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光鬱の打上げ?(1)
僕らは地元の駅に戻った。
「郁、どーする?」
「俺らは何もしてないからな…元気だし、どっか飲み行くかーって感じだけど」
「あ、大丈夫です…行きたいです…」
「んじゃ行こー」
「どこ行くか…」
「あの、新しく出来た中華居酒屋とか、どう?」
「いいねー行こー」
そんな訳で…僕らはゾロゾロと、店に入って行った。
「食べ放題コースにするか?」
「食べ…飲み放題がいいんじゃなーいー?」
「いやでも…言ってカオルとサエの腹が満たされればいいんだろ?」
「飲み放題にはしといた方がよくない?」
「2人分だけ食べ放題とか出来ないんですかね…」
「…でもほら…けっこうどれも安いですよ…コースじゃ無くて良いんじゃないですか?」
「面倒くさいからコースにしよう!」
散々賑やかしく悩んだ末に…その場をビシッとしめたのは、ハルト母さんだった。
それから僕らは、いつものようにハイボールと生ビールとレモンサワーで乾杯した。
飲み放題だからーって言うんで、ハイボールはメガに…ショウヤは、ちゃんと生レモンのサワーを頼んだ。
「唐揚げ2つねー」
「どうせなら高い方から頼もう…」
「海老チリ」
「豚の角煮!」
「サラダはどれが高いんだ?」
「いーよ、2つ頼んじゃえー」
「フカヒレあんかけ炒飯ってのもいっとく?」
「春巻きと餃子も食べたいー」
LIVEの本番だった僕はともかく…この人達は、今日は何にも無かった筈なのに、そんなに頼んで食べ切れるのか?
やっぱりコースにしない方が良かったんじゃないかな…
そんな事も思いながら…
値段の割には、とても美味しい料理の数々を前に…僕らは結局、順調に飲み食い進んでいった。
「いやでも…カッコ良かったですよね…」
だいぶ胃袋が落ち着いてきた所で、ショウヤがようやく、今日の本題を切り出した。
「そうだな…カオルの新たな一面を発見した」
「…そうですか?」
「カッコ良くてムカついたー」
「サエさんと一緒のときのカッコ良さには負けますよ」
サエゾウのお怒りコメントを、ショウヤがしれっとフォローした。
「アヤメも…良かったな…」
シルクがポソッと言った。
「うんうん…KYのときより、ずっと良かったね」
「やっぱりカオルさんの、持ち上げ効果力がすごいんですよ」
「すげー楽しそうだったしな…」
「…」
そうか…アヤメさん、楽しく出来たんだ…
アヤメが、以前のように気持ち良く弾けたなら…とりあえず今回のLIVEの目的は果たせたんだろう。
僕は、満足そうに微笑みながら…ハイボールを飲み干した。
「ちなみに、俺らも営業させてもらったからね」
「えっ…そうなんですか?」
「カオルがどうこうって言ってる子の所に、サエが突っ込んでいった」
「マジですか…」
「ショウヤが行けって言うからー」
「だって…カオルさんが気になるって言うなら、絶対トキドルを観てもらいたいじゃないですか!」
生レモンサワーが回ってきた感じの彼は、また熱く語り始めた。
「トキドルにとって今回のLIVEは、撒き餌でしかありませんよ」
「恐ろしいな、ショウヤは…」
「あんなカオルさん見たら、気になりますよね…そこへ、サエさんを筆頭に、この3人が出ていったら…そりゃあもう、見てみたいーってなりますよ!」
「…なるほど、確かにな」
ハルトも頷いた。
「でも、次のLIVEで、ちゃんと掴まなきゃダメですよ?間違っても…光鬱の方がいいとか、思わせちゃダメなんですからね!!」
「…」
「…」
「…」
酔っ払い面倒くさショウヤのお説教に…
3人様は、思わず口をつぐんで黙ってしまった。
「まっ…そこは大丈夫って確信はありますけどね」
上からショウヤは更に続けた。
「こっちはこっちで…強力にカオルさんに引っ張られてますから」
「…」
さすがに3人様は反撃に出た。
「何かそれ、俺らはオマケみたいじゃないー?」
「だよな、カオルがいなきゃダメなんじゃん」
「誰でもいいんだ」
「あーもう、そうじゃなくてー」
「俺らも撒き餌か…」
「バンド名変えるか」
「カオルとその家来たちとかー」
「だからーカオルさんに負けない力を持ってる人じゃないとダメなんですってー」
「大食いで勝てるのはサエしかいないしな…」
「ああーもうー」
「くっくっくっ…あはははっ…」
そんな…いつものように、いじられまくるショウヤの様子を見て、僕は思わず笑い出した。
「トキドルの3人は、カオルに負けない力を持ってるって…前に言ってたよね、ショウヤが…」
ハルトが言った。
「カオルに引っ張られて…自分もすごく成長してるっていう自覚…あるんでしょ?」
「…そりゃあ…まあね」
「うん…必死だけどね」
「やっぱアヤメより、俺の方がカッコいいー」
ハルト母さんの言葉に、3人は大人しく納得した。
それを見たショウヤは…またムキになって言った。
「もうーだから何で、ハルトさんの言う事は、みんな素直に聞くんですか!!」
「あはははっ…」
僕はまた、笑いながら…ショウヤに言った。
「だから…この人たち、大好きなほど、苛めたがるんですってば…」
「ああ…そうでしたね…」
思い出した風に、納得すると…ショウヤは溜息をつきながら、冷たい口調で続けた。
「カオルさんに対する態度と言い…全く、ホントに小学生みたいですよね…」
「…」
3人様は、また口をつぐんでしまった。
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