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因縁の余韻(1)

僕が目を覚ますと… 部屋の電気は消され、もう誰もいなくなっていた。 扉を閉めた向こうの、 キッチンから灯りが漏れていて… 何やらカチャカチャと、 食器を片付けるような音が聞こえていた。 「…」 僕は、再び目を閉じて… しばらく、心地良くその音を聞いていた。 シルクが、そこに居てくれる… それは、他の何にも変え難い安心感だった。 しばらくして…その音は止み… ガラガラっと窓を開ける音と、 カチッとライターに火を付ける音が聞こえた。 あ…煙草吸ってんだな… 僕はそう思いながらも… そのまま、目を閉じて横になっていた。 またしばらくして、窓を閉める音に続いて… パチンと電気を消す音がした後に、 ガラガラーっと、キッチンの扉が開いた。 僕はそっと…目を開けた。 「…あ、ごめん、起こしちゃった?」 言いながらシルクは、 ゆっくり、僕の隣に寝転がった。 「…ううん、ちょっと前から起きてた…」 僕は小さい声で言いながら… 待ち兼ねたように腕を伸ばして、 彼の頭に絡みついた。 シルクは、僕の頬を片手で撫でながら… ふふっと笑った。 「何その…また、俺のこと大好きって顔…」 「…」 だって…大好きだからって… サエゾウにも、ショウヤのときも… 平気で言えたハズなのに… 何故か… シルクには言えなかった。 僕は、精一杯の言葉を…小さい声で言った。 「シルクに…まだ上書きされてない…」 「…して欲しいの?」 彼は、ちょっと意地悪そうに答えた。 「…して…欲しい…」 僕は少し恥ずかしそうに… シルクから目線を落として言った。 それを聞いた彼は、たまらない風な表情で… 勢いよく、僕に口付けてきた。 「…んん…」 いつものように激しく… 彼の舌が、僕の口の中に侵入してきた。 その安定の感触は、 すぐに僕の身体の芯に響いた。 そこからじわじわと… 何ともいえない熱さが、身体中に広がっていった。 ゆっくり口を離れて… 若干とろ〜んとなってしまった僕の顔を見ながら、 シルクは…少し真面目な顔で言った。 「…したいのは山々だけど…お前の身体がキツいんじゃないの?」 「…」 「だって…今日だけで…何人としたよ、お前…」 「…」 うーん、確かに… アヤメさんから始まって…さっきのカイさんまで… 「ちなみに覚えてないかもしんないけど、サエともヤってるからね」 「ええっ…そうなの…?」 「カオル人形ヤバいーって言いながら…」 「あはは…」 シルクは、僕の頭を抱きしめながら、続けた。 「痛くなっちゃったんじゃない…あの、俺らが無理矢理やっちゃったときみたいに」 「…」 そう言われると… 確かに、またちょっとジンジンしてるかも… そのジンジンが… さっきの口付けで刺激されて、 かえって気持ち良かったりもするんだけど… 「明日いられる?」 「…うん」 「そしたら…我慢しといた方がいいんじゃない?」 「…ん…」 僕は、少し残念そうな顔で シルクの背中に腕を回した。 そして…ギューっと、彼の身体に縋りついた。 彼もそれに応えて… 僕の身体を力強く抱きしめた。 あったかい… シルクの…ぬくもりっていうか… 彼から沁み出る何かが、 じわじわと僕の中に沁みてきて… それが、僕の…身体も心も、 癒やしてくれる気がした。 アヤメの感触や… あの知らない2人に姦られた感触が… それによって、どんどん薄らいでいく気がした。 しなくても…全然よかった。  閉じ込めたい…お前を…俺ん中に… 僕は、あのときのシルクの言葉を思い出した。 本当に… この人の中に、ひとつになれたら… どんなに幸せだろう… 僕は本気で、そう思った。 「…そんなに好き?」 そんな僕の表情を見て… シルクは、からかうように囁いた。 「…うん…」 僕はうっかり…シュッと頷いてしまった。 シルクはまた、僕の頬を撫でながら… くちびるを重ねてきた。 「…ん…」 口をそっと離れて…シルクは言った。 「そしたら明日は…一緒に風呂入ろう…」 「…うん」 「そんで…デートだな」 「…スーパーに?」 「あははは…それでもいいけど、今日の残りがあるからなー」 「じゃあ…ショウヤさんみたいに、散歩する?」 「それもいいね…」 「動物園でもいいよ」 「何お前…動物園行きたいの?」 「…遊園地でもいいよ…シルクがジェットコースターとか乗ってるとこ、全然想像できないけど…」 「…」 シルクは目を閉じて、しばらく考えていた。 「…散歩がてらに、ちょっと遠くのデカい業務スーパーでも行くか…」 「やっぱスーパー行きたいの?」 「まー動物園よりはね…」 「シルクって…ホントにお母さんなんだな…」 僕は、ふふっと笑いながら… シルクの背中を撫でた。 「お前がお子さま過ぎなんじゃないの?」 言いながら彼は、再び僕に口付けてきた。 「…んっ…」 何度も…何度も… いつまでも僕らは、口付けを交わした。 そのまま… お互いが寝落ちてしまうまで…

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