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七福神巡りのあとで(1)

「えーと…」 「海鮮サラダ、、バケット付き海老のアヒージョ、チーズ春巻き、ミニチキングラタン…あと、やみつきキュウリ…お願いします」 ショウヤが、まるで僕が気になっていた物を、スラスラと注文していった。 「…」 僕はポカーンとして、彼を見つめた。 「あ、あとハイボールとレモンサワーおかわりで」 「かしこまりましたー」 「それで、よかったですか?」 「…はい…パーフェクトです…」 僕は、残りわずかのハイボールを飲み干しながら続けた。 「ショウヤさんは、やっぱりエスパーですね!」 「あはは…そんな事は無いです」 「だって、僕の考えてる事…全部読まれちゃうじゃないですか…」 ショウヤも、残りのレモンサワーを飲み干してから、言った。 「誰でも分かるって訳じゃないんです…カオルさんだから…大好きなカオルさんだから、分かるんです」 「…っ」 僕は…少し顔を赤くした。 ショウヤはいつも、躊躇う事なく、好きって言ってくれちゃうから… 「ちなみに、アヤメさんとはどこで練習するんですか?」 「えーと、前回の打合せはアヤメさんちだったから、今度の練習は、ウチの近くでって事で…あの、駅の側のスタジオでやる事になりました」 「え、アヤメさん…ここまでくるんですか?」 「はい…」 「さすが、怖いもの知らずですね…トキドルの神域に踏み込んでくるなんて」 「あー…そういう見方もありますね…僕は、ただ単に近くて良かったって、思っちゃってましたけど」 「さっさと退散しないと、刺されますよって、言っといた方がいいですよ」 「えーっ…刺されちゃうんですか?!」 「…ふふっ…冗談ですけどね」 やがて、注文した料理が運ばれてきた。 「いっぱい歩いたから、お腹空きましたよね」 「あっ…足りなかったら追加しますから、遠慮なく食べてくださいね」 「はい、いただきます…」 遠慮なく…僕はバクバクと食べ進めた。 ショウヤは、僕の10分の1くらいの遅さで、たまにちょこっと摘んでいる感じだった。 「お腹…空いて無いんですか?」 僕は、そんな彼に向かって訊いた。 「何か胸がいっぱいで…」 「…」 「だって、カオルさんが…この後ウチに来ますかーなんて言うから…」 「あーすいません…だったら、それ…無かった事にしてください」 「えーっ…それはそれで…悲しくてまた胸がいっぱいになっちゃいます…」 「どっちにしても胸いっぱいなんですね」 「…カオルさんと一緒のときは、いつもいっぱいです」 ショウヤさんは、本当に素直で正直なんだなー そんな風に、思う事を全部言葉に出せる彼を、僕は少しだけ羨ましく思った。 「カオルさんは、言えなくて我慢する事があるんですか?」 また、見透かしたようにショウヤが言った。 「…いえ…だいぶ、出してると思います」 「…」 「皆に優しくしてもらって…僕は本当に幸せ者だと思ってます…」 「…行為はあんまり優しくないですけどね」 「あははは…確かに…」 「でも、カオルさんが…それを嫌がってないのは、知ってます」 「…っ」 僕はちょっと恥ずかしくなって、顔を赤くした。 「あんな風に、玩具にされる事を愉しめて…しかもそれをボーカル力の向上に繋げられるカオルさんが居てこそ…あのバンドが成り立ってるんだと思うんです」 「…」 「もちろん、虐めて愉しんで成長する他の人たちも…ですけど…」 「…っ」 「結果的にトキドルの皆さんは、常にバンドのために、同じ方向を向いてるように見えます」 「…」 「しかもそれぞれの個性と持ち味が、奇跡的に上手く絡み合ってる…」 ショウヤは、まるでうっとりするように続けた。 「本当に…素晴らしいバンドだと思います!」 自分自身に関しての自覚はあんまり無かったが… 他の3人が…とにかくスゴいっていうのは、僕も共感していた。 「アヤメさんとのユニットは、それはそれで楽しみですけど…」 ショウヤは、レモンサワーをグイッと飲み干しながら言った。 「所詮…あの人は、カオルさんに食われて終わりだと思います」 「えっ…」 「結果…トキドルが、もっと進化すると思います」 言い切った彼に向かって、僕は驚いて聞き返した。 「ショウヤさんは、予言も出来るんですか?」 「あくまで予測ですけどね…」 「…」 ショウヤはそう言ってくれるけど…不穏な空気が、バンド内に芽生えてしまった事は確かだった。 僕は、少し下向き加減に、続けた。 「…でも、そのせいで…皆に嫌な思いをさせてしまってます」 サエゾウが怒ってしまった事や、カイが落ち込んでいた事…そして何よりシルクの態度が、以前と変わってしまった事を…僕は思い浮かべていた。 寂し気に俯く僕を…励ますように彼は続けた。 「実際、既に進化したじゃないですか!こないだのLIVE…スゴかったじゃないですか!」 「…」 「アヤメさんの件が無かったら…あの人たちは、あんなに必死にはならなかったと思います」 「…そう…なんですかね…」 「所詮…単純な人たちですから…」 「…」 おかわりしたレモンサワーを飲みながら…ショウヤは、面白くてしょうがない風に、ニヤニヤ笑いながら続けた。 「アヤメさんとのLIVE…メッチャ頑張ってくださいね…」 「…」 「それが良ければ良いほど、ヤキモチパワーが更にフル稼働する筈ですから」 そうなのかー?

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