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聖地巡礼(1)

ショウヤから、LINEがきた。  宵待ち用の風景動画を撮りついでに  また散歩ご一緒してもらえませんか? あーまた、いっぱい歩くやつかー まあ、日頃の運動不足の解消のために、行くか…  いいですよ  いつですか? 僕は返信した。  明日金曜の夜…  ちょうど宵待ちのタイミングなんです  なるほど、わかりました そして翌日… 次の日のバイトが休みだったこともあり… 割と遅い時間に、僕らは出発した。 「どこまで行くんですか?」 「こないだの公園を含めて…あと3カ所くらい回りたいと思ってます」 …結構な歩数になりそうだな… 「いっぱい歩きます」 あ、そうだった… この人、エスパーなんだったっけ。 そして僕らは、さしあたり… 以前ショウヤと一緒に行った公園へ向かった。 この間とは違う道を通って、 それでも30分くらいは歩いただろうか… その公園の入口に差し掛かった。 「うーん…思ったより、明るいな…」 公園の真ん中に、広いグランドがあり… 大きな照明が爛々と輝いているせいで、 周りも、それなりに明るかった。 散歩するには、これくらいが丁度良い感じだけど… 「あの、池のある方はどうですか?」 「あっちは逆に暗すぎるんじゃないかな…とりあえず行ってみましょう」 そして僕らは、 ショウヤが昔ザリガニを採ったっていう、 池の方に向かってみた。 「…あー既に暗い…」 「…ちょっと…怖いですね…」 そっちは、ポツンとしか灯りがなく… 肝試し出来そうなくらいな暗闇だった。 「一応撮ってみるか…」 ショウヤは、ブツブツ呟きながら… カメラを回していった。 「あ、でも灯りの所は…割と良い感じかも…」 それからまた、池の淵まで降りて… 彼は水面にカメラを向けた。 「…カオルさん、手だけ…ちょっと水に触ってもらってもいいですか?」 「…やってみます…」 僕は、暗い池の淵ギリギリまでいって、 そこにしゃがむと…水面に向かって手を伸ばした。 僕の手が触れることで、 ほのかな灯りに照らされた水面が… キラキラと波立っていった。 「ああ…いい感じです…」 ショウヤがカメラを回しながら、言った。 「ここはこれで終わりにしましょう…」 そう言って彼はカメラを下ろした。 僕はすぐに立ち上がって、やや急かし気味に言った。 「怖いから、早く行きましょうっ…」 そんな僕を見て、ショウヤはクスッと笑った。 その公園を出て、 僕らはしばらく、明るい大通りを進んだ。 「…こっちの方に来るのは初めてです」 「ここを真っ直ぐ行くと、大きいお寺があるのは知ってますか?」 それは、地下鉄の駅名にもなっているお寺だった。 電車で行こうと思ったら、 わざわざ乗り換えなければいけないので、 とても遠いイメージだったのだが… 「歩いて来れる距離だったんですねー!」 「そうそう、以外に近いんですよ」 僕らは、ほどなく… その寺の正面階段の下に着いた。 「…初めて来ました…」 僕は、その階段を見上げた。 「行ってみましょう…」 階段を登っていくショウヤの後に続きながら… 僕は小さい声で言った。 「…できれば明るいときに来たかったな…」 「ふふふっ…」 ショウヤはまた笑った。 階段の上には、本堂までの広い境内が、 とても良い雰囲気を醸し出していたが… 何しろ、こんな時間なので… 僕はやっぱり少し怖かった。 ポツンポツンと、灯りは立っていたが… 場所がら…何が出て来てもおかしくない。 木々が鬱蒼と茂り… 本堂を囲むようにあちこちに建てられた塔や鐘楼が… 何もかも、怪しげに見えて仕方がなかった… 「うわっ…!!」 僕は、飛び上がって驚いた。 お堂かと思っていた1つが、 大仏様の像だったのだー それが暗い夜空を背に、 更に大きな黒い影となって、そこに聳え立っていた。 「釈迦如来ですよ…怖くないハズですよ」 ハッと気付いたら… 僕はショウヤの腕に縋り付いていた。 「…カオルさんって…怖がりなんですね…」 「…」 「折角ですから、お参りしていきましょう」 若干腰が引けている僕を、腕にくっつけたまま… ショウヤは本殿へと近付いていった。 そして、ショウヤはお賽銭を投げ入れると、 両手を合わせて、目を閉じた。 僕も彼と並んで、目を閉じて合掌した。 トキドルの皆と… ずっと楽しくバンドを続けられますように… 静かに顔を上げて横を見ると、 まだショウヤが両手を合わせていた。 何をお願いしてるんだろうな… ゆっくり目を開けた彼は、 僕の方を見て、微笑みながら言った。 「…内緒のお願いをしました」 「…」 何かもうー カメラ通してないのに、 読まれちゃうようになっちゃったな… 「…ここは、さっさと出ましょう…」 辺りを見回して、ショウヤはそう言うと、 いきなり僕の手を、しっかりと握った。 そして僕らは、しっかり手を繋ぎ合って… 早足で、境内を抜けて階段を駆け降りた。   「動画撮らなくてよかったんですか?」 ふと思い出して、僕は訊いた。 ショウヤは真面目な顔で答えた。 「…これ以上あすこに居たら、人間じゃない物に、カオルさんを持っていかれそうだったから」 「…」 僕は本気で背筋が凍った…

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