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新曲と撮影のリハ(3)
「カイの曲はどうする?」
撮影を終えて…
僕らはカウンターに座って、すっかりまったりしていた。
「なーんか、疲れちゃったよねー」
「次回でいいか…」
「何かスイマセン…疲れさせてしまって…」
「いや全然…これから編集するショウヤに比べたら…」
「編集、めっちゃ楽しみです!」
あーそうですかー
僕は不安でしょうがないです…
「思い切って次回にしよう、今日はもうこれで終わろう」
「やったー打上げだー」
「あ、でも…歌は聞いておきたいな…」
「確かに…」
「歌だけ、歌ってみてくんない?」
「ええっ…」
そーいうの、ホントに恥ずかしいんですけど…
そんな僕の気持ちにお構いなしに、
カイは、サクサクと…スマホから音源を探し出した。
「流すから、歌って…何となくでもいいからさ」
「…」
致し方なく…
僕も自分のスマホから、歌詞メモのページを開けた。
ほどなく、勢いよくイントロのギターが流れ始めた。
打込みのギターでも、かなりカッコよかった。
これ、サエさんが弾いたら、相当凄いだろうなー
そんな事を思ってるうちに、
歌い出しが迫ってきた。
僕は、それに合わせて…その歌を歌った。
テンポが速いので…若干遅れた感じになりながらも、
僕はそれを最後まで歌い切った。
「いいねー」
「うん…ギターソロのあとの、静かな所で英語の台詞言うのとか、めっちゃいい…」
「展開もカッコいいね…」
「あーこれも、派手な宴会のPV撮りたくなりますねー」
「すげーイメージ湧いたー」
サエゾウは、目をキラキラ輝かせていた。
ああ…
サエさんがそんなになってくれると、恥ずかしくても頑張った甲斐があるってもんです!
「よっしゃー飲み行こうー」
…さっさと終わらせたかっただけかい
そんなワケで…
とりあえずその場は撤収となった。
着替えたり、機材を片付けたりしていると…
ギィーっと、店のドアが開いた。
「おーお疲れ…」
知らないおじさんが入ってきた。
おじさんって言っても、よくいるくたびれた感じのおっさんではなく、割とオシャレな感じの渋いおじ様だった。
「あーマスター!」
「ご無沙汰してます…」
えっ…
「あ、カオルは…もしかして初めて?」
「…はい」
「ウチの親父…」
「えええーっ」
そのおじ様は、僕を見ると、にこやかに笑って言った。
「噂のボーカルくんか…」
あー何か…噂のーって、久々に聞いた…
「初めまして…」
僕は、ペコっと頭を下げた。
「YouTubeでは何度も観させてもらったけどね…」
「あ、ありがとうございます」
「まー頑張って」
「はい…」
そして彼は、カイに向かって言った。
「もう終わり?どっか行くのか…」
「うん…悪い、グラス洗ってない」
「またか…あー分かった」
何かいいなー
親子でこんな店やってるなんて…
「じゃあね」
「失礼しますー」
僕らは荷物を手に、マスターに挨拶をした。
「あーお疲れ、行ってらっしゃい…また、俺んときにも遊びに来てよね」
「ほーい」
そして僕らは、店を出た。
前にも行ったことのある、
すぐ近くの居酒屋に、僕らは入った。
もちろん、ハイボールと…
ビールとレモンサワーで乾杯した。
「お疲れー」
「腹減ったー」
「にゃー」
そんでまた、唐揚げやら串盛りやら、
刺し盛りやら、ピザやらを…ガツガツ注文した。
サエゾウと僕は、いつものように、
出てきた料理を、奪い合うように食べ進めていた。
しばらくして、ショウヤが言った。
「カイさんのお父さん…相変わらずカッコいいですね…」
「うん、まさにカイの父ちゃんって感じだよな…」
僕はカイに訊いた。
「お父さんも、やっぱりミュージシャンだったんですか?」
「まあ、売れないバンドをやってたみたいよ」
「へええー」
「そんときのメンバーと一緒に、あの店始めたらしい」
「そうなんですか…」
「でも、そいつが割と早死にしちゃって、致し方なく、親父が1人でやる事になったらしい」
「…そう…なんですね」
「俺はそのバンド知ってたー」
モグモグしながらサエゾウが言った。
「だからカイの父ちゃんがマスターって、最初聞いたとき、めっちゃビックリしたー」
そっか…サエさんとカイさんは、昔からの友だちだったって、こないだシキさんが言ってたな…
「いつも店で練習させてもらってたしー」
なるほど…
カイさんは、小っちゃいときから、いつもドラムが叩ける環境だったんだな…
だからあんなに上手いのか。
一緒にやってたサエさんも、当時からあすこでリハやってたわけか…
まさに、あの店あってのトキドルなんだなー
「やっぱ、1回あすこでイベントやりたいなー」
「うん、良いと思います」
「狭いから、あんまり入れないけどな…」
「2日に分けたらどうですか?完全予約制で」
「何かシークレットな感じでいいじゃん」
「お客さん…来ますかねー」
「来るよー」
「お客さんはともかく、課題が多いな…」
シルクが僕の方を見て言った。
「まずはお前の…その学芸会レベルの営業トークだろ?」
「それより何より、処理問題はどうするの?」
「あー楽屋無いしねー」
「裏に、荷物とか置いてあるスペースはあるけど…」
「あーいいかも!あすこでヤってみたいー」
「だったら何とかなるかな…」
「しょっちゅう親父がそこ通るけどな…」
「…」
皆、ちょっと考え込んでしまった。
「とりあえず保留だな…」
カイがシメた。
「ま、やろうと思えばいつでも出来るし」
皆、黙って頷くしか無かった…
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