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聖地巡礼(2)

その寺を出て… 僕らはまた、また大通りをしばらく歩いていった。 大きな駅へ続くその通りは、 だんだんと賑やかになっていった。 「ちょっと休憩しましょうか」 「…そうですねー」 「じゃあ、軽く寄りましょうー」 「そうしましょう!」 そんな訳で僕らは、 通りからちょっと入った串焼き屋さんに入った。 割と遅い時間にも関わらず、 店内は、ほぼ満席だった。 僕らはいつも通りに… ハイボールとレモンサワーで乾杯した。 「夕飯食べたんですか?」 「…まだです」 「好きなの頼んでください…ってか、もっとご飯ものがあるお店の方がよかったですかね?」 「いえいえ…全然大丈夫です」 「すいませーん」 僕は、店員さんを呼んだ。 「えーと…コメカミ、タン、ガツ、ネギマ…あ、ショウヤさんも食べます?」 「タンとネギマは食べます」 「タンとネギマは2本で、あとは1本でいいです…あとスパイシーチキンと、牛肉コロッケ…あとおでんの大根と昆布を2個ずつ…あ、パリパリきゅうりもお願いします」 「…」 「ショウヤさんは?」 スラスラと注文を捲し立てる僕を、 半ば唖然として見ていたショウヤは… ポカーンとしながら、答えた。 「…とりあえず…それで大丈夫かと…」 「じゃあそれで、お願いします」 「はーい、少々お待ちくださーい」 そして店員さんは、 元気良くオーダーを、カウンターに向かって叫んだ。 「…」 呆れ顔のショウヤに向かって、 僕は言い訳のように言った。 「ホッとしたら、なんだか急にお腹が空いて…」 「ああ…なるほど…」 そして彼は、また思い出し笑いながら言った。 「カオルさんって、ホントに怖がりだったんですね」 「あーもう…すいません…」 「いえ、スッゴく可愛かったです」 「…」 僕は若干顔を赤くしながら、ハイボールを飲んだ。 「…ちなみに、さっきお寺でショウヤさんが言ってたのって…どういう事なんですか?」 「…」 ショウヤもレモンサワーをゴクゴク飲みながら… 真剣な表情になって、答えた。 「あの奥には、割と広い墓地があるんです…」 「…」 「だから、それなりに、色々集まってるんですよ」 「ショウヤさんって…見える人なんですか?」 「時と場合によりますけどね…」 「…」 「でも、さっきはホントに…カオルさんを狙ってる妖気とか霊気を、いくつも感じたんです」 「……」 そして彼は、 グラスに残ったレモンサワーを飲み干しながら、 ニヤッと笑って続けた。 「向こうの人達にとっても、カオルさんは魅力的なんだなって…よくわかりました」 「…っ」 そんなもん… 一生わかんなくていいわー 僕も、ハイボールを飲み干してしまった。 やがて、狭いテーブルは料理で埋まり… おかわりも頼んで、 僕らは、他の明るい話をしながら、 楽しく飲み進めた。 「またLIVEあるんでしたよね?」 「あーはい…」 「またKYさんのイベントなんですって?」 「…そうみたい…です」 ショウヤは、誰もが言い出し辛いであろう事を… しれっと訊いてきた。 「また、アヤメさんに処理されちゃうんですかねー」 「…それは…どう…ですかねー」 彼は、特に何でもない風に…続けた。 「もっと、手玉に取ってしまえば良いと思います」 「…」 「あの人のオーラもすごいですけど…カオルさんは全然負けてないですから」 「…」 そんな風に言ってくれるのは嬉しかったけど… 残念ながら、自覚は全く無かった。 それに… またきっと…シルクに嫌な思いをさせてしまう… 僕は、思わず…目を伏せてしまった。 そんな僕を見て… ショウヤは少しだけ寂しそうに… でも、穏やかに…微笑みながら続けた。 「大丈夫ですよ、他の皆の気持ちも、僕はよく知ってますから」 「…」 僕は、ハッとして…ショウヤを見上げた。 「皆さん、カオルさんの事を誇りに思ってます」 「…」 「色んな意味で…むしろアヤメさんに見せつけてやりたいと、思ってるハズです」 「…色んな意味って…」 「正々堂々、処理されて大丈夫ですよ、きっと…」 「…」 ショウヤにそんな風に言われて… 僕はとても心強かった。 この人の存在は、すごいな… この人無しに、トキドルの僕は、あり得ない。 僕は本気でそう思った。 「すいませーん、おかわりくださいー」 珍しくショウヤが、声を張り上げた。 「レモンサワーと…カオルさんもおかわりします?」 「あ…はい」 「ハイボールも…あと、ポテトサラダと赤ウインナー串2本、追加でお願いします」 「…」 なんだ、どーしたんだ? 何か急に勢いついちゃったぞ… 「僕は…トキドルと出逢えて…カオルさんと出逢えて、ホントに幸せです」 改まった感じで、ショウヤは… とても熱い口調で、そう言い切った。 「僕も、ショウヤさんと出逢えて、よかったです…」 若干、圧倒された感じで… 小さい声で、僕も答えた。 「…知ってます」 あ、そっか… それでスイッチ入っちゃったのか… ショウヤは、目をキラキラ輝かせて… 僕をじっと見つめながら、力強く頷いた。

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