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銀色再び
おかげさまで、広々としたベッドをひとり占めして、ゆっくり眠れた僕は…
6時を待たずに、スッキリ目が覚めた。
静かに身体を起こして周りを見回すと…
皆…まだ、ぐっすり眠っていた。
僕は、彼らを起こさないように…静かにベッドを抜け出した。
そして、階段を下りて…下へ行った。
そしてまた…外に出てみた。
ああー
やっぱり、気持ちいいなー
僕は大きく伸びをして…
爽やかな朝の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。
「カオルさん…」
振り返ると…そこにショウヤが立っていた。
「早起きですね…」
「おかげさまで、ゆっくり早く寝れたので」
そしてショウヤは…ゆっくりカメラを構えた。
「…僕に構わず…好きなようにしてください」
「カメラ回してるじゃないですか…それじゃあ、好きなようになんて…出来ませんよ…」
そう言いながらも…
不思議と僕の気持ちはとても穏やかだった。
朝の独特な爽やかな空気のせいだろうか…
僕は静かに薄ら笑みを浮かべながら、自分の思うままに…ゆっくり歩いていった。
「…」
僕の邪魔をしないように…それでも、しっかりカメラは回したまま…ショウヤは黙って僕の後を追った。
僕は、大きな木の下まで来ると…
仰ぐように上を見上げた。
「ごめんなさい、カオルさん…」
「…なんですか?」
「よかったら…シャツをはだけてもらえませんか?」
「…」
僕は、しょうがないなーっていう表情で…自分で、自分のシャツのボタンを外した。
そして、自分でそれを両側に開いて…両肩を露わにさせた。
「…っ」
そんな僕の顔に…眩しい木漏れ日が射した。
僕は思わず、額に手を翳した。
「両手を…空に向かって伸ばしてもらえますか…?」
「…」
言われるがまま…僕は、再び上を見上げた。
清々しく、一点の曇りも無い空に向かって…僕はたまらない気持ちで、両手を伸ばした。
「…」
何なんだろう…この感覚は…?
空から何かが…
僕に向かって降りてくるような気がした。
見えないその何かが、僕の身体を包み込んで…
更に見えない何かを発していくような感覚だった。
今なら、この世界の何もかもが…
全て自分の思い通りになるような気がした。
僕はゆっくり目を閉じて…その、何とも言えない不思議な心地良さに浸っていた。
ふと、目を開けて…ショウヤを振り向くと…
彼はカメラを構えたまま、ポロポロと涙を流していた。
「…どうしたんですか?」
僕は驚いて、彼に駆け寄った。
「…カオルさんが…」
ショウヤは、震える声で言った。
「…銀色の…カオルさんが…綺麗過ぎて…」
「…っ」
ようやく彼は、カメラの録画のスイッチを切ると…それを投げ捨てるように、下に置いた。
そして、勢いよく…僕の身体を抱きしめた。
「そんなカオルさんに…触れて…こうして抱きしめる事が出来るなんて…」
「…」
「もう…今、死んでもいいです…」
「…」
ショウヤは、時折り感涙に咽びながら…
いつまでも僕の身体を、力強く抱きしめ続けていた。
ピピピピッ…ピピピピッ…
遠ーくの方から、目覚ましタイマーの音が聞こえた。
「…ショウヤ…さん…」
「…」
「6時…みたいですよ?」
「…」
ショウヤは、ゆっくり腕を緩めた。
「…そんなに、泣かないでください」
顔を上げた…目も鼻も赤くなった彼の顔を見て…僕は続けた。
「ショウヤさんが、そんな風に思ってくれるのは、スゴくありがたいですけど…」
「…」
「僕は…ただの僕ですよ…?」
「…」
それを聞いてショウヤは…
また、たまらないような表情になった。
僕は、彼の顔を両手でそっと包んだ。
そのまま僕らは…
どちらからともなく…口付け合った。
「ちょっとーそこ、何やってんのー!」
そんな良い雰囲気をブチ破るような、プンプンしたサエゾウの声が響き渡った。
慌てるでもなく…ゆっくり口を離れて、振り向いたショウヤは…彼に向かってしれっと言った。
「あ、サエさん…よく起きれましたね」
「せっかく早起きしたから、カオルに悪戯しようと思ったのにさー、もう居ないんだもんー」
言いながらサエゾウは、ドカドカとこっちに歩いてきた。
「ショウヤ、ズルいー」
彼はショウヤの腕を引っ張った。
彼らの様子を、穏やかに笑う僕を見て…あれっ?…っていう表情を見せたサエゾウの動きが止まった。
「何か…いつものカオルじゃないー」
それを聞いて、ショウヤが前のめり気味に言った。
「銀色が出現してたんです」
「えー何で、こんな所でー?」
「下見のときも、そうだったんです!今日も出たんです!しっかり動画も撮りました!!」
ショウヤは、熱く捲し立てた。
「ふうーん…」
「…あんまり、自覚…無いんですけどね…」
サエゾウは、僕の顔から…はだけた胸元からを…舐めるように見ると…何だか少し、怖気付いたような表情になった。
「確かに…今お前に関わると、色々持っていかれそうな気がするー」
サエゾウは…ジワジワと後退った…
「とりあえず、意外なエンカウントの条件が、1つ確立されたって事かー」
そう言ってサエゾウは、クルッと向きを変えた。
「こわいこわいー」
呟きながらサエゾウは…
さっさと戻っていってしまった。
「あのサエさんが、あんな風に逃げるなんて…」
ショウヤは目を丸くした。
「銀色のカオルさんって…レベルマックスな最強のレアキャラなんですね!」
「…」
もうー
また人をラスボスみたいに言うんだから…
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