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因縁のLIVE(2)

僕はステージにスタンバイした。 なんだろう… いつものように独特の緊張感はあるものの、 ハルトの呪文のおかげで、ちょっと違う気がした。 そして、ゆっくりと幕が上がった。 だんだんと、客席の様子が目に入ってきた。  いつもの女子たち… いつもの派手な2人組もいた。 ハルトと、カメラを構えたショウヤ… そしてまた、真正面にアヤメさんと、 KYの他のメンバーもいた。 僕は、ニヤッと笑って彼らを見下ろした。 その瞬間に、サエゾウが… Deadのイントロを弾き始めた。 そこから凍り付くような空気感が漂い… それは見えないオーラとなって、 僕の身体に纏わりついてくる気がした。 そして… カイのドラムとシルクのベースが入った途端に 僕の目の前の客席は、 あの…撮影を行った廃墟に変わった。 彼らの演奏は、黒い僕の指になり舌になって… 僕の身体を熱く沸き立たせた。 僕は泣き喘ぐように歌った。 ギターソロになると、サエゾウが豹変した。 黒く残酷な彼は、僕だけでなく、 そこにいる全ての人たちを、 その演奏で犯していくようにさえ思われた。 その背後で、カイとシルクが… 冷酷にリズムを刻み続けていた。 …この人たちは、ホントにすごい… 完全にDeadの映像の世界にいながらも、 僕は微かに、そう思った。 曲が終わっても、その余韻に… 誰もが、うっかり拍手をするのを忘れていた。 そしてまたすぐに、 会場は次の曲の世界観に包まれた。 「今日もありがとねー」 そんな勢いで、3曲すっ飛ばしたあとに、 何事もなかったかのように、サエゾウが喋った。 パチパチパチパチ… 「サエー」 「カーイー」 「シルクーん」 「カオルー」 あ、よかった…呼んでもらえたー 僕は、ハアハアと息を上げながら… 客席を見て、またニヤッと笑った。 「キャー」 「カオルー」 「なんか…カオルさん、いつもと違くないですか?」 ショウヤがハルトに囁いた。 「調子ん乗ってるなー」 ハルトは、ふふっと笑った。 「…すげーなあいつら」 KYのメンバーが、アヤメに言った。 「だろ?」 アヤメも、ニヤッと笑いながら答えた。 「今ねーPV作ってるから、楽しみにしててねー」 「ヤバい動画ね」 「そーそーめっちゃヤバいからねー」 「動画でもこいつイっちゃってるから」 シルクが僕を指差して言った。 「ちなみに俺がイかせたからー」 すかさずサエゾウがいやらしく言った。 「キャー」 「ヤバいー」 歓喜の悲鳴が湧き起こった。 いいのかそんなんバラして… 「じゃあ、まずはコイツの作った新曲とーあとはその、PVの曲いくからねー」 「…皆、どこまで本当だと思ってるんでしょうね」 ショウヤがまた呟いた。 「はははっ…どうだろうねー」 そして、新曲が始まった。 僕の目の前に…瓦礫の山の景色が広がり、 僕は愛するマネキンとともに、炎に包まれていった。 「うわーまたエグい曲ですねー」 「なー、あいつの頭ん中ってどうなってんだろ…」 ショウヤはカメラを構えながら… 先日の、お寺で怖がる僕を思い出して、少し笑った。 そして真夜庭…宵待ちと、曲が続いた。 レコーディングと撮影で、 何度もイかされた彼らの演奏が… いつも通り…いやむしろいつも以上に、 僕の身体を侵食していった。 僕はまた、フラフラになりながら歌い舞った。 宵待ちのエンディングで… 僕はその場に崩れ落ちた。 ふと前を見ると…前回泣いてくれていた女子が、 またタオルで顔を覆っていた。 「…」 僕は…それを見て… 胸がいっぱいになった。 「今日もホントにありがとうねー」 「また来てね」 サエゾウとシルクが、最後のMCを喋った。 「カオルちゃん大丈夫?」 「…」 僕の目から、涙がポロッと溢れた。 「キャー」 「カオルー頑張ってー」 「あーもうー何泣いてんのー」 サエゾウが、手を伸ばして、僕の涙を拭った。 「キャー」 「あああー」 また歓喜の悲鳴が響いた。 「アレってそーいう演出なの?」 またKYのメンバーが、アヤメに言った。 「いや…素だろ?」 彼はそう言ってまた笑った。 「じゃあ今日は、この曲でお別れねー」 サエゾウの掛け声に続いて、 カイがカウントを出した。 そして…神様の演奏が始まった。 ああ…ホントに… 何て曲なんだろう、コレは… すぐに身体を撃ち抜かれながら… 朦朧として、僕は思った。 僕は必死に立ち上がって… 彼らの音の愛撫を愉しみながら、歌った。 そしてまた…僕はアヤメの手を取った… 例のあの笑顔で。 遠目に見えたアヤメは、 少し震えているように思えた。 僕は更に彼に視線を突き刺した。 「…ヤバいな…」 「え?何か言った?」 「…いや」 アヤメは、本当に震えていた。

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