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聖地巡礼(3)

ちょっと休憩のハズが… 結局、ラストオーダーまで居座ってしまった。 だいぶ飲んでしまった… 店を出た僕らの足取りは… 若干…いや、割と相当フラついていた。 「最後に、こないだの公園寄りたいです…」 「あ、宵待ちの聖地ですね…」 こんな酔っ払いで、動画撮れんのかな… なんて思いながらも… 僕は、既に深く考える事ができなくなっていた。 ドンッ… フラフラ並んで歩いていた、 2人の肩がぶつかった。 「あーすいません…」 「あーもう…危ないから、掴まってください」 フラフラで危ないからって言い訳で、 僕らはしっかり手を繋いで、再び歩き出した。 「あっ…」 ふと、上を見上げたショウヤが叫んだ。 「宵待ちの月だ…」 僕もすぐに顔を上げた。 そこには… あの日、サエゾウと一緒に見上げたのと同じ… 下弦に少し欠けた月が、昇っていた。 「…まさに、コレです…」 ショウヤは…握った手に、力を込めた。 「ああ…本物の宵待ちの月を、こうしてカオルさんと一緒に見上げることが出来るなんて…」 しばらく歩いて… 僕らは、先日撮影をした、聖地の公園についた。 「…本当の、聖地巡礼だ…」 呟きながらショウヤは、僕からそっと手を離すと… やや覚束ない手付きで、カメラを構えた。 誰もいない、夜の公園の… まさに、鬱蒼と伸びた木々の間から… 木漏れ月の影が、鮮やかに浮かび上がっていた。 ショウヤは、夢中になってカメラを回した。 「これが…あの曲の世界なんですね…」 「…はい」 「…来れてよかった…です…」 そう呟く彼の目には… 感極まってか、涙が溢れていた。 「月に向かって…手を、伸ばしてもらえますか?」 「…」 僕は、言われるがまま…両手を伸ばした。 ショウヤは僕の周りを動きまわりながら、 それを撮影していった。 ひとしきり撮り終えると… 彼はカメラを下ろして、僕の背後に静かに立った。 「…今だけ…あの宵待ちの人の『君』に、ならせてください」 そう言いながら… ショウヤは、僕の身体を…背中から抱きしめた。 「…」 僕は、胸をキュンとさせながら… ゾクゾクと身体を震わせた。 それはまさに… 心地良い眩暈に包まれ… 飲み込まれていく感覚だった。 「カオルさん…愛してます…」 「…っ」 僕の胸に、また… 寒気に似た戦慄のようなものが走り抜けた。 それは決して、不快な感覚ではなかった。 「…ショウヤ…さん…」 返す言葉に詰まった僕に、彼は続けた。 「大丈夫です。答えは聞いてません…」 言いながらショウヤは… 僕を抱きしめた腕に、更に力を込めた。 「…僕も…ショウヤさんが…好きです」 僕は、小さい声で言った。 「…知ってます」 彼は、僕の肩に顔を埋めたまま…答えた。 僕自身でさえ、実はよく分かっていない、 僕の本当の気持ちを… ショウヤはおそらく、知っているのだ… 僕は、身体を捩らせて… 彼の両腕をほどきながら、後ろを向いた。 そして、ショウヤの目を見つめながら… 半ばムキになって、言った。 「…ホントです!」 「…」 彼はほんの少しだけ寂しそうに… でも、とても愛おしそうに、穏やかに…微笑んだ。 「ありがとうございます…今はそういう事に、させといてもらいます」 言いながらショウヤは… 今度は正面から僕をしっかり抱きしめた。 僕も、彼の背中に腕を回した。 宵待ちの月の下で… 僕らは、どちらからともなく口付けた。 それから僕らは、公園を出て、 また、若干フラつきながら… しっかり手を繋いで、歩き続けた。 そして… 僕のウチが、近付いてきてしまった。 いや勿論、 同時にショウヤんちも近付いてはいるのだが… 「ショウヤさん…今日は具合悪くないですか?」 僕は…そう…切り出してしまった。 ショウヤは、 クスッと含み笑いながら、答えた。 「…ちょっと悪いです…もう歩けないかも」 「…」 「カオルさんちで、休ませて貰ってもいいですか?」 「…」 僕は、その台詞を聞いて… ホッとしたように嬉しかった。 たぶん僕は、 ショウヤにそう言わせたかったのだ… もっと一緒にいたかった。 要は、ショウヤと…ヤりたかったのかもしれない… 「…前よりも散らかってますけど…」 「大丈夫です」 ほどなく、僕の部屋のあるビルに着いた。 僕らは静かに階段を上った。 鍵を開けて…部屋に入り、 扉がバタンと閉まった。 途端に… ショウヤが、思い切り僕を抱きしめてきた。   そして僕の顔を両手で押さえると、 もう我慢できない風に、激しく口付けてきた。 「…んんっ…」 それは…間違いなく、 あの…別人格のショウヤの口付けだった… …いつの間にスイッチ踏んだ?! 「…ん…んんっ…」 激しく口を責められて、 震える僕の膝は、ガクンと落ちてしまった。 ショウヤはニヤっと笑って…僕の身体を支えると、 そのまま部屋に上がり込んだ。 電気もつけずに、勝手知ったる感じで… 敷きっぱなしの布団に、僕を投げ倒した。 そしてゆっくり、僕に顔を近付ると… ニヤッと、いやらしく笑いながら囁くように言った。 「…カオルさん…ズルいなあー」 「…」 あーそっか… それでか…

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