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真夜中の庭で打上げ(2)
「すーっごいご馳走ですね!!!」
ずっと動画の編集に集中していたショウヤも、PCを閉じてテーブルについた。
シルくん特製ローストビーフ
大皿焼き肉2種
茹で豚の玉ねぎ和え
残り魚介のアクアパッツァ
かぼちゃとキノコのグラタン
ゆで卵のサラダ
かぼちゃ餅
そして、大量のなんちゃってクレープ!
「シルくんごはんとカオルごはんー」
「お疲れだったのに、ありがとうね」
「寝てて悪かったな…」
「いーえー」
「キッチン堪能出来て、楽しかったです」
所狭しと並んだ料理を囲んで、僕らは改めて…それぞれの好きな缶を開けた。
「じゃあ、とりあえず…乾杯!」
「乾杯ー」
「お疲れ様でしたー」
「にゃー」
「ワインも残ってるからな」
「えー開けようー鶏肉あるしー」
「牛肉だけどな…」
「むしろ鶏肉は無いですよね…」
「赤白…どっち開ける?」
「えー鶏肉には赤でしょー」
「牛肉な…鶏肉には白だ」
「ま、いいんじゃない…両方開けて」
そんな感じでワインも開けられ…
楽しい酒盛りが続いていった。
「いやーホントに…おかげ様で、ものすごく良い動画が出来そうです!」
あ、酔っ払ってきた…
「今回良い画が多すぎて…2パターン作っても良いかなと思ってます」
「裏表?」
「表も裏も2本ずつ!」
「マジかー」
…マジですか
どんだけ恥ずかしい画が、あのPCに収まってるかと思うと、果てしない気持ちになるんですけど…
「これ、んーまいねー」
そんな話は今はどうでもいい感じに…サエゾウがは、なんちゃってクレープに、肉をギュウギュウに巻いたのを食べながら言った。
「肝心の魚介には、イマイチ合わなかったな…」
アクアパッツァと一緒につまみながら、シルクが続けた。
「1本は、メイキングっぽくしようかな…バーベキューのシーンとかもふんだんに入れて…」
「この餅みたいのもんーまいー」
「銀色のカオルさんを、どこにどうやって盛り込むのが良いか…悩んでるんですよね…」
「これめっちゃ赤ワイン合うー!…やっぱ鶏肉には赤じゃんねー」
「牛肉だけどな…」
「あはははっ…」
全く会話の噛み合わない人達を見て、僕は思わず声を上げて笑ってしまった。
「カオル…楽しい?」
ハルトが…
お母さんの微笑みを浮かべて、僕に訊いた。
「あははっ…はい…とても楽しいです」
「そっか…」
ハルトは…
僕のグラスに、ワインを注ぎ足しながら続けた。
「なんだかんだいって、やっぱりカオルがいちばん大変だったもんね」
「あーそう…ですかねー」
「いっぱい食べてね」
「はい…それはもう…大丈夫です!」
そしてまた、僕はガツガツ食べ進めた。
「次は、あのお店のイベントですか?」
ショウヤが訊いた。
「ああ…来週な」
「ものすごく盛り上げてくださいね!」
「そうだね…すっかりお世話になっちゃったもんね」
そうだった。
元々…そのお店のお客さんの別荘なんだっけ…
「皆で挨拶にも行かないといけませんよね…」
「そうだな…久しく顔出して無いし…イベント前に行っとくかな…」
「行こうー」
そして、サエゾウは…また鼻高々に続けた。
「ちなみに、また新曲出来たからねー」
「えっ…またですか!?」
「どんなの?」
「えーとねー名曲ー」
「サッパリわかんないよ」
「サエさんが作ったんですか?」
「…カオル」
サエゾウは、ちょっとバツが悪そうに答えた。
ショウヤは、目を輝かせながら僕の方を見た。
「またカオルさんの曲なんですねー!」
「あ、はい…」
「でも、音源作ったのは俺だからー!」
サエゾウが割って入って豪語した。
「そうなんです…サエさんが、僕のイメージを、完全に再現したデモ音源を作ってくれたんです…」
僕は素直に…胸を張って、言い切った。
「カオルー」
それを聞いたサエゾウが、僕に抱きついてきた。
「だよなー言ったら、2人の共作だよなー」
「え…ええ…まあ」
「2人で作った伝説の名曲ー」
「そうなの?」
ハルトがカイに聞いた。
「ああ…まあ、名曲ってのは確かかもな」
「カオル節…全開って感じ?」
「あー…そういう感じね」
「早く聞きたいですね…」
そんなショウヤの呟きを聞いて、サエゾウは、急に思い立ったように立ち上がった。
「今、聞かせるー」
そして彼は、リビングに置いてあった、自分のギターを取りにいった。
マジか…
ほどなく戻ってきた彼は、椅子に座ってギターを構えると、ポロポロとチューニングを始めた。
ここで歌えってか…
「はい、準備オッケー」
「…」
当然のように…
サエゾウはニヤッと笑って僕の方を見た。
パチパチパチパチ…
ショウヤが手を叩きながら言った。
「何ていう曲ですか?」
「黒い…ワルツ」
「うわー…タイトル聞いただけで、PV作りたくなっちゃいますねー」
「聞いたら…勃っちゃうかもね」
ショウヤの背後から、シルクがしれっと言った。
「…っ」
「んじゃ、いくよー」
サエゾウは、容赦なくイントロを弾き始めた。
すると、ギターの…しかもアンプも通していない小さい音にも関わらず…
そのメロディーに乗せて、僕の目の前に…哀しげな人形たちの姿が浮かび上がってくるではないか…!?
僕は、その情景を見ながら…
静かに…そして力強く…歌い上げた。
まさかの…そんな状況で、
僕は、黒いワルツの世界に入ってしまった。
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