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アヤメと打合せ(1)

そして僕は…今後の活動の打合せやら何やらのために、アヤメに呼ばれた。 その場で音源も流したいという理由から、 呼ばれた先は、アヤメの自宅だった。 いきなり家って… 何かやっぱ色々ヤバかったかなー そんな事も思いながら… 僕は、教えられた彼のマンションの一室を訪れた。 ピンポーン… 「はい」 「あ、こんにちは…カオルです」 ほどなくガチャッとドアが開いた。 「どーぞ、ありがとう、上がって」 「お邪魔します…」 僕はおずおずと、彼の部屋に足を踏み入れた。 キッチンの他に2部屋… リビングっぽい手前の部屋と、奥の部屋には、ベッドと…サエゾウの部屋のように、PCを囲んで色々な機材が並び、ギターが何本も置いてあった。 「何か飲む?ハイボール缶ならあるけど…」 「あ、はい…それがいいです」 アヤメは、ハイボール缶を2本持ってきて、1本を僕に渡しながら言った。 「まあ座って」 「…」 僕らは、その…リビングっぽい部屋の、テーブルを挟んで座った。 「とりあえず…引き受けてくれてありがとう…」 「…よろしくお願いします…」 言いながら僕らは乾杯した。 僕は、とりあえずいちばん聞きたかった事を訊いた。 「何で解散しちゃったんですか?あんなに凄いバンドなのに…」 「ああ…」 彼は煙草に火を付けながら言った。 「ボーカルのヤツがね、ソロでやりたいって言い出して…」 「…そうなんですか…」 「いやまあ…正確には…」 「…?」 「俺がダメんなっちゃったんだ…何か、弾けなくなっちゃったんだよ…」 「…」 僕は…あの日最後に、アヤメさんの演奏を観たときの事を思い出した。 「…どうやら…お前に、持っていかれちゃったみたい…なんだよね…」 「えっ…」 「あれ以来…あのバンドで…前みたいに弾けなくなって…それで、ボーカルのヤツに愛想を尽かされたって感じかな…」 「…」 僕は何も言えなかった。 「だからさ…お前と一緒だったら、もしかしたら、また弾けるように…なるんじゃないかと思って…」 「…」 「TALKING DOLLの皆には、本当に申し訳ないと思ってる…でも俺は、自分自身のために、どうしてもカオルが欲しい」 「…僕は、そんなに良いもんじゃないですよ?」 「いや、そんな事ない…」 そしてアヤメは、僕に向かって頭を下げた。 「我儘を言って本当にごめん…どうか、よろしくお願いします」 「…わかりました、こちらこそよろしくお願いします」 そう答える僕を見て、 彼はとても嬉しそうに笑った。 「とりあえず、やりたい曲を聴いてもらえる?」 「あ、はい…」 「歌、入ってんのと入ってないのがあるんだけど…」 アヤメは、ハイボール缶を持って立ち上がると…PCのある方の部屋に行った。 そしてPCの前に座ると、 マウスをカチカチと操作した。 僕も彼に続いて立ち上がった。 「そこで良ければ座って」 彼はベッドを差した。 僕は言われるがまま、そこに腰掛けた。 ほどなく曲が流れてきた。 「…」 それは…何ていうか… トキドルの音とは、全く違った。 曲の感じも、構成や展開も… 1度聞いただけでは、ちょっと覚えられないような感じだった。 「…難しい曲ですね…」 1曲終わって、僕は思わず呟いた。 「そう?…あんまりこういうの好きじゃない?」 「いや、嫌いじゃないですけど…解釈が難しそう…」 次の曲が流れてきた。 「これはまだ歌が乗ってないんだ…」 「…」 「よかったら、歌作って欲しいんだけど…」 「…」 僕はその曲を、必死になって聞いた。 メロディーを乗せるなら… そう思いながら。 うーん…難しいなー どんな感じのメロディーが合うんだろう… そんな感じで、 アヤメは立て続けに6曲を流した。 「…どう?…歌えそう?」 「…とりあえず、聴き込んでみます」 僕はそう答えた。 そう…答えながら、僕は愕然とした。 何で、何にも聞こえて来ないんだろう? 逆に…何で、あの人たちの曲からは、 あんなに歌が聞こえてくるんだろう??? 「…もう1回…聴いてもいいですか?」 「もちろん、何回でも聴いて」 そう言うとアヤメは、再びマウスをカチッとクリックした。 そしてハイボール缶をグイッと飲むと、椅子から立ち上がって、僕の隣に座ってきた。 「ヤってもいい?」 彼は、そう言って…僕の顔を覗き込んだ。 それは、もちろん…想定内だった。 トキドルの3人にも、もちろん了承済みだったし…僕にそれを断る理由は無かった。 それに…もしかしたら… そうする事で、アヤメさんの曲からも、歌が聞こえてくるようになるかもしれない… 「…はい…」 僕は小さく頷いた。 それを聞いた彼は、僕の肩を抱き寄せると、 ゆっくりくちびるを重ねてきた。 僕の口の中に彼の舌が入り込んで、 僕の舌に絡みついた。 「…んっ…」 僕は小さく震えた。 そっと口を離れたアヤメは、ボーッとなった僕の顔を見ながら、囁くように言った。 「うん…何か、弾ける気がしてきた…」 そして彼は、僕の身体を… 思い切りベッドに押し倒した。

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