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真昼の庭での撮影(1)
僕らは建物の中に戻った。
「おはようございます…」
「ん…おはよう」
ボチボチ皆が起き出してきていた。
ハルトは既に、リビングのソファーに皆の衣装を並べて、テーブルにメイク道具を広げていた。
「いっちばーん!」
先に顔を洗ってきたサエゾウが、入ってきた。
「じゃあ、昨日のヒラヒラに着替えてといてくれる?」
「おっけー」
「あ、スイマセン…ドラムセットを運ぶのを…皆さん手伝ってもらえますか?」
「あ、そうだったね…」
言いながらハルトは立ち上がった。
顔を洗う前のカイも、ショウヤの後に続いた。
「サエはいいよ、先に着替えてろよ…3人居れば大丈夫だから」
「わかったー」
「あ、僕も行きます」
僕も彼らの後に続こうとした。
「カオルは、シルク叩き起こしてきて…」
「えっ…まだ寝てるんですか?」
「うん…よろしく」
「…」
僕は致し方なく…リビングで着替えるサエゾウを横目に、階段を上っていった。
なるほど…やっと1人になって広々としたベッドで、シルクが気持ち良さそうに、スースー眠っていた。
「もうー」
僕は、彼に掛けられた布団を、バッと剥がした。
「シルク!起きて!!」
「…うーん」
シルクはもぞもぞと動いた。
「もう皆、ドラム運んでるよ…」
「…ん…」
彼の口元が、ゴニョゴニョと何か言った。
「えっ…何?」
「…して」
「聞こえない…何?」
僕は彼の口元に耳をあてた。
シルクは僕の頭をグイッと抱きしめて…続けた。
「…チューして…」
「…!!」
もうーエロおやじはしょうがないなー
思いながら僕は、目を閉じたままの彼の顔を撫でると…そのくちびるに、そっと口付けた。
「…んっ…」
シルクの舌が、僕のくちびるを割って、入って来ようとした、そのとき…
「もうー何やってんのー」
いつの間にか、音も無く階段をコッソリ上ってきたサエゾウが、プンプンしながら叫んだ。
それを聞いて、僕は慌てて彼から離れた。
シルクは、両腕を大きく上に伸ばすと…ゆっくり目を開けた。
「起きたんだからもういいよねー」
サエゾウは、そのまま僕の腕を掴むと…階段を引き摺り下ろすように連れていった。
「くっくっ…」
ベッドの上に起き上がったシルクは、それを見て可笑しそうに笑った。
「もうーシルくんもショウヤもズルいー」
言いながら…僕の腕を掴んだサエゾウは…クルッと振り返った。
「俺もいいよね…ちょっとだけー」
「…っ」
サエゾウの顔が、近付いてきた。
もうちょっとでくちびるが触れそうになった、そのとき…ガラガラッと、リビングの窓が開く音が響いた。
「サーエー」
「何してるんですか、サエさん」
「油断も隙も無いな…もう」
ドラムのセッティングを終えた3人が、ガン首揃えてそこに立っていた。
「…何だよーもうー」
サエゾウは、とても残念そうに…すごすごと僕から離れた。
それから僕らは…ハルトの指示の元、それぞれの着替えとメイクを進めていった。
3人様は、昨日と同じく、それぞれ季節感満載だったが…僕はやっぱり、先日着せられたのと同じ、白いパジャマだった。
「だって…あの物話がテーマなんでしょ?」
ハルトが僕に言った。
「え、ハルトさん…知ってるんですか?」
「カオルが言ってたから…探して読んだ」
「そうなんですね!!」
まさに同じ名前の…子どもの頃に読んだ小説の世界をイメージして作った曲だって事を…
ハルトさん、ちゃんと覚えててくれたのか…
「だからカオルは、パジャマ」
「はい、いいと思います…」
僕は、とても嬉しい気持ちになった。
「準備出来たら…楽器も持って、外にお願いします」
ショウヤが言った。
僕らは庭に出た。
庭…というか、少し奥まった辺りの…
草むらと言うか、そこそこ木もある、いかにも自然な森の中な場所に…既にドラムセットが組まれていた。
全体が入りそうな場所に、三脚が立てられ、カメラも設置されていた。
PCとスピーカーも持ち込んでの…そこから音源を流しながら、ショウヤは言った。
「これに合わせて、演奏して頂くんですが…」
彼は少し、考えてから…続けた。
「ま、いっか…とりあえず1回やってみて、様子を見てみましょう」
「…」
何の様子を見るんだろう…?
思いながらも、とりあえずテイク1が始まった。
流れる音源に合わせて、僕らは、まるでその場でLIVEをやっているかのように…演奏し、歌うフリをしていった。
曲が終わった。
「うーん…やっぱりなー」
ショウヤが首を傾げながら、唸っていた。
「いったん楽器は置きましょう」
「…?」
「やっぱりそこからか…」
「そりゃそうだよな…こんな朝っぱらから、素面でカオルのスイッチが入るワケがない」
「ランダムタイムだー」
「…!」
そ、その様子を見てたのか…
「ま、その…全くスイッチ入って無い感じも、それはそれで良かったんですけどね…」
まるで事務的な感じで…
そしてまたキッパリと、ショウヤは続けた。
「それはもういいんで…あとはとりあえず、スイッチ入れてあげてください」
「よっしゃー」
「…っ」
立ち尽くす僕の周囲を…
楽器を置いた3人様が、ジリジリと取り囲んだ。
更にショウヤは、しれっと付け加えた。
「優しくしてあげてくださいね」
それを聞いたハルトは、肩をすくめて吹き出した。
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