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因縁のLIVE(6)

「カオルさん!」 シルクに支えられながら会場に戻った僕に… 先に事情を聞いたショウヤとハルトが、 一目散に駆け寄ってきた。 「座ってなー」 言いながらサエゾウが、端に並べられていた椅子を 僕の所に持ってきた。 シルクが僕をそこに座らせた。 ハルトはしゃがんで、僕の顔を覗き込んだ。 「…頑張ったんだね…」 「…はい…」 「…」 ハルトは、たまらないような表情で… 僕の頭をしっかりと抱きしめた。 ショウヤも、僕の手を…ギュッと握った。 この人たちに、こんな風に大事にしてもらえる事が… 僕は改めてありがたかった。 身体は疲れていたが… 僕の心は、本当に…温かくなっていた。 「…始まるな」 顔を上げると… 目の前に立つカイの、しっかり握った右手の拳が、 ブルブルと震えているのが目に入った。 「…」 僕はそれを見て… また、たまらない気持ちになった。 ほどなく、会場が暗くなり… 突き抜けるようなドラムの爆音から、 KYのLIVEは始まった。 そして会場は、 一気に彼らの演奏の世界に塗り潰されていった。 やっぱりすごい… 座っていたので、姿は見えなかったけど… 彼らの演奏は、 僕の身体に…容赦なく降りかかってきた。 だけど… 何だろう…? この前、初めて聞いたときほどの衝撃が…無かった。 アヤメのギターの音が… なんていうか…この前とは違って聞こえた。 迷ってるっていうか… 動揺してるっていうか… とにかく、この前みたいな、 押し付けがましいくらいの勢いが… 全然感じられなかった。 酷い言い方をしたら… 学園祭の、ちょっと上手い高校生みたいな… 全く、音に何も込められてない、 ただただ、間違えずに弾いてますーって感じだった。 「…」 僕は、ゆっくり立ち上がった。 それに気付いたシルクが、 また僕の腕を支えてくれた。 僕はアヤメを見た。 「…」 見た目にも… この前のような力強いオーラが、 これっぽっちも感じられなかった。 そのギターの音が、 僕を震わせることも…全く無かった。 「…どうしちゃったのかな…アヤメさん…」 僕は曲の合間に、小さく呟いた。 「カオルに姦られちゃったんだよー」 「魂全部持っていかれたな…」 カイとサエゾウが、やはり小さい声で言った。 シルクが真面目な顔で言った。 「むしろ可哀想になってきた…」 「…」 「俺らだって…油断してたら、全部お前に持っていかれる…」 「確かにー」 「ははっ…ホントだよな…」 そんな自覚はこれっぽっちも無いですけど… 「そっか…トキドルの皆は、カオルに負けない強さを持ってるんだね…」 ハルトがしみじみ言った。 「はい…」 ショウヤが、力強く答えた。 「この4人だからこその、トキドルなんです…」 「そーなんだね…何かすごく、わかった気がする…」 そして僕は、 シルクに寄り添ったまま… 彼らのステージを見届けた。 終わって…アンコールがかかったが… 彼らはそれに応えることはなかった。 「何か調子悪かったねー」 「アヤメ、どうしたのかなー」 ファンの子達がザワついていた。 「ねーそういえば最初のバンド見た?」 「見た見たーめっちゃ良かったー」 「えー何てバンド?」 「この前も出てたよねー」 「TALKING DOLL…通称トキドルーよろしくねー」 すかさずサエゾウが、 その彼女たちの会話に割って入っていった、 「あ、ギターの人だー」 「マジで?…めっちゃカッコいい」 「こっちにメンバーいるよー」 彼は僕らの方を指差した。 「あーホントだ」 「ヤバいボーカルくんもいるー」 彼女たちは、ワラワラと僕らの方に近寄ってきた。 「何?俺らのことも見てくれてたの?」 シルクが営業用の顔になって言った。 「見ましたー」 「めっちゃカッコ良かったですー」 「今度いつやるんですか?」 シルクとサエゾウは、 言葉巧みに彼女たちを、次のLIVEに誘っていた。 僕はうっかり、それをボーッと見ていた。 「ボーカルくん、ヤバかったですー」 その中の1人が、僕に向かってきた。 「…えっ…あ…ありがとうございます…」 「…えー何か、歌ってるときと違うー」 「ホントに同じ人?」 「そーなんだよねーこいつ、歌うときと喋るときのスイッチが、全然違うのよー」 サエゾウが言った。 「変なのー」 「ヤバっ…面白過ぎる…」 「…」 「よかったら、また会いに来て…」 最後にカッコよく、カイが出ていった。 「あードラムもめっちゃよかったですー」 「絶対また行きますー」 「PVも、もうすぐ出来るから見てねー」 「あっ…あの…よかったら写真集もありますっ…」 ショウヤも横から叫んだ。 「えーマジでー?」 「見たいー」 「これ…見本ですけど…ちょっと見ます?」 ショウヤは鞄から、自分用の写真集を取り出した。 「うわーめっちゃ良いー」 「どれどれ」 「私も見たいー」 それまで話に入っていなかった、 他のKYファンの子も、それにつられて寄ってきた。 「これだけでも良くない?」 「うん…欲しいかも…」 「次のLIVEで、また販売しますので、是非よろしくお願いします…」 「ホントですか?」 「予約しとこうかな…」 「えー演奏も見てよー」 「あはは、そうですよねー」 「見ます見ますー」 僕は、そんな彼らの営業風景を、 すごいなーと思いながら、ずっと見ていた。 そんな僕の肩を、 ハルトがそっと叩いて言った。 「カオルがものすごく頑張ったからね…皆も頑張ってるんだよ…」 「…」 「奪えるモノは奪っていかなきゃね…」 そう言うハルトは また、とても怖い顔になっていた…

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