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空腹のサエゾウ(2)
先に食べられてしまった僕は…若干疲弊しながらも、サエゾウの本当のお腹を満たすべく、料理に取り掛かっていた。
「はい乾杯ー」
サエゾウは、ハイボール缶を僕に渡して、無理矢理乾杯すると、それをゴクゴクと飲んだ。
僕も、とりあえずひと口飲んでから…また手を動かしていった。
「手伝ってあげてもいーよー」
「…」
何かその…上からな言い方が気に食わないな…
思いながらも、僕はニッコリ笑って言った。
「じゃあ、これに…その春雨と野菜を入れて混ぜてください」
僕は、炒り卵の入ったボウルと、茹でた春雨の入った皿と、茹でたにんじんともやしの入ったザルを、彼に渡した。
「全部入れていいのー?」
「もやしは半分残してください」
「…」
サエゾウは、辿々しい手つきで、それを混ぜていった。
僕はハムとキュウリを千切りにすると、彼の持っているボウルにドボドボと入れた。
「うわーっ」
「そのまま混ぜてってください」
サエゾウに混ぜさせながら…僕は更に、酢と砂糖と醤油と塩を加えていった。
「ゴマとかゴマ油とか、あります?」
「んーない」
「…」
しまったなー
ヤツらがいないと、中華感が出ないな…
ま、しょうがないか…
「そしたら、それ…何かお皿に盛っておいてください」
「何でもいいのー?」
「サエさんがいいなら良いです」
サエゾウは…ラーメンを食べるようなどんぶりを取り出して…それを盛り付けていった。
「……」
ま、いっか…
どうせ食べるのはサエさんだし…
そして僕は、肉巻きに取り掛かった。
薄切り肉を広げて、エノキとアスパラを乗せて、ハジからくるくると巻いていくのだ。
「何それ楽しそうー」
「どうぞどうぞ、やってみてください」
サエゾウは、僕の隣に擦り寄ってくると…見よう見まねで、同じように巻いていった。
「上手じゃないですか!」
僕は、ワザと大袈裟に…驚いたように言った。
「ふふーん」
サエゾウは得意気に…次から次へと巻いていった。
よしよし…
調子に乗った彼にそこを任せて…僕は、余ったエノキとアスパラを、コーンと一緒に、アルミホイルに包んでいった。
「スゴく綺麗ですね…僕より上手かも…あっ、それ終わったら、こないだみたいに、唐揚げをお皿に乗せて、チンしといてもらってもいいですか?」
「分かったー」
単純サエゾウに次の仕事を言い渡して、僕は食パンをオーブントースターに並べていった。
そして、食パンが焼かれている間に…サエゾウが巻いてくれた肉巻きを、フライパンで焼きにかかった。
同時にホイル焼きも、グリルに突っ込んだ。
チーン…
「唐揚げチン終わったー」
「そしたら、大きめのお皿に、コレと一緒に盛り付けてください」
僕は、残ったもやしのザルを渡しながら言った。
「どーやって?」
「これをキャベツだと思ってください」
「キャベツじゃないじゃんー」
「…っ」
変なところで拘るよな…
ブツブツ言いながらも、もやしと唐揚げを皿に盛りつけるサエゾウに向かって、僕は続けた。
「それ終わったら…ゆで卵の殻も剥いてもらえますか?」
「えー」
若干不服そうな彼に…僕は更に言った。
「あーサエさんには難しいですかね…?」
「…っ、そんなん出来るに決まってんじゃんー」
若干ムッとしながら、単純サエゾウは…すぐにゆで卵に取り掛かった。
よしよし…
心の中で含み笑いながら…僕は焼き上がった肉巻きを、皿に盛った。ホイル焼きも、良い感じに焼けた。
「ありがとうございます…あとはやりますから…出来たヤツをテーブルに運んでもらっていいですか?」
「オッケー」
ゆで卵も上手に剥けたサエゾウは、上機嫌で、皿に盛られた料理を、次々にテーブルに運んでいった。
その間に僕は、サンドの仕上げにかかった。
今日のカオルサンドは、ゆで卵キュウリと…シンプルな辛子マーガリンのハムサンドだ。
最後にサンドをテーブルに運んで…ようやく全てのメニューが出揃った。
「すっげー美味そうー!」
サエゾウは、目をキラキラと輝かせた。
リクエストの肉巻き、春雨サラダにカオルサンド…
冷凍唐揚げ盛りと、アスパラ、エノキ、コーンのホイル焼き…
メンドクサかったけど、なかなかに豪華な食卓になって…僕は相当、自己満足だった。
「いただきまーす」
「いただきます…」
僕らは再び乾杯して…早速、食べ始めた。
「鶏肉美味いー!」
…豚肉ですけどね
「サエさんが上手に巻いてくれたから、スゴく美味しいですね…」
と、僕は言っておいた。
「サラダも美味いー」
「サエさんが混ぜてくれましたから…」
「唐揚げも美味いー」
「サエさんがチンしてくれたやつですねー」
「うんうん…カオルサンドもめっちゃ美味いー」
「サエさんがゆで卵剥いてくれましたから…」
「何だー全部俺じゃんー」
「…」
「俺が作ったから美味いのかー」
呟きながら、サエゾウは…満足そうにバクバクと食べ進めていった。
「…」
そんな彼を見て…
僕は、サエゾウを料理してやった自己満足感も、味わっていた。
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