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不穏な動き(2)

「うーん…」 僕は、何かの気配を感じて目を覚ました。 隣を見ると、 シルクが起き上がってスマホを見ていた。 「…ん…何?」 「…」 「どうしたの?」 「…」 シルクは、黙って僕に…自分のスマホの画面を見せた。 僕は目を擦って、それを覗き込んだ。 「…!」 その内容にビックリして、僕も飛び起きた。 アヤメさんが… 僕と…ユニット? 「…何で…アヤメさん?」 「…さあね」 「…どう…しよう…」 そう呟きながら下を向く僕に構わず、 シルクは黙って、文字を打ち込んだ。 ピコン ほどなく僕のスマホが鳴った。 僕は手を伸ばして、自分のスマホを取ると… トキドルLINEを開いた。 一連の会話の流れの最後に、 シルクの返事が書き込まれていた。  いいんじゃない? 「…」 僕はシルクの方を見た。 彼はスマホを投げ出すと…再び布団に横になった。 「…いいの?」 「…それはお前が決める事だろ?」 シルクは冷たくそう言うと、向こうを向いてしまった。 「…」 僕は静かにスマホを置いた。 そして、横になると…シルクの背中に顔を埋めた。 折角シルクと一緒にいるしあわせな時間なのに、 そんな余計な事に邪魔をされたくなかった。 「返事…しないの?」 向こうを向いたまま、彼が言った。 「後でする…」 言いながら僕は、彼の身体に腕を回した。 「今は考えたくない…」 「何で?」 「…だって…シルクと一緒だから…」 「…」 仕方なさそうに、シルクはこっちを向いた。 僕は、思い切り彼に縋り付いた。 「シルクの事しか考えたくない…」 「…」 それを聞いた彼は、 僕の身体をギュウーっと、抱きしめた。 (俺は…) シルクの心中は、僕には分からなかった。 ただ、僕は、出来る事なら…他の誰でもなく… このままシルクの腕の中にいたいと、 思ってしまっていた。 しばらくして…彼が呟くように言った。 「…お前は…ミュージシャンだからな…」 「…?」 「お前とアヤメが組んだら…どんなに良いもんが出来るか、想像しただけでもヤバい…」 「…」 「…それを俺らが阻止するわけにはいかないだろ…」 「…」 僕は、もっと小さい声で…言った。 「阻止…してくれたらいいのに…」 それを聞いたシルクの腕に、更に力が篭った。 「そう言ってくれるだけで…俺は十分だよ」 言いながら彼は、僕の顔を撫でた。 僕はたまらなくなった。 堰を切ったように、勝手に口から言葉が出た。 「ここに居たい…」 「…うん」 「シルクが好き…」 「うん」 「シルクが大好き…ずっと一緒にいたい」 「うん…」 僕らは、吸い寄せられるように、 どちらからともなく口付けた。 何度も、何度も… お互いを愛おしむように、くちびるを重ねた。 そして彼は言った。 「二度と言うな…」 「…」 「お前は、トキドルのボーカル…玩具だ」 「…うん」 「これからも弄んでやる…」 「…うん」 「…アヤメとも、上手くヤったらいい」 「…」 僕はシルクにピッタリと身体を張り付けた。 まるで何だか、これが最後のような気がした。 離れたら…もう二度と… シルクに触れられなくなってしまうような気がした。 「…もう1回だけ…お願い…」 「…」 「もう言わないから…」 「…」 シルクは僕の目を見ながら微笑んで答えた。 「特別サービスな…」 僕は、今の自分の全てを込めて…言った。 「シルク…大好き…」 「…うん」 彼は、小さく頷いた。 「俺も…お前を…愛してる」 「…」 僕は再び、シルクに縋り付いた。 強く抱き合いながら… そしてまた、何度も何度も口付け合いながら… 身体を絡め合って…僕らは眠った。 翌朝…まだ暗いうちに、 僕は、シルクがまだ目を覚ましていないのを確認して、そっと布団から出た。 そして、スマホを手に取って、トキドルLINEを開いた。  教えて頂いて大丈夫です そう打つと、僕は静かに送信を押した。 「…シルク、ありがとう…」 彼の耳元で… 僕は、聞こえないくらい小さい声で言った。 僕の気持ちは、いつでもここに在る。 大丈夫…きっと迷わない。 アヤメさんと組んで、彼の曲を歌うようになっても… そして彼と身体を重ねる事があったとしても… 僕はトキドルの玩具だ。 それに変わりはひとつもない。 おそらくシルクにも、迷いは無いんだろう… 僕を想ってくれる気持ちも、 トキドルを大事に思う気持ちも… 大丈夫… 心の中で、そう呟きながら… ふと、僕は自分の目から、涙が溢れている事に気付いた。 きっと大丈夫なのに… 何でこんなに、涙が出るんだろう… 僕は、シルクに気付かれないように、 声を殺して、泣き続けた。

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