216 / 398
仕返しな打上げ(1)
そして僕らは、いつもの様にいつもの店に買出しに寄った。
また来たーって思われてるだろうなー
「今日はもう無理…俺は何も作らない!」
シルクが宣言した。
「そりゃーそうだよね、燃え尽きてたもんね…」
ハルトが言った。
「じゃーメッチャ買わなきゃー」
「また出前にしてもいいんじゃないですか?」
「それもめんどくさいー」
「まあ、とりあえず買い込んで、足りなそうなら出前にしよう」
「僕がやりますから…」
そんな感じで、相変わらずワチャワチャ大騒ぎをしながら、しこたま酒と食べ物を買い込んで…僕らはシルクの家に向かった。
「いやもうーとりあえず乾杯しよう」
「そうだな…」
「にゃー」
荷物を出すのも鬱陶しい感じで、僕らはとりあえず、乾杯した。
「あー美味っ…」
「はあー」
「やっと落ち着いたー」
「お疲れ…様でした…」
そのままどっかり椅子に座ってしまった4人に代わって、ハルトとショウヤが、買ってきたものをテーブルに並べてくれた。
重い腰をあげて…僕は、勝手知ったる感じに、箸と小皿を出してきた。
「よしー食べるー」
「いただきまーす」
そして僕らは、無言でガツガツと食べ始めた。
珍しく、カイとシルクも、割とよく食べていた。
「何か静かですね」
「よっぽど疲れたんだねー」
ショウヤとハルトは、顔を見合わせて…ふふっと笑った。
そこそこ胃袋が落ち着いたらしい、サエゾウが言い出した。
「シルくん、DVD見たいー」
「…そうだよな…」
シルクは、飲みかけのハイボール缶を持ったまま、PCの方に行った。
その間も惜しむように、それを飲みながら…彼はマウスを操作した。
そして…LIVEの映像が…流れ始めた。
お疲れの面々も…食い入るように画面に見入った。
「今日もカオルさん…初っ端から全開でしたね」
「悪いお妃の呪文効果だな」
「あははは…」
「絶対間違えるなって言ったからね、それも、幕上がる直前によー」
「そうなんですか!?」
「…すいません」
「マジでスイッチ入ったカオルって、恐ろしいよな」
また好き勝手言ってる…
いやでも、確かに今日は、いつもと違った。
まさに、ハルトお妃の呪文効果で…僕は、いつも以上にテンションが上がっていた。
そのテンションのおかげで…とりあえず序盤は、落ちないで済んでたし…
「カオルがMC喋れるようになる日は来るのかなー」
サエゾウが呟いた。
…それは100年掛かりそうだ
そして、無題が流れ始めた。
「光の粒が見えたんです…映ってないですか?」
言いながらショウヤは、画面に近付いていった。
「あー、さすがにカメラには映ってないね」
ハルトも続いた。
「見えたんですか?」
僕は、驚いて彼らに訊いた。
「確かに見えました!」
「うん…光の粒だけじゃない…炎も見えたし、宵待ちの月も見えた」
「…そうですか…」
そしてハルトは、僕に向かって続けた。
「出来たじゃない…ちゃんと、お客さんも一緒に、カオルの世界に連れて行けたじゃない!」
「完全に引き込まれました…涙が出ました」
「…」
そうか…
伝わったんだ…
いつも僕が見えている映像が…少なくともハルトとショウヤには見えたのか…
「ありがとうございました…」
僕は、3人を見ながら続けた。
「だって…僕に映像を見せてくれているのは、カイさんとサエさんとシルクですから…」
3人は、少し照れたような表情をしていた。
「それがお客さんに伝わったって事は…スゴい事だと思います…皆さんの力です!」
「いや、ホントに大変だった…」
「死にそうだったー」
「まあ、それも全部、お前のおかげなんだけどね…」
シルクも、僕の頭を撫でた。
「お前が伏線を敷いて、俺たちを引っ張ってくれるから…俺たちは、ひたすらそれを追っていくだけだ…」
「…」
「追ってくのも必死だけどな…」
「カオル突っ走り過ぎー」
「…すいません」
「ホントに、ステージの上は、実はスリル満点なんですねー」
「結果、めちゃくちや良かったけどな」
そして、螺旋からの…激しいイントロが始まった。
「この…切な悲しい感じから、急に激しくなったのも、すーごく良かったです!」
「あーここね…」
「完全に撃ち抜かれました!」
「カイ、さすがー」
確かに…Masqueradeは、アクセントになる曲だ。
お客さん達が、すごくノッてくれて…とても気持ち良く歌えた。
画面を見ると、僕だけでなく…サエゾウとシルクも、客席に迫り出すようにして弾いていた。
「気持ち良かったな…」
「ねー」
「…カッコいいですね…」
僕はそれを見て…ポソっと呟いた。
「だよねー俺カッコいいよねー」
「ソロがまた…痺れました!」
うんうん…サエさん、ホントにスゴい!
「この…静かなところもいいよね…」
「カイさんの曲って、こう何て言うか…緩急が激しいのが良いんですよね」
ショウヤが呟くように続けた。
「この曲もPV作りたいなー」
「作っちゃえー」
「無題もありだよな、光の粒キラキラな感じで」
「あー良いですねー」
「螺旋は、ちょっと…どう表現したら良いか難しいな…」
「いやもう、ひたすら螺旋階段を駆け上る感じが良いんじゃないですか?」
そんな感じで妄想を膨らませているショウヤに向かって、僕も言ってみた。
「Under the moon はどうですか?」
「…」
皆、黙ってしまった。
「あれはなー」
「あんまりやりたくない…」
なんでー?
「だって熱そうじゃんー」
「燃やされちゃうんだろ?」
「カオルがソロで撮るんならいいけど」
「カオルvsカオル人形とかー」
「あ、それだったらめっちゃ良いですね!」
「…」
何だよなー
カオル人形ヤバいとか言ってたくせにな…
ともだちにシェアしよう!