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因縁のLIVE(5)

「カオル…まだ終わんないのかなー」 自分推しのお客を見送って、 サエゾウがシルクに声をかけた。 「…大サービスしてんじゃないの?」 「それにしたって…もうアヤメ楽屋に入ってなきゃいけない時間じゃない?」 そう言ってサエゾウは、 カイと喋っていた、リクとヒカルの所にいった。 「いつもありがとー」 「あっ…サエさん!すーごいカッコよかったです!」 「ギターソロ、マジで痺れましたー」 「…」 シルクは、それを見ながら、しばらく考えると… 1人で楽屋に戻った。 KYのメンバーが、絶賛準備の真っ最中だった。 当然、アヤメもそこにいた。 シルクは静かに彼に近付いた。 そしてとても小さい声で訊いた。 「あいつは?」 アヤメは、少し驚いて振り向いた。 「まだ戻ってない?」 シルクは頷いた。 「事務所に寝かして、見ててくれるよう頼んだんだけど…さすがにもう起きてると思ってた…」 シルクの胸に、 何ともいえない不吉な予感が走った。 彼は慌てて楽屋を飛び出した。 それを見て、アヤメも手を止めて立ち上がった。 シルクは、急いで階段を駆け上った。 僕がいる筈の事務所のドアの向こうから… 複数の話し声と、荒い息遣いが聞こえてきた。 それを聞いたシルクの胸が、 ギュッと締め付けられた。 彼は、そのドアを勢いよく開けた。 「…っ」 目の前の光景を見て… 彼は一瞬固まってしまった。 バタバタと階段を上る音がして、 シルクの後ろから、アヤメが覗き込んだ。 「…何やってんだよ、お前ら!」 アヤメは2人に向かって怒号を浴びせた。 「…っ…」 「…すいません…」 2人は、慌てふためいて… すごすごと僕の身体から離れた。 「…」 シルクは、殴りかかりたい気持ちを必死に堪えて… 静かに僕に近寄ってきた。 そして、僕の目隠しと、口のテープを外しながら… その2人に背を向けたまま…言った。 「…何か言う事ないのかよ…」 彼は、静かな口調で続けた。 「すげー悦かったんだろ…?」 「すいませんでした!」 2人は、勢いよく、頭を下げた。 「お前ら出禁ね…さっさと消えろ」 アヤメが、とても恐ろしい口調で静かに言った。 2人は、バタバタと出て行った。 「…カオル?…大丈夫か?」 「…」 僕は、力無く…シルクを見上げた。 「…大丈夫…ちゃんと、気持ち…良かった…」 「…っ」 僕は、無表情のまま…小さい声で続けた。 「…何回もイっちゃった…」 「…」 「…合ってるよね…それでいいんだよね…?」 「…」 「…僕は…玩具なんだから…」 それを聞いたシルクは、 たまらなくなって、俯いた。 「ホントにごめん、申し訳ない…」 アヤメが、その場にしゃがみ込んで、 頭を、床に擦り付けるくらいに下げながら言った。 「俺が迂闊だった。まさか、あいつらがこんな事するとは思わなかった…」 「…」 シルクは、アヤメを振り返る事なく…静かに言った。 「大丈夫ですよ…こいつも気持ち良かったって言ってるし…何にも気にしないでください」 「…」 アヤメは少し頭を上げた。 「早く行かないと…本番始まっちゃいますよ…」 「…」 アヤメは、もう一度、深々と頭を下げると… 立ち上がって、静かに部屋を出て行った。 「…カオル…」 シルクは、僕の身体を抱きしめながら…言った。 「ごめん…またお前に…辛い思いをさせた…」 「…」 彼の声は、震えていた。 「…ホントに…ごめん…」 肩を震わせて…シルクは泣きながら… 僕を抱きしめ続けた。 「…何…泣いてるの?」 僕は、そっと…シルクの顔に触れた。 「…僕は…全然大丈夫…だよ?」 そう呟いた僕の顔を、いったん見下ろしてから… 彼は再び、僕をギューっと抱きしめた。 そして…とても小さい声で言った。 「…閉じ込めたい…お前を…俺ん中に…」 「…」 僕は嬉しかった… 知らないやつらに姦られた辛さを掻き消すほど、 シルクがそんな風に言ってくれることが… 僕にはとても嬉しかった。 僕は黙って…シルクの背中に手を回した。 バタバタと、階段を上がる音がした。 「カオルー!」 「…」 サエゾウとカイが、続けて入ってきた。 「アヤメさんから聞いた…」 「…っ」 2人は、僕らのそばに駆け寄ると… とても心配そうに、僕の顔を覗き込んだ。 僕は、彼らに向かって微笑んだ。 憔悴してはいたが… 僕の表情は清々しかった。 「…ホントに…強くなっちゃったんだな…お前…」 僕の顔を見ながら、シルクがしみじみ呟いた。 「ちゃんと…アヤメさんにも…したからね…」 僕は、力無く…でも、キッパリと言った。 「…」 シルクはまた、僕を力強く抱きしめた。 「カオル…偉かったねー…辛かったねー…」 泣きそうに震える声で言いながら、 サエゾウは、僕の身体をきれいにして、 ちゃんとズボンも履かせてくれた。 カイは、そんな僕らの様子を見ながら… 小さく身体を震わせていた。 そして、吐き捨てるように言った。 「見届けてやるか…あいつらのステージ」 「…うん」 「…」 「たぶん…もう見ることも無いだろうからね…」 シルクとサエゾウも頷いた。

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