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黒いワルツ(2)
サエゾウにもらったハイボール缶の残りを飲み干して…とりあえず一服してから…
僕は彼に気付かれないように、静かに部屋を出た。
いや、例えうるさく出たとしても、サエゾウは全く気付かなかったとは思うが…
お疲れのサエさんに、何か作ってあげないと…
そう思って僕は、いつもの100円ショップに行った。
昨日はサンドだったからな…今日はごはんかな…
しまった…お米の在庫を確認して来なかった…
「…」
致し方なく、僕は冷凍ピラフを手に取った。
牛乳、玉ねぎ、溶けるチーズもカゴに入れた。
あー小麦粉も…無いだろうな…
僕は、小麦粉もカゴにいれた。
こんな大きなの使い切れないよな…せめて、もうちょっと小麦粉使う物を作るか…
卵も残ってるし…少ない油で揚げ焼きだったらできるかな…
僕は、本物の鶏肉もカゴに入れた。
あとは本物のキャベツの千切り…
キュウリも1本残ってるから、ちくわでも買おう
もう1品何か欲しいな…
悩んだ挙句に、僕は厚揚げを手に取った。
薬味は玉ねぎのスライスでいいか
和洋折衷になっちゃうな…
いっその事、これもいっとこう
僕は…厚揚げの近くにあった、チンするだけの小籠包もカゴに入れた。
和洋中折衷だ…
それから酒コーナーで、ハイボール缶と、安い白ワインもカゴに入れた。
ポテチも買っとくか…
僕は、ふふっと笑いながら、前にサエゾウが選んでいた、コーンスナックをカゴに入れた。
買い物を終えて…僕はサエゾウの家に戻った。
「…ただいま…」
返事は無かった。
彼はまだPCの前に座って、黙々と作業を続けていた。
「…」
僕は、勝手にキッチンに買ってきた物を広げると…早速料理に取り掛かった。
まずは、鶏肉の下味…塩、醤油、生姜を入れたビニールに、僕は鶏肉をぶち込んだ。
次に、玉ねぎを薄くスライスして、ボウルに入れて水に晒した。
それから、キュウリをちくわの長さに揃えて切って、穴に詰めた。
切るのは直前でいいや…
残ったキュウリは、キャベツと一緒に付け合わせに使おう。
あとは、ピラフをチンしている間に…マーガリンで玉ねぎを炒めて…しんなりしたら、小麦粉を入れる…そして、牛乳…
トロミが出たら、塩コショウで味を整えて、ホワイトソースを作った。
チンしたピラフを、大きめの深さのある皿に盛って…その上に、ホワイトソースをたんまり乗せる。
そして溶けるチーズをかけて、ドリアの仕込み終了。
厚揚げは食べやすい大きさに切って、ホイルに乗せてスタンバイした。
揚げ焼きの衣も作っとくか…
晒した玉ねぎを小さい皿に取って…空いたボウルに、卵と小麦粉…砂糖、塩を入れて混ぜておく…
小籠包も、更に盛ってラップをかけた。
サエさんの作業が終わったら…
まずは小籠包のチン…それからドリアをオーブントースターで焼きながら…フライパンで揚げ焼きしながら、グリルで厚揚げだな…
よし、準備オッケー
僕は、フライパンに多めの油を入れて…そしてやっと、冷蔵庫からハイボール缶を出して、プシュッと開けた。
「ふうー」
大きな溜息と一緒に、サエゾウが立ち上がる音がした。
僕は、ハイボール缶を持って、PCのある部屋に入いると、サエゾウにそれを手渡した。
「お疲れ様でした…」
「こんな感じで合ってるかなー」
それを受け取って、ゴクゴクと飲みながら、彼はマウスをクリックした。
「…」
スピーカーから、曲が流れてきた。
僕が最初に入れた歌に合わせて…ベースとギターがかぶっていた。もちろんドラムパターンも…曲の雰囲気に合わせて変えられていた。
「…っ」
曲の展開といい…間奏の雰囲気といい…
それは…まさに、
僕が思い描いていた世界そのもの…だった!
「サエさん…すごい…」
曲が終わって…僕は魂を抜かれたように、呟いた。
「合ってるー?」
「合ってるなんてもんじゃ無いです!」
「んじゃよかったー」
「ありがとうございます!!」
言いながら…
僕は思わず、サエゾウに抱きついてしまった。
「…っ」
サエゾウは…嬉しそうに、ふふっと笑いながら…そんな僕の髪を撫でながら言った。
「黒い…ワルツ…かなー」
「…」
僕は、ゆっくり顔を上げて答えた。
「はい…僕も、そう思ってました」
グ〜〜ッ
そのとき、サエゾウのお腹が大きな音で鳴った。
「…!」
「…お腹空いたー」
「あはははっ」
僕は笑いながら、彼から離れた。
「すぐ準備します!」
そう言って僕は、キッチンに戻った。
ほどなく…計画通りに作業を終わらせて、僕らはテーブルに並んだ料理を囲んで座った。
「やったー今日もカオルごはんー」
「お疲れ様でした」
僕らは、白ワインで乾杯した。
「和洋中折衷ですいません」
「めっちゃ美味そうー」
サエゾウは、嬉しそうにバクバクと食べ進めた。
「今日はスイマセンでした…折角の美術館、途中で帰る事になっちゃって…」
「別に全然いーよー」
言いながらサエゾウは、思い出したように、自分のスマホを取り出した。
「レンに言っとくー」
「誰ですか?」
「あの絵ー描いた人…」
「ああ…何とかレン…って書いてありましたね」
「レンの絵のおかげで新曲出来たってー」
「よろしく伝えてください」
レン…
彼との出逢いが、また、後々面倒を引き起こす事になろうとは…そのときの僕には、これっぽっちも思い及ばなかった。
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