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凌辱のLIVE(1)

「何でこのタイミングで新曲送ってくるかなー」 「だってカオルが作っちゃったんだもんー」 「せめてLIVE終わってからにしろよ…」 トキドルのLIVEの日…リハの順番を待ちながら、3人様が言い合っていた。 「…すいませんでした」 「いやまーいいんだけどさ…」 「うっかり聞いちゃって…練習しちゃったよ…」 「な、そんな暇あったら、今日やるヤツ練習しなきゃいかんのに…」 ブツブツ言っているカイとシルクに向かって、サエゾウはビシッと言い切った。 「でもだってー名曲でしょー?」 「うん…」 カイとシルクは、致し方なさそうに…ニヤッと笑って頷いた。 その日は…前にも出た事のある、隣駅のライブハウスのイベントだった。 順調にリハーサルを終えて…僕らはいつものように、近所のファミレスで、ハイボールで乾杯した。 そしていつものように…ハルトとショウヤが合流した。 「真夜庭の撮影場所、決まりました!」 席につくや否や…ショウヤが前のめり気味に言った。 「へえーどこ?」 「那須です」 「そんな遠くまで行くのか…」 「バーベキューも出来るコテージですよ!」 「マジかーめっちゃ楽しみー」 「来週、日帰りで下見に行ってきます」 「すげーな、気合い入ってんな…」 「自分が楽しいだけだろ?」 「はい、その通りです!」 「あはははっ…」 そしてまた…いつものように、ビールとレモンサワーも加わっての…2度めの乾杯をしてから、ハルトが続けた。 「向こう口の…あの、イベントやってる店の…お客さんの別荘なんだよね」 「へえーそうなんだ…」 「なるほど…だからイベントの話が来たのか」 「出れそう?」 「もちろん、出るって返事した」 「ホント?…よかったー」 「ありがとうございます!」 そんな感じで、次のLIVEの話もしつつ…僕らはいつものように、飲み進めていった。 「今日は、どんな感じですか?」 「対バンにメンドクサい奴いないの?」 言いながら、ショウヤとハルトは、僕の方を見た。 「あー今日は…特に…」 「いじめてくる人とか、処理したがりな人とか」 「あはははっ…大丈夫です、平和です」 「でも、観にくるんだろ?」 「元処理したがりー」 そうだった… アヤメさん、観にくるって言ってたな… 結局、光鬱のLIVE以来…LINEで連絡は取っていたものの、実際に会うのは初めてだった。 打上げも反省会も出来ていなかった。 「ちゃんと挨拶しとけよ?」 シルクが、珍しく真面目な顔で言った。 「…うん、分かってるよ…」 「処理は絶対ダメー」 「そんぐらいは弁えてんだろ」 「たぶんね…」 その日も、トキドルの出番は最後だった。 割と長い時間飲み進んで、調子も上がったところで…ようやく僕らは会場に戻った。 ドリンクコーナーに、いつもの女子グループと、高校生の2人組…それに加えて、先日…光鬱のLIVEで、サエゾウがナンパした女子達が来ていた。 「わあー来てくれたのー」 サエゾウが、パァーっと爽やかな笑顔になった。 出た… エセ好感度ナンバーワン… 「ほらーカオル、こないだ来てくれてた子達だよー」 サエゾウは、僕の首根っこを掴まえて…彼女たちの方に引っ張っていった。 「わあーカオルだー」 「えっ…何か違くない?」 「何か可愛い…」 「…」 「何か言えー」 「あ、毎度…ありがとうございます…」 「あはははっ…」 「ウケるー」 「めっちゃカワイイー」 彼女たちに捲し立てられて…顔を真っ赤にしている僕の代わりに、サエゾウは流暢に会話を盛り上げてくれていた。 「いつもありがとうね…カオル、あっち行っちゃってごめん…」 シルクが、いつもの女子たちの所に入っていって声をかけた。 「全然大丈夫です〜」 「シルクさんがそんな気を遣ってくれるだけで嬉しいです…それに…」 「それに…?」 「トキドルのファンが増えるって…私たちも嬉しいですから…」 「…っ」 シルクは…更に彼女たちに近寄った。 「そんな風に言ってくれて…ホントにありがとう…」 言いながら彼は、彼女たちを…ひとりずつ順番に、抱きしめていった。 「あーシルクんー何やってんのー!」 それを見たサエゾウが、プンプンしながら叫んだ。 「…っ」 「ヤバい…」 彼女たちは、顔を真っ赤にして、感動に打ち震えていた。 「俺たちも同じ気持ちですよ…」 「僕も光鬱…観たかったなー」 いつもの2人組…ヒカルとリクも、カイに向かってそう言った。 「ありがとう…何なら、俺が抱きしめてやろうか?」 「あ、それは大丈夫です…」 「あはははっ…」 「楽しそうですね…」 「うん…ホントに、お客さんを大事にしてるよね」 少し離れた所から見ていた、ショウヤとハルトが呟き合った。 「でもなあー」 「ん?」 「カオルさん…もうちょっと何とかなんないもんですかねー」 「ああ…」 結局、サエゾウの隣で小さくなって…たまにイジられては、顔を赤くしている僕を見て、彼らは溜息をついた。   「そこに関しても、何かスイッチあるのかもね」 「あーなるほど…」 「でも、そのスイッチ入ったら…たぶん終わるよ」 「えっ?」 ショウヤは、ハルトの方を見た。 「…素のカオルは、あのままでいいと思うよ…」 「…」 「どうせステージでは、どんどん…どんどん進化してっちゃうんだからさ…」

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