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光鬱デビューLIVE(1)

そしてついに…アヤメさんとのユニット「光鬱」の初めてのLIVEの日がきた。 結局、リハの段階では…残念ながらサエゾウの言う域までは達しなかったものの、それなりに映像を醸し出せる所までは持っていけたという手応えはあった。 あとは本番…どこまでテンションを上げられるか… きっとまた、実際の本番を通して見えてくるものもあるだろう… そんな思いを胸に、僕は会場へ向かっていた。 「おはようございます…」 既にリハーサルが始まっていた。 「おはよう」 僕は、先に到着していたアヤメの隣に座った。 周りを見回すと…他は皆、バンドばっかりのようだった。 「アヤメさん、よろしくお願いします」 他のバンドのメンバーが、次から次へと…アヤメに声をかけてきた。 「いや、今日はこっちがお世話になる方だからね…こちらこそよろしくお願いします」 アヤメは、いちいち丁寧に挨拶を返していた。 僕は、そんな彼の隣で…何となく小さくなっていた。 ふと気付くと…何だか、皆が…チラチラと、僕の方を見ているような気がしてきた。 視線を感じて振り返ると…サッと視線を逸らされる…みたいな。 「…」 「皆、お前が気になってしょうがないんだよ」 見透かしたように、アヤメが小さい声で言った。 そーですか… そーですよね…あのアヤメさんと、どこの誰かよく分かんないヤツが一緒にやるってんですもんねー 僕は、トキドルの…最初のLIVEの時の事を思い出した。 あのときも…スゴく緊張したっけ… 順調にリハが進み…ついに僕らの番になった。 ギターに加えて…PCを持ち込むっていう、ちょっと特殊なセッティングに…対バンの面々は、興味津々の様子だった。 しかも、アヤメだし! ああー こんなに注目されてる中でリハって… 「じゃあ…曲で、お願いします」 PAスタッフさんからの声がかかり…演奏が始まった。 僕は、緊張を押さえて…必死に聞こえてくる音に集中した。 目の前のモニターから、全ての音が返ってきていた。 「何か、モニター気になる事はありますか?」 曲が終わって、スタッフさんが訊いてきた。 僕は、恐る恐る…言ってみた。 「あの…何となく…横や後ろからも聞こえるようにって…可能ですか?」 「…」 スタッフさんは、少し考えている様子だった。 「そしたら…居ないけど、他の…ドラムの所とかからも鳴らしてみましょうか」 「…はい」 そして、次の曲が始まった。 目の前のモニターからの音量が、若干抑えられただけでなく、横や後ろからもバランス良く…音が返ってきた。 お、いい感じに…全体から聞こえるようになった! 途中で曲を止めて、アヤメが言った。 「なるほどね…すげーやりやすくなった」 「はい、とっても良い感じになりました」 スタッフさんは、満足そうにニコっと笑った。 その後も、僕はなるべく客席を見ないようにして、リハを乗り切った。 とりあえず、モニター環境は、万全に整った。 「本番よろしくお願いします」 リハを終えて…僕は、すごすごとステージを下りた。 片付けているアヤメの周りには、他のバンドの人たちが、輪になるように集まっていた。 「コレで音出してるんですか?」 「すげー迫力ありますね」 皆、彼の機材と…彼に対して、次々と称賛の言葉を口にしていた。 やっぱ、アヤメさんって…有名人なんだよな… 誰もが一目置いてるっていうか… ちなみに…僕の所には、もちろん誰も来なかった。 「ふうー」 ボーっと煙草を吸っていると…ようやく撤収したアヤメが戻ってきた。 「すごいな、カオル…」 「えっ…何が…」 「いや、モニターさ…」 「ああ…」 「そんな事、気付かなかったわ…お前に言ってもらって良かった、全然違った」 「…そうですか…」 機材を片付けてから…まだまだ本番まで時間もあったので、僕らは外へ出た。 「軽く飲んどく?」 「あ、はい…アヤメさんが大丈夫なら…」 「トキドルはいつも前飲みしてんでしょ?」 「はい…」 「俺は…本番前は滅多に飲まないけどな…今日は俺のイベントじゃないし…」 「…」 「カオルに付き合って飲んでもいいかな」 「あー僕のせいって言い訳ですかー」 ふふっと笑いながら…僕らは昼からやっている居酒屋に入った。 そして、いつものようにハイボールで乾杯した。 「自分のイベントじゃないって、気楽でいいな…」 ゴクゴクとハイボールを飲みながら、アヤメは言った。 そうか…自分のイベントだと、色々と気を遣う事も多いんだろうな… 僕は、いつも参加させてもらうばっかりで、そういう気苦労を考えた事も無かった。 あの日のLIVEの時も…僕の事でアヤメさんは、どんなにか辛い思いをしたんだろう… きっと、本当に僕らに申し訳なく思っての…ものすごく考えた上で、参加費を返却するっていう手段を選択したのかもしれない。 僕は、生意気にそれを突き返した、あの時の自分の言動を、今になって後悔した。 「あの…アヤメさん…」 「何?」 「あの…今更ですけど…こないだのLIVEの日…失礼な事言って、すいませんでした…」 「ええっ…とんでもない!…あのときは…」 言いながら彼は、勢いよく頭を下げた。 「あのときは…本当にすまなかった…酷い辛い思いをさせてしまった…」 「いいえ…ホントに…そこは大丈夫なので…」 「言ったら…あんな事があったのに、こうして一緒にやってくれるって…本当にありがとう…」 「…」 改めて頭を下げる彼を見ながら…僕は思った。 そうか… あんな事が…あったからこその、今があるんだな… 僕はアヤメに言った。 「逆に、そのおかげで…こうしてアヤメさんと一緒に出来るんですから…よかったんだと思います」 「…」 「全て、結果オーライですね…」 顔を上げたアヤメは、 まるで崇めるような目で、僕を見つめた。

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