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凌辱のLIVE(4)

赤や青の景色や、春夏秋冬の庭の風景を経て… サエゾウが…渾身の宵待ちの月のイントロを弾き始めた。 会場は一気に、あの夜の公園になった。 そこにホワッと浮かび上がった、宵待ちの月を見上げる僕の背中に…サエゾウのギターが、とてもいやらしく絡みついてきた。 僕は…その快感に顔を歪めながら、歌い出した。 やがてそこへ、カイとシルクの愛撫が加わった。 ビクビクと震えながら…何とか歌い続ける所へ、ついに2度めのサビが、雷のように激しく、僕と会場を突き上げた! 「…っ」 僕は震え上がった。 僕だけでは無かった… それは、そこにいる誰をも…1人残らず震撼させた。 そんな荘厳な景色の中、曲が終わり…怒涛の凌辱LIVEも、ついに最後の曲となった。 皆息を上げ…興奮冷めやらぬ感じの客席に向かって…それ以上に息を上げながら…サエゾウとシルクが、最後のMCを喋った。 「今日もホントにありがとうねー」 「楽しかった?」 「楽しかったー」 「シルくーん!」 「サエ様ー」 「カイー」 「…ちなみに…カオルちゃんは、大丈夫かなー」 「あー」 「……」 まさに、3人様に凌辱され尽くされた僕は…髪を乱し、衣装も着崩れて…茫然自失な感じで、バスドラに身体をもたれかけて座り込んでいた。 「カオルー」 「カオルー頑張ってー」 「エロいー」 「エロいって言われてますよ…」 「ホントにね…ここまで思惑通りに汚されちゃうとは思わなかったわ…」 (こんなLIVE…ありなのか…?!) アヤメは、完全に度肝を抜かれていた。 手に汗を握りながらも…ステージから、一瞬たりとも目を離す事が出来なかった。 (これが…あいつの本当の居場所なんだな…) (前見たときより、数段パワーアップしてる…) ま、パワーアップした分、消耗も激しいんですけどね 「シルくんが立たせてあげればー?」 「サエ様のがいいだろ?」 「何ー今更ガマンしてんのー?」 「ガマンしてんのはお前だろ?」 そんな夫婦喧嘩漫才みたいなやり取りが続く中… まさかの…カイが、ドラムから立ち上がってきた。 「しょうがないな…」 言いながらカイは、僕の身体を抱き起こした。 「キャーッ」 「カイー!!」 僕はまた、縋るような目で…カイを見つめた。 「まだ…終わってない」 「…」 カイは、僕の耳元に顔を寄せて… 皆に聞こえるように言った。 「皆…まだ足りないってよ」 「…っ」 「キャーッ」 「ヤバい…」 「足りなーい」 またも会場は…歓喜の声に包まれた… 僕は、泣きそうな顔になりながらも…必死でフラフラと立ち上がった。 「カオルー」 「カオルヤバいー」 「カオル頑張ってー」 そんなカオルコールに応えて… 僕は力無く…それでも、精一杯の想いを込めて…客席に向かって、ニヤッと笑った。 「…っ」 「…!!」 何か…静かになってしまった… 「んじゃ…ホントに最後だからねー」 「お腹いっぱいにして帰れよ」 そう言って2人はカイの方を見た。 頷いたカイは…カウントを叩いた。 神様のイントロが始まった。 途端に客席は、また大きく揺れ始めた。 ストンと何かが降りてきたように…僕はシャキッと目の色を変えると…曲に合わせて身体を揺らす、ひとりひとの眼を…僕は順々にギロギロと見つめていった。 ハメルンの笛吹きのように…心を奪われた子どものように…目を合わされた誰もが、僕に連れ去られていくような光景だった。 「あああ…カオルさん…」 ショウヤも例外では無かった。 「…っ」 ハルトは必死に踏み留まった。 (ヤバい…連れて行かれる…) アヤメは思わず、両腕で自分の身体を支えた。 (何で、こいつらは…こんな風に出来るんだ?) 連れ去られた皆は、まるで取り憑かれたように踊り狂っていた。 その景色は、更に僕を突き上げた。 後ろの3人に凌辱されながら…傍観者たちに、それを祝福されているような嗜虐に…僕は酔いしれながら歌い…舞った。 曲が終わった。 「はぁ…はぁ…」 そのまま僕は…崩れるようにその場に蹲った。 カイがドラムから出てきて…また3人が並んで礼をしながら…幕が下りていった。 拍手と声援は…いつまでも鳴り止まなかった。 「…」 余韻に浸っていたハルトが、ハッとして言った。 「今日も写真集作戦だな…」 「…は、はい」 「新しい子もいるからね、頼むよ、頑張って」 「…わかりました」 物販コーナーにショウヤを追いやってから、楽屋に向かおうとしたハルトは…そこにアヤメの姿を見付けた。 「あ、アヤメさん」 「…どうも」 「ちょうど良かった…こないだ光鬱に来てた子たち…前の方に居ますから、声かけてあげてください」 「えっ…」 急にそんな風に振られて…アヤメは、若干の戸惑いを隠せなかった。 (使えるモノは使わなきゃね…) ニヤっと笑いながら、ハルトは急いで楽屋からステージに入って行った。 「………」 前回以上の惨状だった… もちろん、僕は倒れてそのまま… シルクはベースを抱えたまま、アンプにもたれかかって、しゃがみ込んでいた。 カイは膝立ちで…両手を床に落として、下を向いたまま…ハァハァと大きく肩で息をしていた。 サエゾウに至っては、ギターを放り投げて、その場に仰向けに転がってしまっていた… 「うわーっ…どうしちゃったんですか…」 片付けにやってきたスタッフさんが…その光景を見て、絶句した。 「あースイマセン…この人たち、全力投球し過ぎちゃうんですよね…」 スタッフさんは、真剣な表情で続けた。 「長年ライブハウスで働いてますけど…メンバー全員がこんなんなっちゃってるのは、初めて見ました…」 「あははは…ですよねー」 ハルトは苦笑した。

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