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光鬱vsトキドル(1)
その後もアヤメと僕は…ユニットのリハを重ねていた。
アヤメの身の安全や、リハ後の流れを考えての…結局、アヤメの家の近くのスタジオで練習後、彼の家に流れるっていうパターンが定着していた。
そして今日は、先日のLIVE以来…久しぶりのトキドルのリハだった。
いつものように、僕らはカイの店に集まっていた。
「何かちょっと久しぶりだな…」
皆のハイボールを出しながら、カイが呟いた。
「誰かさんが忙しくなっちゃったからねー」
サエゾウが、意地悪っぽく笑いながら言った。
「…すいません」
思わず僕は、真面目に謝ってしまった。
カイが続けた。
「LIVE決まったんだろ?」
「あ…はい」
「どーする?観に行く?」
「ええーどうしようかなー」
サエゾウは煙草に火をつけながら続けた。
「行ったら刺しちゃうかもしれないなー」
本気か…
「泣いちゃうの間違いなんじゃないの?」
カイが笑いながら突っ込んだ。
「そうだな…サエを慰めるのが大変そうだ」
シルクも、ふふっと笑いながら言った。
「何だよーシルくんだって泣いちゃうくせにー」
「泣かねーよ」
そんな、冗談半分…本気半分なやり取りを、僕は複雑な気持ちで聞いていた。
「まあ…俺は行くよ…ショウヤも間違いなく行くだろうし」
カイが冷静に言った。
「俺も行くー!」
サエゾウは、ちょっと怒ったような顔で続けた。
「アヤメがカオルを、ちゃんと勃たせられなかったら刺すー」
マジで本気か…
「そうだな…見届けとかないとな」
「うん」
3人様は…ニヤっと笑いながら、僕の方を見た。
「…」
ああ…
目が笑ってないし…
「とりあえず今日はこっちに集中してよねー」
「も、もちろんです!」
そして僕らは…またいつものようにセッティングを終え、定位置についた。
「こないだのセトリで、おさらいしとくか」
「そーだねー」
「じゃあ、いきます…」
「…」
カイのカウントから、Under the Moonlightのイントロが始まった。
「…!」
うわあ…
やっぱり違う…
カイのドラムと、それと全く同じ鼓動で歌うシルクのベース…そこに絡まるサエゾウのギター…
それはもう…初っ端から、僕の身体に突き刺すように入ってきた。
そして、何を意識するでもなく…勝手に目の前に、灼熱の炎に包まれる瓦礫の風景が広がっていくのだ…
全然…全然違う…
僕は、心底その感覚に酔いしれながら…歌った。
続いて、螺旋が始まった。
僕はまたすぐに打ち抜かれた。
演奏が僕の身体を犯し…その曲の切なさが僕の心を侵した。
「もうダメんなってんのか…」
曲が終わって、シルクが半ば呆れたように…でも、少しだけ嬉しそうに…僕に言った。
僕は既に、肩で息をしながら、ボロボロと涙を零していた。
「次、無題だけどー」
ああ…もっと泣きそう…
「そんでマスカレだけど?」
あああ…
考えただけでも死にそう…
そんな僕の気持ちはお構いなしに…カイのカウントが容赦なく響き、曲が続いていった。
「…なんか、いつも以上に酷くないー?」
「な、LIVEん時だって、もうちょいシャキッとしてたと思うけど?」
サエゾウとシルクが、すっかりダメになった僕を見ながら言い合った。
マスカレが終わった時点で、僕は…完全にその場に崩れ落ちてしまっていた。
「やり慣れてる曲なのにな…」
カイが、立ち上がりながらつづけた。
「こりゃーダメだな…休憩だな…」
ギターを下ろしたサエゾウが、僕の脇にしゃがんで…僕の顔を覗き込んだ。
「お前さあ…アヤメんときも、そんなんなっちゃってんのー?」
「…」
僕は震えて、大きく首を横に振りながら…ズルズルと床に倒れてしまった。
そっと目を開けて、サエゾウを見上げると…僕は呟くように言った。
「何で…」
「え?」
「何で…ここだと…こうなっちゃうんだろう…」
「…」
それを聞いたサエゾウは、僕の肩を掴んで仰向けにさせると…勢いよく僕に口付けてきた。
「…んんっ…」
彼はいつものように…いやらしく舌を絡ませてきた。
ただでさえ震えが止まらない僕の身体は、一層熱さを増していった。
「それ…ホント?」
ゆっくり口を離れたサエゾウは、わざと怒ったような表情で訊いてきた。
「アヤメとリハやるときは、なんないのー?」
「…」
僕は肩で息をしながら…黙って頷いた。
サエゾウは、更に強い口調で続けた。
「ちゃんと分かるように、言ってー」
「…?」
僕は、彼が何を求めているのか…すぐには理解出来なかった。
ベースを置いたシルクが…ふふっと笑いながら、僕の耳元でコソコソと囁いた。
「……」
ええー
そんな小っ恥ずかしい事を言えと??
僕は、袖に縋るような目でシルクを見た。
シルクは、さっさと言え…っという風に、サエゾウの方へ向かって顎をふいっと上げた。
「…」
僕はサエゾウを見た。
彼はまだ、怒ったような顔を作っていた。
致し方なく…僕は、若干棒読みな感じで言った。
「アヤメさんのギターで歌ってても、別に何ともないけど…サエさんのギターだと…」
「うん…俺のギターだと?」
「サエさんのギターだと…すぐ気持ち良くなって…どんどん勃っちゃって…」
「そんで?」
僕は…恥ずかしくて、また泣きそうな顔で続けた。
「…サエさんのが…欲しく…なっちゃうんです…」
「…」
それを聞いたサエゾウは…
ようやくニヤっと笑ってドヤ顔になった。
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