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神様の打上げ(2)

「まあ、その話はそれくらいにしとこうよ」 ハルトが言った。 何となく黙ってしまった3人に向かって、 ハルトは更に、強引に言いくるめた。 「いーんでしょ、別に!」 「…もちろん、俺は構わないよ…こないだみたいにあいつが姑息なやり方さえしなければ」 カイが言った。 「別に、いいって言ったよな?俺も…」 若干ムキになって言うシルクに、 サエゾウが突っ込んだ。 「だいたい、シルクが言い出したんじゃんー」 そうだよなー シルクが黙っててくれたら、こんな大ごとにはならなかったのに… 僕はちょっと、そんな風に思った。 「いやだって、一応皆が知ってた方がいいだろ?」 珍しく慌てた感じのシルクを見ながら、 ショウヤが僕に、コソッと言った。 「シルクさん、自分だけが悔しい思いするのが嫌だったんですよ…」 「…」 「だから、自分ひとりの胸にしまっておくのが耐えられなかったんだと思います」 「…」 シルクが? あんなに…平気な冷たい返信してきたのに… 僕は思わず、 クスッと笑ってしまった。 「ショウヤ、余計なこと言うなー!」 「あはははっ…」 「シルくん可愛いー」 顔を赤くして大声を上げたシルクを見て、 他の皆も笑った。 「…っ」 「いや…笑ってごめん…いや、言ってくれてよかったよ、シルク…知らなかったら、後で辛かったかもしれないからな…」 カイが、とりなすようにシルクに言った。 「うんうん、シルくんの気持ち分かるーやっぱりちょっと悔しいのは、皆一緒だよー」 サエゾウも、そう言いながらシルクの腕を掴んだ。 「でも…カオルがいいならいいー」 「…うん…」 「そういうこと…」 「もうーだから、この話は終わりにしよう?」 ハルトも笑いながら、再び言った。 「そうだな…」 「じゃあもっかい乾杯ー」 「乾杯ー」 そんなこんなで、無理やり乾杯でいったんシメて… 更にハルトは、次の話題を切り出した。 「そーだ、新曲できたんだってね?」 「そーそーシルクの曲ー」 「音源あるの?聞きたいな…」 それを聞いてシルクは… 立ち上がってPCの所に行って、 カチカチとマウスを操作した。 ほどなく音源がスピーカーから流れてきた。 「…もう歌も入ってるんですね」 「はい、たまたま僕がいるときだったんで…」 そして一同は、しばらくそれに聞き入った。 曲が終わって… ほうーっとした感じでショウヤが言った。 「また…切ない曲ですね、これ…」 「うん、俺も…解釈が間違ってなければ、かなり切ない曲に聞こえる…これも、曲聞いて、カオルが歌乗せたんでしょ?」 「乗せたっていうか…聞こえてきただけなんですけどね…」 「スゴいよねーやっぱその…聞こえる能力!」 スゴいのかなー 僕的には、何も考えなくていいから、とてもありがたいんだけどな… 「まだちゃんと合わせてみてないんだけどね…」 「うん、俺もまだギターソロ考え中ー」 「次のリハでだな…」 と、ショウヤが… ふと思い立ったように言った。 「そういえば…次のリハは…いつですか?」 「次の土曜の予定だけど…」 「…カイさんの店ですよね?」 「そうだけど…」 「…もしよかったら…そのときに、ついでに神様の演奏シーンを撮らせてもらえませんか?」 「…皆が良ければ、全然いいけど?」 「いーよー」 「ハルトは…来れんの?」 「土曜ね、午後でしょ?…大丈夫だけど、また同じ衣装でいいの?」 ハルトは、ショウヤに訊いた。 「あ、いや…いつものLIVEの感じが、むしろ良いかなと思うんですけど…」 「…ふうん?」 「あの…宴会してる人たちの、宴会場の隅の方で演奏してるバンドっぽい画がほしいんです…」 「なるほど…そしたら、白シャツ黒ズボンにネクタイ…とかがいいんじゃない?」 少し考えてから、ハルトが言った。 「あの…まさに舞踏会の生バンド…みたいなイメージで」 「ああー…それは良いですねー」 ショウヤは目を閉じて、妄想に入った。 「白シャツと黒ズボンなら持ってるでしょ?何でもいいから」 「何でもいいならあると思う…」 「ちょっと形が派手なのならあるー」 「いいよ何でも、ネクタイだけお揃いで用意する」 「それでお願いします!」 そんな風に、ポンポン話を進める2人を見て… 僕は思わず言ってしまった。 「ハルトさんとショウヤさんの、そういうイメージがパッと湧く能力も…スゴいと思います…」 「いやホントにそうだよな…」 カイが同調してくれたので、 僕はキッパリと続けた。 「やっぱり…ハルトさんもショウヤさんも…無くてはならないトキドルのメンバーですよね!」 「…」 「…」 しばらく黙ってしまった2人だったが… やがて…顔を見合わせながら、 コソコソと喋り出した。 「…カオルさんって…やっぱりズルいですよね…」 「ズルいんだか天然なんだか…」 「…ズルいときもあるけど、今は天然みたいです」 「えっ…ホントにズルいときもあるの?」 「そーなんですよー、こないだ僕がカオルさんちに泊まったときとか…」 「ショウヤさんっ!」 もうー 人が素直にそう思っただけなのに… 何でそう、余計な方向に話を持ってくかなー 「あ、すいません…それは2人だけの秘密にしときますか?」 「…っ」 「何その秘密って…」 「聞きたいー」 「お前そんなズルい事言うんだ…」 あーもうー 何でこんな何回も… 吊るし上げられなきゃなんないのー 結局その日、僕は打上げでも… 散々、生贄気分を味わったのだった…

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