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因縁のLIVE(1)

あれからまた、楽しいリハを経て… またも、アヤメさん企画イベントのLIVEの日がきた。 「またよろしくお願いします」 「こちらこそ、楽しみにしてる…よろしくね」 僕らは何事もないように、アヤメに挨拶をした。 今回、僕らの出番は、トップだった。 アヤメさん率いるKYは、もちろん最後だ。 「なんかこの順番からして、ヤル気満々じゃん」 シルクはボソッと言っていた。 「…」 「ま、いいんだけどね…最初からそのつもりだから」 とても不安そうな表情の… 僕の頭をポンと叩きながら、彼は続けた。 「そっちでもしっかり本番してきてー」 サエゾウも笑いながら言った。 …そんなの無いに越したことはないんだけどな… 僕は、何とも言えない、 引き攣った感じに笑った。 恙無くリハを終え、 他の皆は、楽屋で準備を始めていた。 ジャンケンに負けた僕は、皆分の飲み物を買いに… ちょっとだけ外に出ていた。 買い物を終えて、会場に戻ってきた僕の側へ、 アヤメが…スッと近寄ってきた。 「今日もよろしくね…お前の歌、楽しみにしてる」 「よろしくお願いします…」 僕は、何事もないように答えた。 彼は僕の耳元で…とても小さい声で、続けた。 「…また、倒れたら介抱していいの?」 「…」 僕は内心、ドキンとしながら… 努めて冷静に…答えた。 「…はい…そのときは、是非よろしくお願いします」 それを聞いたアヤメは、ニヤッと笑って… 僕の肩にそっと触れると、サッと僕から離れた。 あー やっぱり…そうなっちゃうのか… 僕は、買ったハイボール缶を1本取り出すと、 その場で開けて…ゴクゴクと飲んだ。 そして、若干重い足取りで…楽屋に戻った。 「おかえり、カオルー」 「…」 僕は黙って、飲み物缶の入った袋をその辺に置いた。 「さんきゅー」 サエゾウが、早速1本取り出した。 「カオル、これ終わったら顔描くから、先に着替えといてねー」 ハルトが、シルクの髪をセットしながら言った。 僕は黙って、モソモソと着替え始めた。 「…」 その様子を見て…シルクが言った。 「あいつ…なんだって?」 出た… 何でいっつも、分かっちゃうんだろうー 僕はまた、観念して言った。 「…よろしくお願いしますって…言っちゃいました」 シルクはそれを聞くと、 何でもない風に笑いながら言った。 「うん、想定通りだな」 カイも続けた。 「むしろ、頑張ってこいよ」 「…はい」 僕は力無く、返事をした。 「…」 何かちょっと… 静かになってしまった… 「もうー、皆さあ…とりあえず、そっちよりLIVEの心配しなさいよー」 言いながらハルトが、僕に近寄ってきた。 「はい、座って」 「…」 そしてハルトは、僕の顔を描きながら、続けた。 「まずは本番で見せつける…その後、カオルが更に思い知らせてやったらいい」 「…」 「偉そうにしてるあの人より…ウチらの方が上だってことをね…!」 「ハルト怖っ…」 「そこまでは思ってなかったわ…」 「…」 「大丈夫…ほら、鏡見て…」 僕はハルトに言われるがまま… 鏡に映る自分を見た。 僕はまた…誰?ってなっていた。 「スゴくカッコいいでしょ?カオルはスゴいんだよ…ものすごーくスゴいんだよ…」 「…」 うん 確かにカッコいいと思う… 「今日ここに出る誰よりも、カオルはスゴい…」 「…」 そうかな… 「ホラよく見て!カオルが誰よりいちばん美しい…」 「…」 …そうかも ハルトはまるで、白雪姫に出てくる魔法の鏡のように 繰り返し僕に、呪文のように囁いた。 「悪いお妃みたいだな…」 「あんなんでスイッチ入ったら、相当単純だよねー」 「ふふっ…入るかもな…」 シルクが、可笑しそうに笑いながら言った。 僕は、鏡を見ながら…ニヤッと笑った。 ハルトがすかさず続けた。 「…あーもう、カオルのその美しくて妖しい笑顔を向けられたら、みんなイっちゃうわ…」 「…」 「そろそろ時間になりますので、セッティングお願いします…」 会場のスタッフさんが、 ちょうどそこへ声をかけに来た。 たまたま入口近くにいた僕は、 スッと彼の方を向いて…同じ笑顔で答えた。 「わかりました…」 「…っ!」 そのスタッフさんの表情が、一瞬固まった。 まるで、蛇に睨まれた蛙…というか、 ライオンに睨まれたウサギちゃん…というか… 「…よ、よろしくお願いします…」 彼はバタバタと、出て行った。 「…」 「なんかビビってたな…」 「カオル怖いー」 言いながら…カイとサエゾウは、 ゆっくり立ち上がってステージに向かった。 ハルトは、僕の肩を両手で押さえながら言った。 「ほらねーカオルは誰よりもイチバンだって、よく分かったでしょ?」 「…」 僕も、スッと立ち上がった。 シルクが、そんな僕の肩に手をかけた。 「俺にもパワー分けて…」 言いながら、彼はシュッと僕に口付けてきた。 「さんきゅ」 口を離れると、 シルクもステージに向かっていった。 ハルトが、最後に僕に…強い口調で言った。 「…蹴散らしてきなさい」 大きく頷いて… 僕もステージに向かった。

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