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因縁の打上げ(2)

無事、ピザも寿司も唐揚げも届いた。 シルクが作った2皿は、ほぼ瞬殺で無くなったので、 何とかテーブルに乗り切ることができた。 「…足りるかなー」 サエゾウがボソッと言った。 「足んなかったらパスタ作ってやる」 「マジでーやったー」 流れていたDVDが、 ちょうどまた最初に戻っていた。 僕らは、ようやく落ち着いて… それを観ながら飲み食い進めた。 「あーこれね、例の悪いお妃笑い…」 「…」 あーホントに… 悪い顔んなってるなー 「今日のカオルさん、ホントにいつもより2割増でしたよ…呪文効果、スゴいんですねー」 「ここまで単純とは思わなかった…」 「あはははっ…ねー」 「…」 若干ふてくされた僕に向かって、ハルトが言った。 「素直ってのは、良い事だよ…」 ありがとう やっぱ優しいハルトさん… 「まー俺も、ホントにこんなに効果あるとは思ってなかったけどねー」 「…」 やっぱそんなに優しいわけではなかった… 「あーこの、黒サエさんのギターソロが、また痺れたんですよねー!」 画面越しにも伝わるほどに、 黒いサエゾウは、壮絶なオーラを放っていた。 「ふふーん」 サエゾウは、ドヤ顔になっていた。 「そこで、そんな事ないですよーとか、言わないとこが可愛くないよな…」 「あはははっ…」 「まー言わないとこが、サエらしいって言うか…」 「そうですよー謙遜なんかしたらサエさんじゃないです!」 「…」 鼻高々に振舞うサエゾウを見ながら、僕は… あの夜…公園で弱音を吐いていた彼を、 コッソリ思い出してしまった。 「サエさん…ホントにスゴいのにな…」 僕は思わず呟いてしまった。 「さんきゅー」 そんな僕の思いを察してか、 サエゾウは少しだけ…ドヤ顔を緩ませて僕に言った。 そして…彼は僕の方を向いて口を開けた。 「あーん…」 「何の真似ですか…それ」 「ご褒美に食べさせてー、あーん…」 …ちょっと意味がよくわかんないんですけど… 「いーじゃん、食わしてやれよ」 「…」 僕は、さっきサエゾウが言ってたのを思い出しながら パイナップルの乗ったピザを、ひと口大にちぎって、 彼の口に入れた。 「うわっ…何これ、パイナップル乗ってんじゃんー」 「あはははっ…」 僕は大笑いした。 そして…新曲の映像が流れてきた。 「これまた、スゴい曲ですよねー」 ショウヤが画面を見ながら呟いた。 「僕の解釈が間違っていなければ…人形と心中する歌かと思われるんですが…」 「…はい…だいたい合ってます」 僕は…若干、身を乗り出しながら続けた。 「心中っていうか…たまたま彼らがイチャイチャしていた瓦礫が火事になっちゃったんです…」 「はあ…」 皆…ポカーンと聞いていた。 「そしたら…むしろちゃんと結ばれちゃったーっていう…ハッピーエンドな歌なんですよ…」 「…」 「…それこそ、ちょっと意味がよくわかんないー」 「よくそんなシチュエーションが思い浮かぶよな…」 「だいたい、瓦礫でマネキン人形とイチャイチャするって…だいぶヤバい人ですよね…」 「だって…大好きなんですもん…イチャイチャしたいじゃないですか…」 「…」 皆揃って、 何だかイマイチよく分かんないっていう顔になった。 サエゾウが、致し方ない風に言った。 「まーでも、瓦礫の中にカオル人形が落ちてたら…分からないでもないなーって…思いながら演ってるー」 「俺も…」 「…うん」 「なるほど!」 「あーそれなら分かります!絶対コッソリ夜中に拾いに行きます!」 なんとなく釈然としないが… とりあえず、伝わったようでよかったわ… そして、真夜庭からの、宵待ちも終わり… 僕の涙を、サエゾウが拭う場面になった。 「これまた、サービスシーンでしたよねー」 「皆めっちゃ喜んでたよね」 あ、そういえば… 今日はあの女の子にお礼言えなかったな… 「彼女、またカオルに会いたがってたよー」 「…ホントにすいませんでした…」 「全然出てこないんだもんなー」 「…」 僕はまた… 下を向いて、シュンとしてしまった… 「まー俺らの神トークで満足して貰えたけどねー」 「ふふっ…そうだな…」 「だって、カオルはカオルで…大変なミッションこなしてたんだもんね…」 ハルトが、改まった感じで言った。 「…」 それを聞いた僕は… 更に俯いたまま、顔を上げられなかった。 「…あのアヤメさんが…あんなんなっちゃうなんてねー」 「いやマジで…気持ちいいくらいダメんなってなよな…」 「やっぱカオルさん、スゴいです!」 皆にそう言われて… 僕はゆっくり顔を上げた。 「…うん…頑張ったな…」 シルクが、そう言いながら…僕の頭を撫でた。 「…」 僕は…その日の色々を思い出しているうちに… じわっと、涙が溢れてしまった。 「…うっ…う…」 そのまま…ポロポロと泣き崩れる僕の肩を… シルクが優しく抱きしめてくれた。 「辛かったよな…ホントに…ごめん」 「…うっ…ううっ…」 「あーもう…誰のせいー?」 「ハルトだろ?」 「いや、シルクでしょ」 「ショウヤじゃないの?」 「サエさんの神トークじゃないんですか!」 「…ううっ…うっ…ふふ…あはははっ…」 僕は、泣きながら笑った。

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