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光鬱のあとのそっちの2人(1)

「やっぱり、ちょっと寄りますか…」 「いいけど?」 ショウヤとハルトは…知り合いのやっている、狭いバーに入った。 「こんばんは…」 「おや、いらっしゃい…久しぶりですねー」 その店の、ガラは悪いけど良い人なマスターが、嬉しそうに2人を出迎えた。 「ご無沙汰してすいません…」 「いいえー全然…いつもので良いですか?」 「はい」 彼は、おしぼりを出すと…すぐに、生ビールとレモンサワーを出した。 そこも、狭いながらも音を出せる店だった。 たまにLIVEを企画したりもしていて…過去にトキドルが参加した事もあったのだ。 もちろん、メンバーがこの店に来た事もあった。 「トキドルは、どう?…頑張ってんの?」 「はい…」 「ボーカル代わってから、1回も行けて無いからなあー」 「あーそれはちょっと…見といた方が良いかも」 ハルトは、勿体ぶった感じで言った。 「YouTubeはチラッと見たよ、あの…なんかエロい感じのPVとか…」 「ホントですか?…あれ、僕が編集したんです!」 ショウヤが身を乗り出して、食い気味に言った。 「あの…妙に可愛い子がボーカルなんでしょ?」 「そうそう…そーなんですよー」 ショウヤは、目をギラギラさせながら続けた。 「是非見て欲しいです!」 「…そっか…分かった…」 マスターは、若干引き気味に答えた。 「あ、そうだ…今度またイベントやる予定なんだけど…そんとき、またトキドル出てくれたり…しないかな」 「あーそれは、カイに聞いてみないと分かんないな」 ハルトが言った。 「結構人気出ちゃったみたいだからね…声掛け辛かったんだけど…ダメ元で誘ってみるかな…」 「うん…たぶん大丈夫なんじゃないかな」 「そうですよね…カイさん、割と地元の繋がりを大事にする人だから」 「分かった…訊いてみるわー」 そう言って、マスターは早速、カイにメッセージを打った。 「…で、今日は何の会だったの?」 「あーあのね、その…新しいボーカルの子のLIVE…」 「トキドルじゃなくて?」 「そうなんですよーあんまり可愛くて上手いもんだから…他所から白羽の矢が立っちゃったんですよー」 「へええー」 「これがまた…良かったんですよー…ね!」 「うん…」 「そうなのか…」 結局…本題に入ること無く…酔っ払い饒舌面倒くさショウヤは…いつまでもマスター相手に、熱く語り続けてしまった… 「あ、いらっしゃいー」 他のお客さんが入って来て…ようやくマスターは、ショウヤから解放された。 「はあー」 散々語り尽くしたショウヤは、レモンサワーを飲みながら、大きな溜息をついた。 「で…相談したい事って何?」 ハルトがやっと、本題を振った。 「あーそうでした!」 完全に忘れていたショウヤは、大声でそう言った。 「真夜庭を…そろそろ撮りたいんですよ」 「うん…それは分かった」 「どっか良い場所…探さなきゃと思って…」 「…バーべキュー出来る所がいいんだっけ?」 「まあ…バーベキューは…出来たらいいなって感じですけど…皆で泊まれて、出来れば建物の造りも撮影に使えそうで…周りの自然環境も良い所がいいんですけど…」 「…」 「心当たりありませんか?」 「…んー差し当たり…無い」 「…そうですかーそうですよね…」 ショウヤは、シュンとして下を向いた。 「どうやって探したらいいですかね…」 「そうだなー」 ハルトは呟きながら、自分のスマホを開いた。 「撮影、コテージ…とかで検索してみるか…」 「…なるほど」 ショウヤもスマホを開いた。 しばらく2人とも、黙ってスマホを眺めていた。 「結構あるじゃん、良さそうなの…」 「ホントですね…イマドキは、何でもあるんですねー!」 「あーこの建物とか…いいかも」 「どれどれ…」 ハルトは、ショウヤのスマホを覗き込んだ。 「建物の内観もなかなか良いし…周りの自然環境も良さそうですね…」 「おおーホントだ、外国人っぽい」 「音は…出せるのかな」 「…うん、周りに何も無いから音出しもOKって書いてあるじゃん」 「…ホントだ…よし、じゃあココを第1候補にしときましょう」 「待って…でもこれ、時間貸しの料金出てるって事は、泊まれはしないんじゃないの?」 「あーホントですね…撮影専用なのか…」 「だったら、貸別荘…で検索するべきか…」 「バンドOKな貸別荘なんてありますかねー」 「あるだろ…イマドキは」 2人はブツブツ呟きながら、お互いのスマホを睨み続けていた。 「何探してるの?」 そんな2人にマスターが声をかけた。 「いや…PV撮影できる、おしゃれな別荘的なのを探してるんですけどね…」 スマホから顔を上げないまま、ショウヤが答えた。 「へえー…あっ林さん、那須に別荘持ってるって言ってましたよね?」 マスターが、さっき来たお客さんに声をかけた。 「…うん」 林と呼ばれた、その中年の男性は、しれっと答えた。 「…!!」 ショウヤとハルトは、パッと顔を上げて…その、林さんの方を見た。 「どんな建物ですか?周りはどんな感じですか?音は出してもいいんですか??」 またも身を乗り出して、ショウヤが捲し立てた。 林さんは、ちょっと圧倒されながら…答えた。 「…あー音は大丈夫だけど…俺もよくそこで、仲間と演奏合宿やるから…」 そして彼は、自分のタブレットを取り出して…その別荘の写真を見せてくれた。 「…」 2人は食い入るようにそれを見た。 「管理を任せてる所…紹介しようか?」 「お願いします!!」 間髪を入れずに、すごい勢いで2人は答えた。 「わ…分かった…」 林さんは、若干引きながらも…2人にサイトを紹介してくれた。 「俺の紹介って言ってくれたら、ちょっとは安くなると思うよ」 「ありがとうございます!!」 そんな感じで、無事…真夜庭の撮影場所が決まった。 (寄ってよかった…) ショウヤは心の底からそう思った。

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