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下見(2)

ショウヤは、預かっていた鍵を取り出すと、建物のドアを開けた。 僕らは、中に入ってみた。 「へえー…すげーオシャレだな…」 「ホントに、外国の家みたいですね」 木目調の広い1階は…ソファーのあるリビングと、キッチンと繋がったダイニングに分かれていて…ちょうどその境い目に、2階の寝室に続く階段があった。 「この階段が…すごく良いですね…」 アップライトピアノや暖炉もあるリビングを、ショウヤとハルトが目を輝かせながらウロウロしている間に…僕はキッチンを見に行った。 「うわあー広い、キレイー!」 ダイニングテーブルのカウンターの奥に、とても広々とした、やっぱり木目調のキッチンが広がっていた。 「上も見てみよう…」 僕らは順番に…階段を上っていった。 「何か…白雪姫の、コビトの家みたいですね」 「あー確かに…」 階段を上った2階には、ベッドが幾つも並んでいた。 「寝室もゴージャスですねー!」 「1、2、3、4、5…5つしか無いな…」 「うわーそれ、誰がカオルさんと一緒に寝るかジャンケンですねー」 「…っ」 とりあえず、ひと通り見学を終えた僕とハルトは…リビングのソファーに座った。 ショウヤは、カメラを構えながら…部屋のあちこちを歩き回って、撮影ポイントを探しているようだった。 「ちょっと、外出てきます」 室内探索の気が済んだらしいショウヤは、そう言って、カメラを持ったまま…外へ出て行ってしまった。 「ショウヤ…楽しそうだね…」 「…ホントですね…」 僕は改めて、部屋を見回しながら続けた。 「…でも、本当に…すごく良いロケーションですね」 「作者的にも納得?」 「全然、納得です!!」 「あはははっ…変な日本語になってるけど」 しばらくして…ショウヤが戻ってきた。 「ハルトさん…何か衣装とか、一応持ってきてくれたんですよね?」 「あ…うん」 「カオルさん…準備してもらってもいいですか?」 えええっ!? そーなの? 「了解…」 ハルトはそう言うと…いったん車に戻って、いつものゴロゴロを持ってきた。 そして、その中から、メイク道具一式と…衣装と思われる、パジャマ的なものを取り出した。 「どれがいいかな…」 「うーん…そうですねー」 「…」 そんなの聞いてないよー的な、僕にはお構い無しに…ハルトとショウヤは、何枚かあるパジャマを手に取って…あーでもないこーでもないと、ブツブツ言い合っていた。 「全部…順番に着ていきましょう!」 「あ、それがいいね…時間もたっぷりあるし…」 2人はスッキリしたような顔で、続けた。 「じゃあ、とりあえずコレに着替えて」 「…」 有無を言わさず…その、白い薄手のパジャマに着替えさせられた僕は…そのままハルトの前に座らされて、顔を描かれていった。 その間にもショウヤは…あっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、真剣な表情で、頭の中のイメージを固めているようだった。 「…あの…」 いつものように、目を瞑らされながら…僕は言った。 「下見だけじゃ無かったんですか…?」 「まあ…折角被写体がいるんだから、撮影リハも兼ねての下見って事でいいんじゃない?」 「…」 しれっと言いくるめられてしまった… 「嫌?」 「…いえ…そういう訳では無いですけど…」 …と、また、いつものように… 僕はハルトにくちびるを塞がれた。 「…ん…」 彼は…僕の頭をしっかり両手で押さえると…すぐに僕のくちびるを割って…舌を入れてきた。 「…んんっ…ん…」 そんな激しい口付けに… 僕は思わず、ビクビクと震えてしまった。 ゆっくり口を離れたハルトは…僕の濡れたくちびるを、指でなぞりながら言った。 「もう…目開けていいよ…」 「…」 僕は、とろーんとした顔で…そっと目を開けた。 「さすがハルトさん…良い感じにスイッチ入りましたね!」 いつの間にか傍に来ていたショウヤが、目をキラキラさせながら、嬉しそうに言った。 「じゃあ、撮りましょう…」 「…」 ちょっと身体の力が抜けて、ほわ〜っとしてしまった僕の腕を、ハルトは掴んで立たせた。 そして、ショウヤの後をついていった。 それから僕は…寝室にいって、ベッドに座ったり… 寝たり起き上がったりさせられたり… いかにも「庭に続く扉」っぽい所で…開けたり閉めたりさせられたり… 外に連れて行かれて…そこら辺を歩かされたりした。 しかも、パジャマが何枚もあるもんだから…着替えて…また同じ事を繰り返したりして… そうこうしているうちに…辺りは段々と暗くなってきてしまった。 「夜の画も…撮っておきたいですねー」 「だよな…どのパジャマにする?」 「そうですね…やっぱ白いのがいいかな…」 そしてまた、着替えた僕は…また、あちこち連れ回されて…色々なポーズをとらされた。 「…これくらいにしときましょうか」 ようやく監督のクランクアップの声がかかった。 「ふうー」 僕は、心の底から大きな溜息をついて、ドサッとソファーに座り込んだ。 ハルトが、僕のメイクを落としながら言った。 「お疲れ様…すごく良い感じだったよ」 「…そうですか…」 「良い画がいっぱい撮れました!」 「本番が楽しみだね」 そう言う彼らに向かって、僕は言った。 「…何かもう…本番いいやってくらい、お腹いっぱい満喫しました…」 …と、そのとき、僕のお腹が、グーッと鳴った。 「あはははっ…」 「じゃあ次は、そっちのお腹をいっぱいにしよう」 「…」 僕は少し顔を赤くして、ホッとしたように笑った。

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