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螺旋(2)

それから僕は、曲を何度も聴きながら… メモを取りながら… 歌詞とメロディーを固めていった。 煙草を吸って、戻ってきたシルクは、 僕の横に立って…その様子を見ながら呟いた。 「悪いね、急に面倒な事言って…」 「…ううん、全然大丈夫だよー」 なにせ元々が聞こえてきちゃうもんだから… 僕にとって、それは決して、 面倒でもないし、難しい作業でもなかった。 「ふあ〜あ〜」 シルクが大きなアクビをした。 僕は彼に向かって言った。 「あれからずっと起きてたんでしょ、何なら寝てていいよ」 「んーでも、お前いるうちに、歌も録っちゃいたい」 「教えてくれれば、自分でやっとくよ」 「…マジで?」 シルクは戸棚から、 ごそごそと…マイクを取り出してきた。 PCの下に設置されている機械に、それを繋げた。 「録音押してから、一時停止にすればモニターできるから、それで音量調節して」 「ん、僕が持ってるヤツもそうだわ」 「そっか、あとは20年前のヤツが、画面上になってるだけだから、だいたい分かんだろ」 「…あはは、うん…たぶん分かると思う…」 「まー音源だから、雰囲気伝われば良いから」 「…わかった」 それだけ言って… シルクは、モゾモゾと布団に潜り込んだ。 そして本当にすぐに、スーっと寝てしまった。 ホントに、よっぽど眠かったんだな… 僕はふふっと笑いながら、再び作業に戻った。 小さい声で、試しに歌ってみたりを繰り返して… 何とかメロディーも固まった。 よし…録音するぞー 歌を録音する…って、割とちょっと恥ずかしいので… 逆にシルク、寝ててくれてよかったかも。 僕はそんな事を思いながら、 マイクの音量を調節していった。 そして、曲に合わせて… マイクに向かって歌っていった。 最後まで、特に問題なく歌い終えた。 そりゃあ細かい事を言えば、全然だったけど、 あくまで音源としては、これで十分だと思う。 僕は念のため、それを最初から聞き返した。 うんうん…許容範囲だ それは本当に、切ない曲だった。 この世界で結ばれない2人は、 生まれ変わりを祈って死を選んだ。 でも結局、彼らは… 2度目の世界でも結ばれる事が叶わなかったのだ… あの時あの場所まで、辿り着けてたなら… もう少しそばに、生まれ落ちてたかも… そんな歌詞を聴きながら、僕は思った。 生まれ変わったときに、また出逢えるんだろうか… 僕らは、果たしてそこまで辿り着いているのかな… 僕はカチッと停止ボタンを押した。 あとのミックスは、シルクに任せよう… 僕は立ち上がって、煙草を吸いに行った。 まだ夜明け前だった。 「ふあ〜あ…」 僕も大きくあくびをした。 もうちょっと寝よう… そして僕は部屋の電気を消すと… 再びシルクの隣に潜り込んだ。 「…ん」 シルクがもぞもそと動いて、少しだけ目を開けた。 「…録れたよ」 僕は彼に向かって言った。 「んー」 そう答えて彼は、僕の身体を抱きしめた。 「…」 僕はシルクの頭を抱きしめると、 彼の顔に、自分の頬を擦り寄せた。 シルクは少しずつ顔をずらしてきた。 そしてやがて、彼のくちびるが… 僕のくちびると重なった。 彼の長い髪が、そこに絡まっていたので、 僕はいったん口を離れて、 それを、指でそっと掻き分けた。 シルクが再び、少し目を開けた。 とてもしあわせそうな、穏やかな表情だった。 「…シルク…今、僕のこと大好きって顔してる…」 僕は彼の目を見つめながら… 小さい声で言った。 「…」 シルクは何も答えず… 少し微笑んで、また目を閉じた。 自分もきっと… シルク大好きな顔になってるんだろうな 思いながら… 僕はまたくちびるを重ねた。 世の中には、螺旋の2人ように… 例え想い合っていても、 触れる事さえ出来ない人だっているだろうに。 大好きな人と、こんな風に肌を寄せていられる事が、 僕は本当にしあわせだった。 そのまま… 僕らはまた、安らかな眠りについた。

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