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神様の宴(3)

ひとしきり撮影が終わると、 ハルトはショウヤに向かって言った。 「次はショウヤの番だからね」 「…はい」 「ええーショウヤも出演するのー?」 「あ、はい…なるべく人数多い方がいいんで…」 「それは楽しみだな…」 「俺も、めっちゃ楽しみなんだよねー」 言いながらハルトは、 ショウヤ用の衣装を取り出しながら続けた。 「水道局の方から来た人以来だから…」 「あはははー」 「???」 ポカーンとしていた僕に、シルクが教えてくれた。 「奪還大作戦のとき…お前も、最初分かんなかったって言ってたろ?」 「ああ、あのときの…」 水道局の方の人だったのか… ハルトが、またいそいそと、ショウヤに取り掛かっているのを横目で見ながら、 僕らは、また乾杯した。 「カメラマンが出演しちゃったら、誰が撮るのー?」 ショウヤは、顔を描かれながら答えた。 「あ…そのための三脚と、天井のカメラを用意したので…リモコンでスイッチ入れます」 「なるほどね…」 それから、ショウヤは、ふと思い出して続けた。 「…あ、もしよかったら…その、カラーボックスに入ってる小道具…出してもらって…好きなの選んでください…」 僕とシルクは立ち上がって、 ショウヤが指差したカラーボックスの所に行った。 中を開けてみると… まさにミサに使われるような燭台と… ワイングラスとシャンパングラスなんかが出てきた。 「うわーこんなのもあるー」 後ろから覗いてきたサエ姫が、その奥の方から アンティーク調のナイフを取り出した。 「これ、本物ー?」 「…ニセモノです…」 「コレとか…絶対カイさん用ですよね…」 僕は、ジャラジャラと鎖の様な物が繋がっている物を見つけてしまった… 「それで叩かれたいの?」 「大丈夫ですっ!!」 「俺はコレでいたぶりたいな…」 シルクは、アンティーク調の模様のステッキを取り出して…ニヤッと笑った。 出た… 本家本元の苛めっ子… そんな感じに、僕らが怪しい小道具の数々に、 一喜一憂しているうちに… どうやらショウヤが完成したらしい。 「…はい、ショウヤ…出来上がり!」 「…」 ショウヤが立ち上がって、僕らの方を向いた。 「おおおー」 「マジか…」 「お前、誰…?」 やはり黒ベースの、ベルサイユ調の衣装を見に纏い… ブロンドのウィッグをかぶったその人物は… 僕の知ってるショウヤではなかった。 「…ショウヤさん…ものすごくカッコいいです…」 僕は思わず、ポーっと見惚れてしまった。 「ちょっとカメラ…借りていい?」 「あ、はい…」 カイは、ショウヤのカメラを手に取ると… そんな彼の姿を、カシャカシャと… 何枚もカメラに収めていった。 彼はちょっと、もじもじしながら言った。 「…恥ずかしいですね…」 何言ってんのー! いっつも、人の…もっと恥ずかしい写真ばっかり いっぱい撮ってるくせにー 僕は心の中で叫んだ。 そして僕らは改めて… 思い思いの小道具を手に… ゾロゾロと祭壇の前に集まった。 もちろん、燭台やグラスも置かれた。 本物のワインとスパークリングも持っていった。 「とりあえず、カオルさんはそこに座って…」 ショウヤは、祭壇の前の椅子を指さした。 「あとは、お好きなように…生贄を囲んで宴会してもらう感じで大丈夫です」 「…僕もですか?」 僕は…恐る恐る…訊いた。 「はい、最初はむしろ新しいお客様な感じで、皆さんでカオルさんをチヤホヤしといてください」 「わかったー」 そして、いつの間にかカメラのスイッチが入れられ… 神様の曲をBGMに、 僕らは割と普通な感じに、飲み会を始めた。 カイがスパークリングを開けると、 僕にシャンパングラスを持たせて、それを注いだ。 僕は、少し困った様な顔で…それを飲んだ。 サエ姫とハルトが、僕の目の前で、 手を繋いで、華やかにダンスを踊ってみせた。 ショウヤは、またアンティーク調のトレーに、 ぶどうを乗せた物を、僕に差し出した。 横からシルクが、それを一粒摘んで僕の口に入れた。 時々ショウヤは、自分でもカメラを持って… それぞれが楽しんでいる表情を、 アップで撮っていった。 そんな感じで、2回曲が流れ終わると… ショウヤは言った。 「そろそろ、カオルさんを生贄にしてください」 「…」 まーた何か、とても抽象的な言い回しですけど… 「ヤっていいのー?」 「はい」 …やっぱ、そーいう事ですよね… 「飲ませて酔わせて、そんで祭壇の上に仰向けに寝かせて、好きなようにヤりましょう…」 ましょうーって、何よ… その、自分もヤる気満々な感じは… そして、また曲が流れてきた。 サエ姫が、僕の横に来て… 僕の頭を撫で回しながら、顔を押さえ付けた。 そしてシルクが、ワインの瓶を持ってきて、 僕の口に無理やり飲ませた。 「…んっ…」 勢いよく流れ出たワインは、僕の口から溢れて… ボトボトと溢れ… 白いシャツが、紅く染まった。 ハルトとカイが、スッと入ってきて、 頭と足を持って、僕の身体を持ち上げた。 あれよあれよと言う間に… 僕は祭壇の上に、仰向けに寝かされた。 「ああ…まさに理想的な生贄だ…」 カメラを構えたショウヤから… 取り憑かれた様な、歓喜の呟きが漏れた。 それは…いつぞやの… 変なスイッチ入ったときの声に、限りなく似ていた。

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