドラムもベースも…遠慮なく変えてください」 「わかった」 「とりあえずやってみよう」 そして、カイのカウントから、曲が始まった。 サエゾウは、言った通り… 色々と試してみている感じに弾いていた。 僕が打ち込んだリフを… その、ねらいはそのままに… サエゾウがメロディアスに作り替えていく音が、 僕にはとても新鮮で、とても心地良かった。 さしあたり1回最後まで通してから、 カイが言った。 「3番のAメロは、ベースだけでいいんじゃない?」 「あ、それがいいかもしれないです」 「じゃあギターは、ソロで燃え尽きる感じにするー」 「3番はそれでいいけど、2番もちょっと変えたい感じがするな…」 「ドラムパターン変えるか…」 「いいね、それにベースも合わせる」 「じゃあギターは、リフじゃなくて、オブリ的にいれてみようかなー」 「あと…ちょっと思い付いたんですけど…」 「うん、何?」 「ギターソロ…後半の半分、キー1個上げてみたらどうかな…って」 「あーいいかも」 「その後の3番Aメロは、シュッと戻ると、更に落ちる感じになりそうな気がします…」 「それでやってみようー」 自分の作った曲を…この人達と一緒に、 そんな風にアレンジを加えていくれる作業が、 僕は、楽しくて嬉しくてしょうがなかった。 それぞれが色々試しながら… 何度もその曲を繰り返すうちに… 僕の中の、その曲の風景は、 どんどん鮮明になっていった。 やがて、僕は… 愛するマネキン人形と共に、 灼熱の炎に焼かれていった… そして、その人形と結ばれるがごとく… 彼らの演奏によって、身体を愛撫されていった。 何度目かの曲が終わって… 僕はまた、ブルブルと震えてしまっていた。 「いい感じになってきたんじゃないー?」 僕の様子を見て、サエゾウが言った。 「そーね…分かりやすいな」 「カオルのダメになり具合と、曲の仕上がり具合が一緒だからな…」 「…」 まーそうとも言いますねー 「一応もっかいやっとく?」 「そーだね、カオルが立ってられるうちにー」 「大丈夫だよな?」 シルクが僕に向かって訊いた。 あんまり大丈夫じゃないですけど… って…有無を言わさずに、カイがカウントを打ち… また曲が始まってしまった、 そしてそれが終わる頃には、 まさに歌詞通り、燃え尽きた僕は… いつものごとく、その場に崩れ落ちてしまった。 「よっしゃー休憩だー」 サエゾウが嬉しそうに、ギターを下ろして言った。

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