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真面目にリハ?(1)

その日は、次のLIVEに向けての、最後のリハだった。 いつになく、彼らは真剣だった。 セトリは同じだし…何度もやった事のある曲ばかりの筈なのに…その日は、まるで時間を惜しむように、彼らは何度も同じ曲を繰り返したがった。 僕も…フラフラな身体を圧して…必死に彼らについて行くしかなかった。 「休憩するか…」 何度目かのゲネプロを終えて…ようやくカイが言った。 「…っ」 それを聞いて…僕はその場にヘロヘロと崩れ落ちた。 「ごめんねー」 そんな僕を見て…サエゾウは、悪びれも無くそう言うと…ギターを下ろしてさっさとカウンターに向かって行った。 肩で息を上げる僕の肩を、シルクが叩いた。 「付き合わせて悪かった…」 「…はぁ…はぁ…」 「よく頑張れたな…」 「…」 僕は顔を上げて…彼の目を見た。 「処理はよろしく…」 カイがそう言いながら…僕らの横を通り抜けて…カウンターの方へ行ってしまった。 それを聞いたシルクは、ふふっと笑いながら…そっと僕の股間に手を伸ばした。 「処理…する?」 「…っ」 僕は、ビクビクッと震えながら…小さく頷いた。 致し方無さそうに…彼は僕の身体をその場に押し倒すと、僕のズボンを下ろした。 「…んんっ…」 そして、いきり勃った僕のモノを握ると…その濡れた尖に舌を這わせてきた。 「はぁっ…あっ…」 更にビクビクと震える僕のシャツを捲り上げて…彼の指は、僕の乳首を捉えた。 「んんんっ…あっ…ああ…」 その刺激は…それまでに貯まった、彼らからの音の愛撫によって熱く渦巻いていた身体中の快感を、あっという間に出口に向かって押し上げていった。 「はぁっ…あっ…んんっ…」 ほどなく僕は、愛液を吐き出した。 それを見て…ホッと安心したように、シルクは手を離した。 そして、すぐに僕の身体を拭いた。 「はぁ…はぁ…」 息を上げる僕の…ズボンもちゃんと上げて…彼は、僕の身体を起き上がらせた。 「…シルクは…大丈夫なの?」 いつになく落ち着いた感じの彼に向かって、僕は訊いた。 「うん」 そう言い残して、シルクもカウンターに向かった。 僕もゆっくり立ち上がって…後を追った。 「はい、お疲れ」 言いながらカイがハイボールを出してくれた。 僕はそれを飲みながら…煙草に火をつけた。 「今更なんだけどさー」 同じく…いつになく落ち着いて真剣な顔をしたサエゾウが、言い出した。 「宵待ち…なんだけど…今回は、1番全部ギターだけにしてみてもいいー?」 「アコースティックな感じ?」 「うん」 「2番は、ベースとドラムがうっすら入って…サビでドカーンと来る感じにしてみたいんだけどー」 「いいんじゃん?」 「やってみよう」 サエゾウは、ピョンっと立ち上がると…スタスタとギターの方に向かった。 そしてギターを持って…ポロポロと、弾き始めた。 「ヤル気満々だな…」 そんなサエゾウを見ながら、シルクが呟いた。 「ああ…」 カイも頷くと…カウンターを出た。 「まだ、ゆっくりしてていいからね…」 彼は僕の肩を叩いてそう言うと…ドラムの方に向かっていった。 「…」 そんな2人を見送って…僕は、小さい声で、隣に座ったシルクに訊いた。 「何で急に…皆そんなに真面目になっちゃったの?」 「そんなの決まってんじゃん」 彼は、ハイボールを飲みながら答えた。 「お前に負けたくないからだよ…」 「…いつもどっちかって言うと…負けてる気がするんだけどな…」 「自覚無いってのも才能だよな…」 シルクは言いながら、僕の頭を撫でた。 「だからこそ…限界を自覚してない分…いくらでも伸びしろがあるんだな…お前は」 「…」 「やっぱり敵わないな…」 「…」 そんな事…全然無いのにな… それでも、何度も繰り返していく中で…彼らの演奏が、より一層精度を上げているのは確実だった。 僕も…負けないようにしなきゃ… 煙草を揉み消して、ハイボールをゴクゴクと飲んだ僕は…力強く立ち上がった。 シルクも、ベースの位置に戻った。 サエゾウは、宵待ちの…例のアコースティックの部分を、何度も試し弾きしていた。 「じゃあ、宵待ち…やってみよう」 カイの号令で…サエゾウがイントロを弾き始めた。 えっ… これが…あの曲?? 僕は一瞬戸惑った。 いつものイントロとは、全然違っていた。 「…っ」 それなのに…その美しいリフに乗せて… 僕の目の前に…あの公園の、あの月の風景が…いつにも増して、鮮明に現れたではないか… 何の打ち合わせも無かった。 それでも、僕には…歌い出しのタイミングが、すぐに分かった。 歌い始めた僕の身体を…サエゾウのギターが背中から抱き締めてきた。 それは、とても激しく…いやらしく僕の身体に纏わりついた。 「…」 僕は…その快感に震えながら… そして、目の前に浮かぶ…月を見上げながら、歌い上げていった。 やがて…ドラムとベースが、静かに絡んできた。 2人の音は、また更に…僕の身体にジワジワと侵食していった。 と、そこへ… それまでのジワジワを、一気に極点へと突き上げるかのような、3人のサビのリフが…まさにドカーンと激しく鳴り響いた! あああ… その演奏は…雨の満月の夜の、宵待ちの人の歪んだ幸せな心境を…それはそれは如実に表現し、映像化していった。 いつの間にか僕は… 目を閉じて…涙を流しながら、歌っていた。

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