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神様の打上げ(1)

「乾杯ー」 「お疲れー」 そして僕らは、いつものように… ハイボール缶と、ビールとレモンサワーで乾杯した。 「楽しかったねー」 「いやもうホントに!ありがとうございました…編集が楽しみでしょうがないです!」 ショウヤは、興奮冷めやらぬ感じで言った。 「サエ…可愛かったよな」 カイが、ボソッと言った。 「だーよーねー、俺ってマジでイケメンだと思うー」 「自分で言うか…」 「シルクだって、心ん中では、自分カッコいいと思ってんでしょー」 「まあね…」 「あはははっ…」 「いやでも…皆さんがカッコいいのは、いつもの事ですけど…ハルトさんにも痺れました!」 ショウヤが、目を輝かせながら言った。 「そーだよねー…ハルトって、あんなになるんだって、ビックリしたー」 「ショウヤも良かったけどな…」 「そうですよね、ショウヤさん、スゴくカッコよかったです」 「…ホントですか?カオルさんにそう言われると…スゴく嬉しいです…」 ショウヤは、少し恥ずかしそうに言った。 「カッコいいのはよかったけど…ショウヤ…だいぶヤバかったよな…」 カイが言った。 「うん、ヤバかったー」 「噂の、二次元人格ってのが、よーく分かったわ」 「…すいません」 「ヤバくてエロくて、めっちゃよかったー」 サエゾウにそう言われて… ショウヤは、更に顔を赤くした。 買ってきた、並べられた惣菜やお菓子を食べながら、 それぞれが会話に花を咲かせている中… 僕はポソっとショウヤに訊いた。 「今日は何でスイッチ入っちゃったんですか?」 「…えっ…カオルさんが、もっと虐めて欲しいって顔してたから…」 「…」 「虐めなきゃいけないなーって思ったら…スイッチ入っちゃったんだと、思います」 「…僕のせいですか…?」 「そりゃーそうです!」 ショウヤは、謎にキッパリ言い切った。 「あとは…メイクしてもらったおかげで、若干、増強した感じもありますけど…」 そう言いながら… ショウヤは、ハルトの方をチラッと見た。 「ハルトさんは、いつも…あんな風に、皆のテンションを上げてるんだって、身を持って実感しました」 僕は大きく、うんうんと、頷いた。 「本当に…ハルトさんも、トキドルのメンバーなんですね…」 ショウヤが、とても納得した感じに言った。 僕は、すぐに続けた。 「ショウヤさんもですよ…」 「…」 「ショウヤさん居なかったら…成り立たないです」 それを聞いたショウヤは… とても嬉しそうに、穏やかに微笑みながら言った。 「…ありがとうございます…」 「えーマジでー!?」 急にサエゾウが、声を上げた。 「何ーカオル、またシキにヤられちゃったのー!?」 あー言っちゃったのね… 「ホントですか!?」 ショウヤも驚愕の声で言った。 「…」 僕は…若干、恨めしそうな眼差しでシルクを見た。 「ちゃんと報告してもらわないとな」 シルクは、笑いながらそう言ったが… その目が笑っていない事は、僕にはすぐに分かった。 「まあ、今こうして何事もないところを見ると、大丈夫そうだけどな…」 とりなすように、カイが言った。 僕は、助けを求める目で、彼を見た。 「でも、説明して」 「…」 やっぱりカイの目も、 ちょっと怒っているように見えた… 致し方なく… 僕は、あの日の事を、最初から語った。 偶然会ってしまったこと… 話しているうちに、やっぱりボーカルあるあるに共感してしまったこと… シキさんの真面目な愚痴を聞いているうちに、恨みや恐さが段々と薄らいでいったこと… 「…ホントに、たまたま偶然会っちゃったんです!」 「ふうん…」 「悪い人じゃないんだなって思ったし…歌に対しては、ホントに真面目に向き合ってるってのが…スゴく伝わってきたし…」 「…まーそうかもね…」 「それに、行ってこい、ヤってこいって…皆言ってくれたじゃないですか!」 「…うん」 「言ったよねー」 「…だから、全然平気でした」 「…」 そう言いながら… 僕は、あのとき、ひとり残されたホテルの部屋で、 LINEの螺旋を見たときの… 何とも言えない、胸が締め付けられた感覚を思い出してしまった。 「…やっぱり…平気じゃあ…なかったのかも…」 僕は、下を向いてしまった。 皆、黙って…僕の様子を見ていた。 「…シキさんは、満足してくれたみたいだし…実際、スゴく優しくしてくれたし、気持ち良かったけど…」 「…」 「…やっぱり…断るべきだった…ですよね」 「…」 「…僕は…正直、悔しいです」 意外にも、最初に口火を切ったのはショウヤだった。 「LIVEのあと、アヤメさんにカオルさんを引き渡したときも、すごく悔しかった…」 僕はショウヤの方を見た。 ショウヤは続けた。 「でも、カオルさんが思うようにしたらいいんだと思いますよ。カオルさんがそのとき、シキさんとヤってもいいなって思ったんだったら…」 「…」 「もちろん、カオルさんが嫌なのに無理矢理だったら、絶対ダメですけどね…」 「…」 「そうじゃなかったんなら、カオルさんは、何にも気にする事は無いと思います」 若干酔っ払っていたのもあるかもしれないが、 意外なショウヤの語りに、 皆うんうん…と、同調している空気が伝わってきた。 「ありがとうございます、ショウヤさん…」 彼はニコっと笑って… 他の3人の方をチラッと見ながら続けた。 「もちろん、皆さんの気持ちも…僕は知ってますけどね…」 3人様は… 何とも言えない表情になった。

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