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不穏な動き(1)

僕たちと別れたあと、 カイとサエゾウは、カイの店に寄っていた。 飲みながら、何気なくスマホを開いたカイが、 真剣な表情で固まっていた。 「…」 「どしたー何かあったー?」 隣でマスターと喋っていたサエゾウが、それに気付いた。 「KY…解散したって」 「えええー!?」 サエゾウは、自分のスマホを取り出して… 早速KYのページを開いた。 「…ホントだー」 そこには、ボーカルの人がソロ活動するために脱退するにあたり、KYとしての活動を停止する知らせが載っていた。 「アヤメさん、どーするんだろーねー」 サエゾウはポソっと呟いた。 「…カオルの連絡先教えて欲しいって…」 「ええー?マジでー!!」 「…」 カイは、とても真剣な表情で…スマホを睨んでいた。 「…それって…引き抜き…みたいな…?」 「…」 カイは、その画面をサエゾウに見せた。  TALKING DOLL カイ様  ご無沙汰してます。  先日は色々ご迷惑をおかけしました。    諸事情により、KYは解散する運びとなりました。  何度も対バンして頂きありがとうございました。    実は、お願いがあります。  カオルくんの連絡先を教えて頂けませんか?  よろしくお願いいたします。  アヤメ 「やだ…やだよー絶対教えないでー」 それを読んだサエゾウは、カイに詰め寄った。 「…」 カイは、自分のグラスに残っていたハイボールを、グイッと飲み干した。 「…それは、俺らが決める事じゃないよな…」 「…」 静かに呟くカイに向かって、サエゾウは食い下がった。 「でも、やっぱりやだ…お願い、教えないでー」 「…サエ」 サエゾウは言いながら、 泣きそうになって下を向いてしまった。 カイは、彼の肩に手を置いた。 「お前…そんなに?」 「…カイだって、そうでしょ?」 「…」 「シルクだって…」 「…」 「そうだ、シルクにも聞いて!絶対ダメって言うよー」 「…」   カイは溜息をついた。 「とりあえず、カオルに確認してからにするか…あとあれだな、要件を一応訊いとくか…」  アヤメ様  お世話になります。  いったん本人に確認してからでいいですか?  ちなみに要件は何ですか?  俺たちには聞く権利があると思うのですが そしてカイは…トキドルLINEに、その旨を書いた。  アヤメさんが、カオルの連絡先知りたいって  教えていい?  ダメーー! 「ダメー!ダメだよね、ね、」 叫びながら、サエゾウも、すぐに書き込んだ。 「…あとは、あの2人次第だな」 「…」   「カイ、ドラムやって」 マスターが言った。 「カイくん、よろしく…」 言いながら他の客が、 ゾロゾロとステージの方へ向かっていった。 「あ…了解、何やるんですか?」 慌ててカイは立ち上がって、 その後についてドラムの方へ向かっていった。 そして、セッションが始まった。 サエゾウは、それどころでは無かった。 頭を抱えて…なかなか既読のつかないLINEの画面を、ずっと見ていた。 (絶対いやだ…) サエゾウは、自分の心臓がバクバクなるのを感じた。 (ヤらせるのだって、ホントはイヤだったのに…) 彼は、震える手で、煙草に火をつけた。 (もし…カオルがトキドルからいなくなったら…) サエゾウは目を閉じた。 身体が、どんどん重く…沈んでいくような気がした。 (…俺はどうなっちゃうんだろう…) ピコン 演奏の音に紛れて、カイのスマホが鳴った。 サエゾウは、すぐにそれを手に取った。 「…」 でも、当然… ロックがかかっていて、開く事は出来なかった。 彼は、居ても立っても居られない気持ちで、演奏が終わるのを待った。 ようやく演奏が終わって… カイが戻ってきた。 「何だって?早く読んでー」 サエゾウは、すぐにスマホをカイに渡した。 「…」 半泣きのサエゾウを宥めながら、 カイはスマホを開いて、メッセージ画面を出すと、すぐにそれをサエゾウに渡した。 「はいよ」 「…」 サエゾウは、睨みつけるように、それを読んだ。  もしカオルくんが引き受けてくれたら…  ユニットでの活動を考えてます。  差し当たりCDを製作できたらと  もちろん、  そちらを辞めさせる気は更々ありません。  TALKING DOLLの活動に支障のない範囲で。 「うーー」 「…なるほどね」 「やっぱりやだ…カオルを渡したくないー」 「…こっちに支障ない範囲って言ってるけど?」 「それにしたって、2人で活動って言ったら…また絶対ヤられちゃうに決まってるじゃんー」 「…まあな」 「そうこうしてるうちに、カオルがアヤメさんの事好きになっちゃうかもしれない…」 「…そうか?」 「そしたらもうトキドル辞めるって…言い出すかもしれないじゃんー」 「…」 サエゾウは、本当に…目に涙を浮かべていた。 「サエ…」 カイは、サエゾウの頭を撫でた。 「お前ホントに、そういう破滅思考なとこ、変わってないよな」 「…だってー」 サエゾウは、ポロポロと涙を零した。 「カオルのいないトキドルなんて、もう考えられない…」  カイは溜息をついた。 「そんなに…好きなの?」 「…」   カイは、ふとカウンターを見て… マスターが裏に入っていったのを確認してから、 とても小さい声で言った。 「…俺も…だけどさ…」

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