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楽しい観光(1)
最終日…
とてもゆっくり起き出した僕らは、とりあえず汚してしまったリネン類を集めて、管理人さんが片付けやすいようにまとめた。
キッチンも、道具や食器をきれいに片付けて、冷蔵庫の中身も、持ち帰り用のクーラーバックに集めた。
昨夜テーブルに出しておいた、飲み物の残りも併せて、僕らはそれれを、車に積み込んだ。
「さてと…忘れ物は無いですか?」
バタンとトランクを閉めながら、ショウヤが言った。
「たぶんねー」
「一応、もっかい見てくるか…」
手分けして、各部屋を見回ってから…
僕らは次々と外に出た。
「本当に、ありがとうございました…」
最後に、声に出してそう言いながら、
ショウヤは、その別荘のドアの鍵を閉めた。
「楽しかったね…」
建物を見上げながら、ハルトがしみじみ呟いた。
「うん…」
「すっげー楽しかったー」
「…」
僕も、改めて…その建物と周りの景色を見渡した。
そよそよと吹く風が…とても心地良かった。
「また、来ましょう!」
「そうだな、撮影とか関係なく、来たいな…」
「バーベキューやりたーい」
そして僕らは、車に乗り込んだ。
「せっかくだから…どっか観光していきます?」
「いいね」
「牧場行こうー牧場ー」
「そんなのあるのか…」
ショウヤとカイは、カーナビの地図を覗き込んで、地図をスライドさせていった。
「この…ファミリー牧場ってのがいいですかね」
「あー聞いた事あるな」
「確か…遊園地的なのもあって、動物もいたような気がします」
「行った事あるの?」
「すごく小っちゃいときですけど…」
「よっしゃーそこ行こうー!」
「わかりました、目指します」
目的地を決めて、カーナビを設定すると…ショウヤはゆっくりと、車を発進させた。
そして僕らは…楽しく3日間を過ごした、その建物を後にした。
それから30分くらいは走っただろうか…
ボソボソと言い合う前の2人の会話を心地良く聞きながら、後部座席の4人が、揃ってウトウトしていた頃に…車は、そのファミリー牧場の、広い駐車場に入っていった。
「着いたー?」
大あくびをしながら、サエゾウが訊いた。
「はい、着きました!」
僕も、目をこすりながら…窓からその入り口を眺めた。
想像してたより、ずっと広そうだった。
そして僕らは、ゾロゾロと車を降りて、入園ゲートへと向かった。
観光的にはシーズンオフな時期だったし、時間も早かったので、停まっている車も、人影もまばらだった。
「すっげー広そうー」
入り口で貰った地図を見ながら、サエゾウは目を輝かせた。
「とりあえず、動物エリアに向かいますか?」
「そうだな…サエの牧場欲を、さっさと満たそう」
広々とした園内の…大きな池に沿って、僕らはのんびり歩いていった。
いい天気だった。
ほどなく僕らは、色々な動物がいるエリアに入った。
馬やヤギ…ウサギにモルモット…
まさかの、アルパカもいた!
「スゴいな…割と本格的じゃん」
「牛がいないな…」
「牛いなきゃ牧場じゃ無くないか?」
賑やかしく喋りながら、ズカズカと自分の縄張りに踏み込んできた怪しい面々に…動物たちも、何となく引いているような気がした。
「えー何これ、エサとかやれんのー?」
エサ売場案内の看板を見つけたサエゾウが、目をキラキラさせながら言った。
「やれんじゃない?」
「え、でも…このお馬さんとかに食べさせるって…ちょっと怖くないですか?」
「確かに…手まで持ってかれそうだよな…」
若干尻込みをしているショウヤをよそに…サエゾウとカイは、売店に突進していった。
「かわいいな…」
僕は、ウサギやモルモットがいるケージを覗き込んで呟いた。
「あーなんか、お前っぽいな…」
後ろからシルクが言った。
「何でーっ」
「俺もエサやりたいな…」
ほどなくサエゾウとカイが、にんじんの入ったカップを、人数分持って戻ってきた。
「ホントにお馬さんに食べさせるんですか!?」
「うん」
僕らは、とりあえずにんじんを持って、それぞれのお目当ての子に近寄っていった。
「おわっ…食べたー!!」
割と大きな茶色い馬が、サエゾウの手から、にんじんを奪い取るように食べた。
「やっぱり手まで食われそうだな…」
「サエさん…黄金の指を持ってかれないように、気を付けてくださいよー!!」
「大丈夫大丈夫ー」
カイとシルクも…その、手まで持っていかれそうなスリルを楽しむように…次々と食べさせていった。
「…」
「ショウヤ、あっちのヤギさんとか、アルパカさんにあげてもいいんだよ?」
完全に腰が引けているショウヤに向かって、ハルトが言った。
「あ、そうなんですね…そうします!」
「俺もそっちがいいや…」
そして2人は、平和そうなエリアへ移動していった。
「…」
僕も…ちょっとお馬さんは怖いな…
そう思って…僕は、ショウヤ達の後を追おうとした。
「ヒヒヒヒィィ〜〜ン」
「…!!!」
と、突然…僕の背後から、激しい声が響いた。
僕は、ビクッとして、恐る恐る後ろを振り向いた。
「……」
「……っ」
割と大きいお馬さんが…
ジーッと…僕の手元のにんじんを見つめていた。
「…た、食べたい…ですか?」
僕は思わず訊いてしまった。
「…」
お馬さんは、まるで頷くように…
目をキラキラ輝かせた。
「わ、わかりました…」
僕は、おずおずと…にんじんを差し出した。
「…っ!!」
彼は、掻っ攫うように、それを食べた。
僕は、ビビって後ろに飛びさすってしまった。
「あはははっ…」
「めっちゃへっぴり腰ー!」
「完全になめられてんな…」
「…っ」
3人様に散々言われながら…僕は逃げるように、ショウヤとハルトの方へ走っていった。
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