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ユニットのリハ(2)
順調に飲み進んで…追加で焼きそばなんかも頼んだりして…すっかりお腹も落ち着いた頃に、アヤメが言い出した。
「どうしようかなーどっか、聞ける場所ないかな」
「…やっぱり、うちに来ます?」
すっかり酔っ払って、だいぶ思考が雑になった僕は、しれっと言ってしまった。
「他のメンバーが来る事あるんでしょ?」
「あーたまに…」
「そんな聖地に乗り込むほど、命知らずじゃないよ」
「あはははっ…かなり散らかってる、庶民的な聖地ですけどねー」
アヤメは、しばらく考えてから…言った。
「漫喫じゃあ音出せないしな…ホテルでも行くか」
「…ええっ?!」
ホ…ホテルって…
「落ち着けるし、デカい音かけられるし…」
「…そんな使い方して、良いんですか?!」
「俺はよく、ビジネスホテルのデイユース使うよ…ちょっと時間あって寝たい時とか」
「…そうなんですねー」
そーいう前提じゃなくって…
違う健全な利用法なんですね…
「もちろんベッドもあるからな…」
あ、やっぱ前提なんだ…
「とりあえず移動しようか…何か食べ足りないものが無ければ…」
「あははは…はい、大丈夫です」
そして僕らはお会計を済ませると…その店を出た。
都合良く、その街のこじんまりした繁華街の中に…何軒もホテルがあった。
途中のコンビニで、ハイボール缶やら何やらを買い込んで…僕らは、そのうちのひとつの入り口をくぐった。
「男2人で何しに来たって思われてないですかね?」
「あはは…まあイマドキは利用が多様化してるからな、そんなに気にしなくて大丈夫だろう?」
まー半分は「何」しに来たようなもんだけどな…
そう言えば、シキさんも…フツーに普通のホテル入ったよな…
イマドキは普通なのか…
色々思いを馳せながら…僕はアヤメの後について、部屋に入った。
彼はギターを置くと…すぐにタブレットPCを取り出した。
「もしかして繋げるかな…」
アヤメはブツブツ言いながら…部屋に備え付けられているTV画面の周囲探った。
「お、イケるかも…」
カバンから何やらコードを取り出すと、彼は自分のタブレットと、スピーカーを接続した。
ほどなく、その部屋のTVのスピーカーから…さっき録音したものが、割といい音量で流れてきた。
「すごいですねー!」
「イマドキは、どこもかしこも便利だな…」
とりあえず、鑑賞環境が整ったところで、僕らは買ってきたハイボール缶で乾杯した。
流れてくる曲をじっくり聴きながら…アヤメは大きく溜息をついて言った。
「あー俺がまだまだだなー」
「…いや、僕の方がまだまだです…」
「でも、やっぱり良いな…お前の声で歌ってもらえると、すごく新鮮だわ」
「そうですか?」
その後も…「ここ…シンセ入れるかなー」とか「やっぱりソロの後にバッキング欲しいな…」とか、色々ブツブツ呟きながら、とりあえず全曲を聞き終わって…アヤメは僕に向かって、満足そうに言った。
「うん…まあ何とかなりそうだな…」
「そうですね、後はひたすら練習ですねー」
「ちなみにLIVEなんだけど…」
「…はいっ」
「再来月に、知り合いがやってるイベントに…たまたま空きが出たっていうんで…試しにそれ出てみてもいいかなと思ってんだけど…どう?」
「…再来月ですか…今のところ大丈夫ですけど」
「じゃあ、そこエントリーさせて貰うね」
「…はい、よろしくお願いします」
そのまた次の月に、トキドルのLIVEが決まっていた。
もしかしたら、その期間に…撮り残した真夜庭のPV撮影が入るかもしれないと思っていたけど…
こっちが先に決まっちゃったな
「それ終わったら…改めてイベントやろうと思ってる…半年くらい先になるかと思うけど」
「アヤメさんの…イベントですね?」
「ありがたい事に、またやって欲しいって声があるからね」
「…でしょううねー」
「それに向かいつつ、何とかCD作りたいと思う」
「はい…頑張って練習します」
「トキドルの方も、予定あるんでしょ?」
「LIVEはあります」
「なるべくそっちの邪魔はしたくないから…何か支障があったら遠慮なく言ってね」
「わかりました…」
そしてアヤメは、ハイボール缶をゴクゴクと飲みながら続けた。
「業務連絡終わり…」
「…」
「あとは…出来れば、お前を押し倒して…交流を深めたいと思ってるんだけど…」
「…はい」
僕はすぐに頷いた。
練習はもちろんだけど…そうする事で、アヤメへの理解を深める事が…やっぱりこのユニットに於いて不可欠だと、思っていたし…
アヤメは、立ち上がって…ベッドに腰掛けた。
僕も、彼に続いて…その隣に腰掛けた。
そして…少し恥ずかしそうに…言った。
「…押し倒して…ください」
「…」
アヤメは、僕の肩を抱くと…僕の身体を自分の方へ引き寄せながら、囁いた。
「…俺のこと…好き?」
「…」
僕は、うっかり返事に詰まってしまった。
そんな僕の言葉を遮るように、彼は僕の口を塞いだ。
「…んん…」
アヤメの舌が、激しく僕の口の中を刺激してきて…僕は、すぐに気持ち良くなってしまった。
ビクビクと震える身体を押さえつけるように、彼は更に激しく舌を絡めた。
ポーッとして、恍惚の表情を浮かべる僕の…唾液が滴るほどに濡れたくちびるから、ようやく離れたアヤメは…ふふっと笑いながら…また囁いた。
「俺のこと好きになるように…してやる」
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