166 / 398

因縁のLIVE(7)

KYを観にきていながらも僕らに興味を持ってくれた、新しいお客さん達を… まるで自分たちのお客さんのように見送ってから… 僕らは楽屋に戻った。 カイは、精算を兼ねて… 店のスタッフと話をしてから…僕らと合流した。 全ての片付けも終えて… 僕らは荷物を手に、楽屋を出た。 「じゃあ行くか…」 「一応挨拶した方がいいんじゃないの?」 「…」 何となく、どうしようかーって思っていた僕らの所へ アヤメが近付いてきた。 「…お疲れ様でした。ありがとうございました」 カイが彼に、事務的な口調で言った。 アヤメは僕らに向かって、深々と頭を下げた。 「今日は本当に…申し訳なかった」 「…」 そして、茶封筒を差し出しながら続けた。 「今日の出演料は、お返しする」 カイは、少し考えてから…冷静に言った。 「それって…ウチのボーカルの使用料とか慰謝料とかってことですか?」 「…」 アヤメは黙ってしまった。 「どーよ…カオル」 カイが、僕に訊いた。 僕は少し考えて… そして冷静な口調で答えた。  「…要りません。お願いしたのはコチラですから…」 「…でも、俺のせいで…あんな余計な目に…」 「僕が誘惑したようなものですから」 僕は、アヤメを遮って、キッパリ言った。 「僕も悦い思いさせて頂きましたし…むしろ…あの2人のバンドさんを解禁にしてあげてください」 「…」 「何にも気にしないで大丈夫ですよ…」 戸惑うアヤメに向かって、カイが続けた。 「ただ…今日みたいなアヤメさんのLIVEは、もう観る価値ないんで…誘われてもお断りすると思います」 「…っ!」 アヤメは…深く項垂れた。 「お疲れ様でした…」 「アヤメさんも頑張ってねー」 「お世話になりました」 口々に言いながら、僕らは次々と彼に背を向けた。 「…今回は完全に、君たちにやられた…」 アヤメは…封筒を握った手を震わせながら… それでも強い口調で続けた。 「またいつかどこかで…そんときは容赦しない…」 「楽しみにしてます…」 僕は、ニヤッと笑いながら…彼を振り向いた。 そしてまた、前を向いて… その会場を後にした。 「マジですごかったわ…あいつら…」 KYのメンバーが、 僕らの後姿を見ながらまたアヤメに言った。 「…だろ?」 「負けてらんねーな…」 「…ああ」 答えながらアヤメは、ふっと笑った。 「ちょっと…欲しくなっちゃったな…」 「えっ?」 「あ…いや、なんでもない…」 僕らは、駅に向かった。 「なーんかカオル…カッコよかったー」 「ホントですよ、僕も痺れちゃいました!」 「…あはは…」 「ホントに頑張ったね、今日は良いカオルいっぱい見せてもらったわー」 僕は、ちょっと冗談混じりに呟いた。 「あーでも…やっぱ受け取っとけばよかったですかね…そしたら豪勢に打上げ出来たのに…」 「バーカ…そんな金で飲めるかよ」 「だいたい、そんなはした金でカオルの価値を決めて欲しくないよねー」 「大丈夫…俺らが真面目に稼いだ金で、十分豪勢に飲めるから」 カイがニヤッと笑って、僕の肩を叩いた。 「ふふっ…そうでしたね」 「新しいお客さんもゲットしたし、次回はもっと稼げるぞー」 「サエの口八丁は流石だよ…」 「シルくんだって、めっちゃ色目使ってたしー」 「ショウヤの営業もすごかったよな…」 「あ…いや…」 「そうそう、あれで更に新しい子来たもんなー」 ショウヤは、顔を赤くした。 そんな感じで、賑やかしく喋りながら… 僕らは地元の駅に着いた。 「どーする?またこないだの居酒屋行くか」 「そうだな…」 「イタリアンはどうですか?」 「あ、こないだ言ってた所か…」 「えー俺、中華屋がいいなーガッツリな唐揚げがあるとこー」 珍しく意見が割れた。 「カオルは、どこがいい?」 ハルトが、シュッと訊いてきた。 皆の視線が、一気に僕に集中した… 「そうだよな…今日イチバン大変だったのはカオルだからな…」 「お前の好きなのでいいよ」 「しょうがないなー」 「えーと…」 僕は、少し考えてから言った。 「…シルクの…作ったごはんが食べたい…です」 「…」 「…」 「…」 あーなんか、 すごくみんな残念そうになっちゃった… そーだよなー シルクだって疲れてるから、 唐揚げ作ってーとか、言えないもんな… 「…唐揚げとピザは出前でもいい?」 シルクが言った。 「寿司も出前してー」 サエゾウが、目を輝かせて続けた。 「じゃあ、また飲み物買い込んで行くか」 カイが、笑いながら言った。 「そうしようー」 そんな訳で… また僕らは、大量に飲み物を買い込むために、 いつものスーパーに入った。 楽器やら大荷物を抱えた、 いかにもLIVEやってきましたー的な、 しかもえらい喧しい御一行が… ワラワラと店内に散っていった。 お店の人たちの間では、きっと… (あーまたこいつら来た…) って、話のネタになってるんだろうなー

ともだちにシェアしよう!