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こっちの2人の続き(4)

何も視えない僕らは、爽やかな霊園散歩を楽しんでから…ようやく目的地のスーパーに辿り着いた。 「さてと…何が食べたい?」 「うーん…そうだなー」 一応、建前上は訊いてきたものの…僕の返事を待たずして、シルクはどんどん売場を物色しながら進んでいった。 黒くてカッコいい筈の、彼の黒い背中から… 本日の特売を漁る、お母さんオーラが…滲み出ているように見えた。 やがて、野菜売り場で…椎茸やらナスやらを手に取った彼は、言った。 「串カツでもするか…」 「えっ…」 串カツなんて…最近流行りの、大阪風串カツ居酒屋でしか食べた事ないぞ… 「家で串カツ!?」 「うん…何か揚げたいものあったら買って」 「…っ」 うわあー 僕は、断然ワクワクしてきた! 早速僕も、辺りに並ぶ野菜を物色し始めた。 シルクは更に、アスパラとれんこんをカゴに入れた。 「これもお願いします」 「俺はそれ食べないけど?」 僕が選んだのは、ミニトマトだった… それから、魚売り場と肉売り場を巡って…海老やら白身魚やら、牛肉やら鶏肉やらが、カゴに入っていった。 「あ、これもお願いします!」 僕は、カマンベールチーズを持ってきた。 「あ、それは食べる」 よかった… 実は僕には、もうひとつ…串カツ屋さんに行ったら必ず注文する食材があった。 でもそれは、100%間違い無く…シルクには却下されるだろうと、予想がついていた… 「あとはいい?」 「う…うん、大丈夫…」 少しだけ後ろ髪を引かれながら、僕は答えた。 そしてお会計を済ませて…僕らはまた、ハイボール缶を飲みながら、帰路に着いた。 家に戻って…シルクが着替えている間に、僕は、買ってきた物を、ドサドサと袋から出した。 やっぱり買ってもらえばよかったかな… 僕は何だかんだ言って、まだ後ろ髪を引かれていた。 とりあえず一服しながら… 僕は、ダメ元で…彼に訊いてみた。 「あのさ…この家、お餅なんて無いよね?」 「餅?!…何で?」 「えーと…あの…串カツに、したくて…」 「餅を?!」 「えっ…だって、串カツ屋さんのメニューにあるじゃん」 「そーだっけ…」 煙草を揉み消したシルクは…しょうがないなーっていう表情で、キッチンに戻ると…冷凍庫を開けた。 そして、奥の方から…きれいにラップに包まれた、白い四角い物体を取り出した。 「いつかの正月に、実家から送ってきたヤツ…1年以上経ってるかもしらんけど…」 「…!!」 僕は、目を輝かせて喜んだ。 「やったー!…すごいな、さすが…ここんちの冷蔵庫って、ホントに何でもあるんだね!!」 「自分で何とかしろよ…俺は食べない」 「あ…はい…」 シルクは食べないシリーズが増えてしまった。 そして、僕らは次々と、食材の仕込みをしていった。 野菜を切ったり…海老の殻を剥いたり… 2人で、ハイボール缶を飲みながら…それらを串に刺していく作業は、とても楽しかった。 冷凍庫でカチカチだったお餅は、少しだけチンしてから、縦に細長く切って串に刺した。 シルクは最後に…水溶き粉をボウルに作り、平たい皿にパン粉を開けた。 そして、揚げ油に火を入れた。 「あとはセルフでどうぞ、食べたいヤツを揚げてって」 「うわぁ…串カツバイキングのお店みたい…」 僕は早速…シルクが食べないシリーズの、ミニトマトと餅を手に取ると…水溶き粉をくぐらせ、パン粉を付けて…揚げ油に投入した! 彼は普通に、椎茸とナスをいった。 「もういいかな…」 「うん…野菜は揚げ過ぎ注意だ」 そして、こんがり揚がったそれを、その場で食べるのだ!! 「うん、美味いな」 「すっごく美味しい!!」 串カツパーティーだ〜!! それから僕らは、次から次へと…好きなのを選んで、揚げては食べていった。 キッチンで、立ち飲み立ち食いだったけど…それがまた、何とも楽しかった。 「今度、皆でやったら楽しそう…」 「そんなん…揚げてるそばから、サエとお前が全部食べちゃうんだろ?」 「あははは…確かにっ…」 実際、今日も…どう見ても僕が食べてる量の方が、間違いなく多い気がした。7対3くらいの割合で… 「もっと食べたかったら、勝手に串に刺していいんだからね…自分で!」 「わかった…あっ…お餅、まだある?」 「あるよ、むしろ全部食べてもらった方が有難いわ」 「いや…あと1個でいい…あっ…最後のカマンベールも食べていい?」 「どーぞどーぞ」 それはそれは楽しく…そして美味しく、僕はまだまだ、モリモリ食べ進めていた。 シルクはそんな僕の様子を…目を細めて見ていた。 まるで本当にお母さんのようだった。 「シルクは…もう食べないの?」 すっかり箸の止まってしまった彼に、僕は訊いた。 「ああ…」 「お腹いっぱい?」 「ん…まあね」 シルクは、意味深な感じで、含み笑いながら続けた。 「俺はあとで、太らせたお前を食べるから」 「…っ」 何かそんな絵本あったな… 美味しく食べるために、オオカミがヒヨコにケーキを作って持ってくって話… 「そろそろ食べ頃かな…」 言いながらシルクは、背中から僕を抱きしめると…お腹の辺りをさすってきた。 「…っ」 あああ… 今…その辺を確認するのはやめて欲しい…

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