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真面目にリハ?(2)

「いいな…アコースティック宵待ち…」 「サエ流石だな…」 「だろー?」 3人は…感極まった表情で、その余韻に浸っていた。 「……」 僕に至っては…まるで首根っこを掴また猫のように…パタッとその場に倒れ込んで、動きを封じられてしまった。 「即死ー」 サエゾウは、そんな僕を見て…満足そうにふふんと笑った。 「もう1回やりたい所だけどな…」 「無理っぽいな…」 動かなくなった僕を見て…シルクは言った。 「ま、いいんじゃない?…たぶんコレ、出たとこ勝負の方が、逆に良い気がするー」 「そーかもな…」 僕は、起き上がれなかった。 それは…勃っちゃうとか、イっちゃうとか…もう、そういうレベルでは無かった。 「終了だな…」 「ホントにトドメ刺しちゃったー」 「サエの気迫が半端無かったからな…」 ホントにそれな… サエさん激し過ぎた…恐ろしいくらいだった… 僕は…完全に終わっていた… 3人様が楽器を撤収している間も…僕はその場から動けなかった。 ようやく、自分の片付けを終えたシルクが、またちょっと致し方ない感じで…僕の身体を抱き起こした。 そして、とりあえずソファー席に、僕を運んで…横にさせた。 「悪いけど…俺は今日は帰るから…」 「…っ」 「明日、仕事で、朝早くに出なきゃいけないから」 「…」 僕は、力無く…縋るような目で、シルクを見た。 「あいつらに何とかして貰って…」 そう言ってシルクは…ふっと笑いながら、僕から離れていってしまった。 「えーシルくん帰っちゃうのー?」 楽器を担いで、さっさと出ようとする彼に、サエゾウが言った。 「悪い…マジで仕事だから」 「なんだよなーもうーカオルがあんなんじゃ飲みにも行けないしー」 「ホントごめん…」 「じゃあ来週…本番よろしくね」 カイに見送られて…シルクは、しれっと出ていってしまった。 「つまんないのー」 サエゾウは、溜息をつきながら…煙草に火をつけた。 「悪いんだけどさ…サエ」 「んー?」 「俺も今日…店番なんだ…」 「ええー?!」 サエゾウは、カウンターに突っ伏した。 「マジかー」 「お持ち帰ってくれ…あれ」 そう言ってカイは、僕の方を指差した。 「あんなヘロヘローどこでもドアが無いと持って帰れないじゃんー」 「…」 僕はちょっとムッとしながら…必死に立ち上がった。 「…大丈夫です…帰れます…」 「おい、無理すんな…」 カイが言った。 案の定…僕は、2〜3歩進んだ所で、フラフラっと倒れそうになってしまった。 「…っ」 素早く立ち上がったサエゾウが…崩れた僕の身体を抱き止めた。 「もうー」 「…」 「しょうがないなー」 意地悪い口調とは裏腹に…彼は優しく僕を抱き寄せると、ゆっくりカウンター席に座らせた。 「ちゃんと歩けるようになるまで大人しくしててー」 「…」 そう言って彼はまた、煙草を咥えた。 「…すいません」 僕は項垂れながら…震える手で、さっき飲み残したハイボールを飲んだ。 カイがテキパキと、開店の順をしているらしい音を聞きながら…僕は、そのまましばらくカウンターに突っ伏していた。 サエゾウは自分のスマホをいじりながら…時々ハイボールのグラスに手を伸ばしていた。 「お腹空いたー」 やがてサエゾウが、耐え兼ねたように呟いた。 「カオルまだ元気んなんないー?」 「…」 僕は、頭をムクッと持ち上げると…ゆっくり立ち上がってみた。 とりあえず、もうフラフラする事は無かった。 「…大丈夫そうです」 「んじゃ行こうー」 サエゾウは、また、ピョンッと立ち上がると…さっさと自分のギターを背負った。 「気をつけてな…」 「はい…」 「じゃーねー来週ねー」 カイに見送られて…僕らは店を出た。 「何か作ってー」 そう言ってサエゾウは…まだ若干、足取りの覚束ない僕の腕を掴んだ。 「…どっかに食べに行くんじゃダメなんですか?」  僕は、ちょっとメンドクサそうに言った。 「カオル飯が食べたいー」 「…そうですか…」 こないだLIVEに来てもらったアレもあるしな… 致し方なく、僕は…サエゾウと一緒に、彼の家に向かった。 あんまり進んでしまうと、100円ショップしか無くなってしまうので…僕らは少し手前の、ちょっとしたスーパーに寄った。 「何か食べたいものありますか?」 「んーとね…鶏肉ー」 僕は精肉売場に行って、唐揚げ用にカットされた鶏肉のパックを手に取った。 「唐揚げですか?」 「んー唐揚げも良いけど…キノコとか緑のとか巻いてあるのがいいなー」 「は?」 そーだった! サエさんの言う鶏肉は、鶏の肉じゃ無かった。 僕は、鶏肉のパックを戻すと…薄切りの豚肉をカゴに入れた。 肉巻きか…メンドクサいな… 思いながらも、僕は野菜売場に戻って…エノキとアスパラもカゴに入れた。 「サラダも食べますか?」 「食べる!…あの中華屋で出てくるツルツルしたのが入ってるヤツがいいー」 春雨サラダか… これまたメンドクサいな… 致し方なく僕は、もやしとにんじんと…キュウリもカゴに入れた。 主役の春雨と…卵とハムもいるな… 味付けはどうしよう…酢なんてあるのか?あの家… 「酢…ありますか?」 「すって何ー?」 「酸っぱい調味料です」 「…分かんないー」 またも致し方なく… 僕は調味料コーナーで酢を手に取った。 「あーこれこれ、これが食べたいー」 そう叫ぶサエゾウの所へ行ってみると… 彼は、惣菜コーナーで、まさに春雨サラダを手に取っていた! 「…っ」 僕は思わず、強い口調で言ってしまった。 「じゃあもう、それ買ったらいいじゃないですか!」 「えー」 サエゾウは、目をウルウルさせながら…まるで彼氏に甘える女子のように言った。 「だって…カオルの手料理が食べたいんだもんー」 「…」 もうーホントに… ホントに、そーいうのはいいですから!!!

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