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真夜中の庭でBBQ(1)

「じゃあ、出発しますね…」 そしてついに…真夜庭の撮影旅行の日が来た! 既にハルトの大荷物やら何やらを乗せた、先日よりも大きいワゴン車に、僕とシルクが乗り込んで、車は発進した。 「これも…ショウヤさんちの車なんですか?」 「はい、いちばん大きいのを借りました」 「こんなのも運転出来るんですねー!」 「運転自体はそんなに変わりませんから…」 流暢に走る車は、ほどなく、以前レコーディングをやったレンタルスタジオの前に着いた。 ここで、ドラムセットを貸してもらえる事になっていたのだ。 「おはよー」 サエゾウとカイが、既に運び出されたドラムセットと一緒に、店の前で待っていた。 「おはようございます」 車から降りたショウヤは、ワゴン車の後ろのドアを開けた。 皆ゾロゾロと後に続いた。 「おはようございます」 「結構な荷物になるね…」 「積めんのか…これ」 「大丈夫と思います…」 言いながらショウヤは、その荷物スペースに上がり込んだ。 そして、皆で協力しての積み込み作業が始まった。 ハルトの大荷物の横に、段ボールに入った、バーベキューコンロと炭が、割と場所を取っているように見えた。 「これは絶対持って行かなきゃですからね!」 「やったーバーベキュー!」 「そうだな、入らなかったら、フロアタムは置いていこう」 「そっち優先ー」 「あはははっ…」 ショウヤは、必死にそれを隅に寄せての… 大きなバスドラムとフロアタム…そして、スネアとハイハットを…何とか積み込んでいった。 「…」 ショウヤさんって、意外に力持ちなんだな… 積込みの要領も良いし… 僕の中のショウヤの…ひ弱で線の細い引きこもりっていうイメージが…ちょっと変わった。 「ベースとギターも、この上に乗せられますよ」 「んじゃ乗せてー」 サエゾウはギターを彼に渡した。 シルクも、座席に置いていたベースをその上に乗せた。 「よし、オッケーですね」 言いながらショウヤは、後ろのドアをバタンと閉めた。 「運転は任せていいの?」 カイが訊いた。 「大丈夫ですよ…もしかしたら途中で代わってもらうかもしれませんけど」 「わかった」 そっか、カイさんも運転出来るのか… あー確かに、何となくだけど…ショウヤさんよりもカイさんの方が安心な気がするな… 「…」 運転席に乗り込みながら、ショウヤは、チラッと僕の方を見て言った。 「カイさん助手席お願いします」 「…っ」 しまった…読まれてたか… 僕は頭を抱えながら…後部座席に乗り込んだ。 隣にシルク…その前にサエゾウとハルトが座った。 「じゃあ、出発します!」 店の前に出てきた、先日のエンジニアスタッフさんに見送られて…僕らを乗せた車は、出発した。 ほどなく首都高速に入った。 その日も、とても良い天気だった。 「気持ちいいードライブ久しぶりー!」 サエゾウが窓を開けて言った。 「うわっ…ちょっとサエさん、こんな所で窓開けないでください」 直撃な風が、すぐ後ろの僕の顔に吹き付けてきた。 「えー、気持ちいいのにー」 「後ろの人の大迷惑ですっ!」 「ちぇー」 サエゾウは、渋々窓を閉めた。 「へえーYouTubeも見れんの?」 助手席のカイが、ショウヤに向かって言った。 「見れますよ、何でも好きなのかけてもらって大丈夫ですよ」 「トキドル見るー」 「そうだね、復習しとかないとね」 そして、車内の小さな画面から…自分たちのPVが流れ始めた。 せっかくの良い景色なんだから… わざわざそんなもん見なくてもいいのにな… 思いながら僕は、画面よりも車窓の方に目を向けていた。 「裏は見れないのー?」 「あーそれは流石に無理ですね」 「バーカ、裏なんか流したら、ショウヤが運転出来なくなるだろ」 「あ、そーかー」 「…」 もうー 先日の下見のときよりも、10倍は賑やかしかった。 半ば呆れながらも…そんな雰囲気に、もちろん僕の楽しい気持ちも増していた。 まー実際の撮影は、 また色々いじられて大変なんだろうけどなー 渋滞もなく、気持ちよく高い場所を走っていく車の窓からは…遠くの山々も見渡せた。 「あっ…富士山見えますよ!」 僕は思わず叫んだ。 「えーどれどれー?」 「お、ホントだ」 水墨画のように連なる山々の中に…まさに頭1つ飛び出しているような、大きい富士山が見えた。 「俺のファン増えますようにー」 サエゾウは、そっちに向かって手を合わせながら言った。 「この距離で届くか?」 「届くー」 「ま、気持ちの問題だな…」 「…」 サエゾウは、目を閉じて…祈り続けていた。 そうだ…サエさんって…意外に繊細っていうか、破滅思考型なんだっけ… ファンはもちろんだけど…きっと他にも色々と、実は思う所があるんだろうな… そんな事を思い出した僕は…彼に倣って、富士山に向かって手を合わせた。 僕のファンは増えなくてもいいです… サエさんのファンをいっぱい増やしてください。 そしてずっと… この、トキドルの皆と一緒にいられますように…   バックミラーで、そんな僕の様子をチラチラと見ていたショウヤは、ハンドルを握ったまま、穏やかに微笑んでいた。

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