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下見(1)
「ショウヤさんが、車を運転できるなんて、知りませんでした…」
「以前はよく遠出して、風景写真を撮ってました」
「そうなんですねー」
LIVEの翌週…僕は、ショウヤとハルトに誘われて、撮影場所の下見に同行する事になった。
「しかも…車持ってたんですねー」
「店の車ですけどね…」
ショウヤの運転するワゴン車の…ハルトは助手席に、僕はすぐ後ろのシートに乗り込んだ。
「こないだは、お疲れ様でした…片付け、大変だったんじゃないですか?」
ショウヤが、後ろの僕に向かって言った。
「ああ…次の日に、僕も手伝って…何とか片付きました」
「残り物は食べたんですか?」
「あ、はい…それも次の日の夕飯に食べました」
車を出発させながらも…ショウヤはいつまでもしつこく訊いてきた。
「次の日、ずっとシルクさんちにいたんですか?」
「えっ…ええまあ…」
「夕ご飯食べて帰ったんですか?」
「あ…いや…その…その日も泊まって、次の朝早くに帰りました」
「…ふうーん…そうなんですかー」
「…」
「くっくっくっ…」
そんな僕らの会話を聞いて…ハルトは肩を震わせて笑っていた。
すぐ近くの入口から首都高速に乗って、特に渋滞に巻き込まれる事もなく、僕らを乗せた車は、ほどなく東北自動車道に入った。
良い天気だった。
「ドライブ日和ですね」
「久しぶりだな…こんな遠出するの…」
助手席のハルトも、気持ち良さそうに呟いた。
「それにしてもさ、ショウヤ…ちょっとスピード出し過ぎなんじゃないの?」
「ですよね…ずっと右車線だし…」
「折角の久しぶりの運転ですから…出せるものは出さないと勿体ないじゃないですか…」
「…」
何だその理屈は?
常時、時速120キロを下らないスピードに、若干ドキドキしながらも…
僕も、とても久しぶりのドライブを楽しんでいた。
「ちょっと休憩しましょうか…」
そう言ってショウヤは、ようやく左車線に移って…少しスピードを落としていった。
ほどなく車は、SAに向かう横道へ入っていった。
「お疲れ様でした」
車を停めて…僕らはとりあえず、外に出た。
「SAの売店を見るのも、旅の醍醐味だよね…」
「何か食べますか?」
「めっちゃ色々ありますねー!」
SAの建物の中はもちろん…外にも楽しそうな出店がいっぱい出ていた。
僕はうっかり…目をキラキラさせてしまった。
「ビール飲みたいな…」
ハルトがボソッと呟いた。
「それは、一応ミッションが終わるまで我慢してください」
「あーそうだった…」
「これ…食べてみませんか?」
僕は、グルグルに串に刺さっているポテトの店の前で立ち止まった。
「トルネードポテトですね」
「いいよ、食べよう」
注文すると、目の前でお店のお兄さんが…不思議な機械でじゃがいもを螺旋状にカットしていった。
そしてその、カットしたいもを、器用にバランス良く串に刺すと…ジュワーっと、フライヤーの中に入れていった。
「…すごい…」
僕はうっかり釘付けになってしまった。
カシャッ…
ええっ?
ショウヤが…いつの間にちゃっかり持っていたカメラを、僕に向けていた。
「…いや…釘付けになってるカオルさんの横顔が、可愛いらし過ぎて…」
「…っ」
そうこうしているうちに、ポテトが完成した。
「いただきます…」
僕は、お兄さんからそれを受け取った。
「それ持って…こっち見てください…」
「…」
カシャッ…カシャカシャッ…
何度もシャッターを切ってから、彼は言った。
「はい、もう食べていいですよ」
ようやっと、僕はそれにかぶり付いた。
「うわー美味しい!!」
僕は、それをショウヤの口の前に差し出して言った。
「ほら、ショウヤさんも食べてみてください!めっちゃ美味しいです!!」
「…」
ショウヤも黙って…それをかじった。
「わっ…ホントだ…」
「ハルトさんも!」
「ん、いただきます…」
ハルトも、食べた。
「おおーホントだ、美味しいな、これ…」
「もう1本買いますか?」
「な、買うか…」
そんな感じで…結局またも、お兄さんの手際の素晴らしさに見入っての…3人1本ずつそれを平らげた。
しっかりSA休憩も満喫して…僕らは車に戻った。
「あとはノンストップで行きますね」
そう言ってショウヤは、また右車線をすっ飛ばしていった。
やがて、僕らを乗せた車は高速を降りて…いかにも観光地っぽい街並みを通り抜けてから…ほどなく、山道へ入っていった。
「…そろそろだと思います」
その山道から、ちょっと分かりづらい脇道を入っていった先に、目的地である建物が見えてきた。
「あれですかね…」
「そうだな…写真で見たのと同じだ…」
「…」
それは…こじんまりした、洋風のペンションのような建物だった。
ショウヤは、その建物のすぐ側に車を停めると…真っ先に車から降りた。
そして、目を爛々と輝かせながら…その建物と、それを取り囲む周りの景色を見回した。
「…」
ハルトと僕も、車から降りた。
「へえー良い感じじゃん…」
「…」
「これは…かなり良いですね…」
ショウヤは、ほうーっと溜息をつくと、僕の方を振り向いて言った。
「イメージ通りの世界が描けそうです…」
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