304 / 398

改めて慰労会のあと(2)

またも失神寸前まで追いやられた僕は…仰向けでグッタリしたまま、シルクに身体を拭かれていた。 彼はティッシュを、そこら辺にポイッと投げると…再び、僕の上に覆いかぶさってきた。 余韻に疼く身体に、その重さとぬくもりが… たまらなく心地良かった。 旅の疲れもあってか… 僕はそのまま…結局また、寝落ちてしまった。 ようやく目が覚めたときには…シルクは既に起き上がって、キッチンで片付け物をしていた。 「…」 さすがに起きねばと思って… 僕は、のそのそと布団から這い出した。 「…」 そう言えば…素っ裸だった… 辺りを見回して、僕のシャツが、椅子にかけてあるのを見つけた。僕はそれを取ろうと…立ち上がろうとした。 バサッ… 「…!」 いつの間にか僕に気付いたシルクが、僕の頭の上に、何かを投げてきた。 「…?」 手に取ってよく見てみると… それは、例のエロい長さのシャツだった… 「…」 「お前のシャツだと、下まで隠れないだろ」 「…っ」 仕方なく僕はそれを着て、フラフラと立ち上がった。 また勝手知ったる感じに…キッキンの窓を開けて、煙草に火を付けた。 「ふうー」 シルクも隣にやってきた。 「いっぱい寝たな」 言いながら、彼も煙草を取り出した。 「…何か、いくら寝ても…眠い…」 「相当ヤリ散らかされたからな…」 「……」 「寝たいだけ寝たらいいんじゃない?」 シルクは僕の頭に手を置くと… 少しだけ心配そうな表情で、続けた。 「どっか…痛いとことか…ない?」 僕は、ふっと笑いながら答えた。 「…あすこはちょっとだけ…痛い…気がする」 「…そうか」 「ま、いつもの事だけどね…」 「そうか…」 僕らは煙草を揉み消した。 ガラガラと窓を閉めた僕を…シルクは、背中から抱きしめてきた。 「ちょっとだけ仕事するから…待っててくれる?」 「…うん…いいけど」 僕はまた、少しだけドキドキしながら答えた。 「終わったら…残り物でごはんにしよう」 「わかった」 「ゆっくり…寝てていいよ」 言いながら彼は…僕の頬に、自分の頬を擦り寄せた。 「…ん」 そして、僕から離れたシルクは…また何やら段ボールから取り出して、PCのあるテーブルの上に置いた。 僕は…とりあえず、洗面所で顔を洗ってから… 結局、また布団に寝転がった。 スマホをいじっているうちに… 段々、また眠くなってきてしまった。 シルクが何やら機械をいじっている音を、心地良く聞きながら…僕はまた、スーッと眠ってしまった。 夢の中で…僕は、シルクの家に向かっていた。 あれ…? 何だかいつもと景色が違っていた。 確か…このビルだったと思うんだけどな… そう思って僕は、その建物に入った。 そしてエレベーターに乗って、シルクの部屋の階のボタンを押した。 しかし…エレベーターは、止まってくれなかった。 あれ…ど、どこまで行くんだ… あれよあれよと言う間に…エレベーターは、最上階まで行ってしまった。 しかもそのビルにある筈の無い…超高層階まで。 僕は必死で、下の階のボタンを何度も押した。 …と、僕を乗せたエレベーターが、段々グラグラと傾いていくではないか… ええっ… そしてそれは、余りに不安定なまま… まるで崩れ落ちるように、急降下していった。 「うわあああーっ」 僕は、ビクッと震えながら飛び起きた。 「…何…どうした?」 僕の声に驚いたシルクが、こっちを振り向いた。 「…はぁ…はぁ…」 僕はホッとして、シルクの方を見た。 彼は少し心配そうな顔で、僕の方を見ていた。 「変な夢みた?」 「…うん」 「もうちょいで終わるから…」 「…うん…」 そう言って…僕は再び布団に仰向けになった。 よかった… ちゃんとシルクんちだ… 目を閉じて…僕は、気持ちを落ち着けた。 ほどなく、仕事を終えたシルクと一緒に…僕は、昨日の残り物をテーブルに並べていった。 「足りるか?」 「あーうん…」 「パスタも茹でとくか…」 「うん!」 そして彼は…常備玉ねぎと、冷凍シーフードミックスを使って、パパッと美味しそうなパスタを作ってくれた。 そしてまた…割と賑やかになったテーブルを囲んで、僕らは残り物のハイボール缶で乾杯した。 「さっき…どんな夢みてたの?」 シルクが訊いてきた。 「シルクんちに行きたいのに、エレベーターですっごい上まで連れてかれちゃう夢…」 「ふうん…」 「で、そのエレベーターがね…グラグラってなって、落っこっちゃったんだ」 「…ふうん」 「あんな怖い夢…久しぶりにみた…」 「それって…何かトラブルの前兆とかじゃないの?」 「えええっ…うそでしょー」 「エレベーターとか、落ちるとか…そんな感じなんじゃないのか?」 「…」 「また、変なヤツが出てくるんじゃない?…シキとか、アヤメみたいに」 「えーそんな不吉な予言…やめてよ」 「ふふん…」 半分本気でビビる僕を見て…シルクは鼻で笑った。 まさか本当に… シルクの夢診断が、現実になろうとは… そのとき僕らは…これっぽっちも思ってなかった。

ともだちにシェアしよう!