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因縁の余韻(3)

部屋に戻って… シルクは、買ってきた物を、 戸棚や冷蔵庫に片付けながら、呟いた。 「…これは、次回にするか…」 そしてさしあたり… キャベツとトマトと玉ねぎを取り出してから まずは、卵を茹で始めた。 僕も、買ってきたチーズとクラッカーを出した。 「…これ、食べてみていい?」 「何だそれ…」 「何か美味しそうだったから…」 いかにも外国っぽいパッケージの… 見た事ないクラッカーが美味しそうで、 ついつい買ってしまったのだー 「しかも2つも買ったのかよ」 「だって、どっちの味も気になったんだもん…残ったらちゃんと持って帰るよー」 僕がそれらを皿に並べている間に、 シルクはフライパンを出して、 揚げ物の準備を始めた。 そして、いったん冷凍庫にしまった… 白身魚のフライを取り出した。 「あっ…」 僕は思わず声を上げた。 「…それ…揚げるんだ…」 「唐揚げの残りのついでに…」 言いながら彼は、 玉ねぎをみじん切りにしていった。 「…もしかして…タルタル付きですか?」 「…うん」 僕は…うっかり、 目をキラキラと輝かせてしまった… 前に、白身魚のフライも好きって言ったのを… シルクは覚えててくれたんだー 「ピザ…トースターであっためといてくれる?」 「ん、分かった」 僕は冷蔵庫から、 皿に集められたピザの残りを取り出して… トースターに並べた。 「入り切らないなー」 「だろうな…」 「2回に分けよう…」 とりあえず、第1陣を焼いていった。 そうこうしてる間にシルクは… 玉ねぎはみじん切りにして、 キャベツも千切りにしていった。 「お寿司の残りは…このままだよね」 「そうだな…出しといて」 僕は、テーブルの準備をした。 寿司の残りと、チーズクラッカーの皿も並べた。 チーン 第1陣が焼き上がったので… 僕はそれも皿に乗せて、テーブルに運んだ。 そして、第2陣を焼き始める頃には、 シルクは揚げ物に取り掛かっていた。 「…卵剥いてくれる?」 「はいっ」 僕はゆで卵の殻を剥いて、まな板の上に置いた。 「刻みますか?」 「うん」 「で、コレと混ぜたらいいのかな…」 「うん」 僕は刻んだゆで卵に… シルクがみじん切りにしておいた玉ねぎを混ぜた。 「あと、キャベツも皿にあけといて」 「はい」 戸棚から、大きい皿を取り出して… 僕は、ザルに上げられたキャベツを、 そこにふんわりと盛っていった。 チーン 第2陣が焼き上がった。 僕がそれをまた、皿に盛っている間に… シルクはタルタルソースを完成させて、 揚げ物を皿に盛った。 トマトも添えられた。 「うわーー!」 僕はその皿を見て、感嘆の声を上げた。 「なんて理想的な、揚げ物盛りー!」 昨日の残りのハイボール缶と、 さっき買ったワインも並べられて… テーブルはまた… とてもとても豪華に、賑やかになった。 「クリスマスみたいだねー」 「まーほとんど残り物だけどな」 そして僕らは、ワインで乾杯した。 「お疲れー」 「いただきます」 とりあえず僕は…白身魚のフライを取った。 手作りタルタルソースをたんまり絡めて! 「うーん…タルタルが美味しい…」 シルクもそれを味見しながら言った。 「冷凍の白身フライって…独特だよな…」 「うん…自分じゃこんな風に、絶対出来ない」 珍しいクラッカーも食べてみた。 「あ、これ美味しいかも…」 「…うん」 「2つ買ってよかったー」 「寿司はやっぱりなーご飯が固くなっちゃうよな」 「うん…でも、それはそれで…2日めの寿司って感じで、僕は嫌いじゃない」 そして焼き直したピザも、 それなりにとても美味しかった。 まー結局のところ… シルクと一緒だったら、 何でも美味しいのかもしれないけどな… そんな風に思いながら… 僕は黙々と食べ進めていった。 「昨日の…もっかい見る?」 「…うん」 シルクは、PCの所にいって、カチカチと操作した。 そしてまた昨日のDVDが流れ始めた。 「楽しかったなー」 それを観ながら…僕はポソっと呟いた。 「あーお前、ハルトの呪文で、いつになく調子上がってたよな…」 「ふふっ…呪文もだけど…レコーディングとか撮影とかのおかげもあるのかな…」 僕は、あのときの自分を思い出しながら…続けた。 「色んなものが、すごくよく見えた…」 「…」 「もちろん景色もよく見えたし…でも、お客さんの表情もよく見えた…それから…」 「…」 「カイさんとサエさんと…シルクの音も、ものすごくよく聞こえた…」 「…ふうん」 「景色の中で歌いながらも…ちゃんと、そこにいるみんなの事が…よく見えたんだ」  言いながら僕は、 グラスのワインをひと口飲んだ。 「まあ…それで結局、いつも以上にフラフラになっちゃったんだけどね…」 それを聞いて… シルクも、グラスのワインを飲み干した。 「本番でそんな風に出来るヤツ…なかなかいないと思う…実際、俺はそこまで達してない」 「…そうなの?…あんなに堂々と…レコーディングのときみたいに弾いてるのに…」 彼は… 自分のグラスにワインを注ぎ足しながら、続けた。 「うかうかしてたら…ホントに俺ら、お前に置いてかれるかもしれないな…」 そして、僕のグラスにも注ぎ足しながら… ニヤッと笑った。 「いずれ…本番中に銀色が出現するんだろうな…」

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