299 / 398
改めて慰労会(1)
「あれ…カオルさん、具合悪いんですか?」
買い物チームより、ひと足先に戻ってきたショウヤが、下を向いて座っている僕を見て言った。
「ちょっと疲れただけだろ?」
シルクが向こうでしれっといった。
「……」
しばらく僕らの様子を凝視したショウヤは、やがて、何かを悟ったかのように、ニヤッと笑った。
「ああ…そう言う事ですか…」
そして彼は、僕の隣にスッと座ると…僕の耳元で囁くように続けた。
「相変わらず…意地悪ですね、シルクさんって…」
「…っ」
「ただいまー」
買い物チームの3人が、バタバタと戻ってきた。
「はぁー重かったー」
「サエが欲張って色々買い過ぎるからだろ」
「お疲れ様でした」
ショウヤも手伝って…買ってきたものを、ドサドサとテーブルに並べながら…ふと、僕の様子に気付いたハルトが言った。
「あれ、カオル…どうしたの?」
「…な、何でもないです」
僕は慌てて、立ち上がった。
「疲れちゃった?…いいよ無理しないで、座ってて…」
「…大丈夫ですっ…」
言いながら僕は、逃げるようにキッチンへ行くと、バタバタと勝手知ったる感じで、戸棚からグラスを人数分取り出した。
それを見て、クスクス笑うショウヤに、ハルトが訊いた。
「何あれ…何かあったの?」
「…あとでコッソリ教えてあげます」
「よっしゃー乾杯しよう、乾杯ー」
残念ながら、そんな事には全く気付かなかったサエゾウは、僕からグラスを受け取ると…買ってきた氷をぶち込んでいった。
それぞれの手にグラスが行き渡り…
僕らは改めて、乾杯した。
「お疲れ様でした!」
「お疲れー」
「乾杯ー」
「にゃー」
そしてまた…大宴会が始まった…
「あーもう、お腹空いたー」
「だよな…そう言えば、ソフトクリームしか食べて無いんじゃない?」
「またいっぱい買ってきたな…」
テーブルにズラッと並んだ惣菜パックを見ながら、シルクが呟くように言った。
「大丈夫、食べるからー…ねー」
そう言いながらサエゾウは、僕の方を見ると…あれっ…ていう表情になった。
そして、眉間に皺を寄せながら続けた。
「シルくんー何したのー?」
「別に…」
シルクは何事もないように、食べながら答えた。
「何もなかったら、こんなエロい顔んなるわけないじゃんーもうー」
うう…
そんなですか…
「ちょっとチューしただけだよ」
「ええーまたー?…もうーホンットに油断も隙もないんだからー」
「…っ」
僕は思わず下を向いて顔を赤らめた。
「もうーどっち先に食べるか迷っちゃうじゃんー」
「あはははっ…」
「まあまあ、まずは腹を満たすんだな…」
カイは、サエゾウの肩を押さえながらそう言うと…今度は僕に向かって言った。
「それとも…いったん抜くか?」
「…大丈夫ですっ!!!」
「くっくっくっ…」
そんなやり取りのおかげもあって、僕のヤバい熱は、段々と治まっていった。
何しろ僕も、とてもお腹が空いていたし…
「これ、牧場のチーズ…美味いね」
「あ、ワインも残ってるぞ…」
「飲むー」
シルクは、立ち上がって、ワイングラスを取りに行こうとした。
「いいよー同じコップでー」
「そうだな…どうせ残り物だしな」
「氷も入れて…かちわりワインにします」
「…ま、いっか…」
笑って溜息をつきながら、シルクはストンと座った。
僕も、牧場チーズを摘んだ。
「ホントだ…美味しい…」
「よかったな、買ってきて…」
「何か、旅行行ってきたーって感じがする…」
「あははは、確かにな…」
「昨夜の残りも…こうやって改めて食べると、また美味しいですね」
「そうだな…テイクアウト感覚だな…」
「全部みんな美味いー」
サエゾウの言う通りだった…
全部、何もかも美味しかった。
もしかしたらそれは…この人たちと一緒に食べるからなのかもしれないな…と、僕は密かに思った。
昨夜も同じような宴会だったのに…もう、そんなに話す話題も無いんじゃないかと思うのに…
自分でも不思議なくらい…この人たちとは、飽きる事なく、いくらでも一緒にいたいと思った。
そして…
いくらでも…
この人たちの玩具になりたいと…思った。
さっき、シルクに容赦なく口付けられた余韻が残っていたのか…すっかり酔い進んでいた僕は、いつの間にうっかり…そんな良からぬ事を考えてしまっていた。
「…っ」
ハッと我に還った僕は…慌てたようにガタッと立ち上がって、テーブルの上の空いたパックを集めた。
そしてそれを持って、キッチンのゴミ箱に捨てに行った。
「なーんか変じゃないー?」
僕に聞こえないくらいの小声で、サエゾウが言った。
「だな…」
「やっぱり、シルクさんのスイッチが強力過ぎたんじゃないですか?」
「ふふっ…そうかもな…」
「処理してあげた方がいいんじゃない?」
「お腹も満たされた事だし…」
「そろそろデザート食べてもいーよねー」
そんな物騒な会話が進んでいるとはつゆ知らず…僕は何事も無いように…戻って椅子に座った。
「…っ」
ふと、見ると…皆の視線が、僕に集中していた。
「な…何ですか?」
僕は、必死に取り繕うように…言った。
皆が揃って、いやらしそうにニヤッと笑った。
「……」
それを見て…怯える表情とは裏腹に…
僕の胸には、心地良い寒気が、何度も走り抜けた。
ともだちにシェアしよう!