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楽しい地元のイベント(1)

そして…楽しい地元のイベントLIVEの日がきた。 「いやーありがとうね、今日はよろしくお願いします」 僕らの所に来た、例の強面のマスターが、メンバーに次々と握手をしながら言った。 「新しいボーカルくん?」 「…あ、はい…よろしくお願いします」 「YouTube見たよー」 「ああ…ホントですか…ありがとうございます」 何しろ強面なので…僕は若干ドキドキしながら、勢いよく彼に向かって頭を下げた。 「LIVEで見るのは初めてだから、めっちゃ楽しみにしてるねー」 「あ、はい…よろしくお願いします…」 そしてマスターは、振り向いて、向こうへ行ってしまった。 「…何か…すごく怖そうな人ですね…」 「中身は礼儀正しい優しい人だけどな」 「あっちのスジの人では無いんですか?」 「うーん…それは分かんない…」 「…っ」 カタギの相手に対して礼儀正しくて優しいって所が…妙にそっちの匂いを彷彿とさせるよな… そんなイメージの、そのマスターの主催する今日のイベントは、お店のお客さんを中心とした、何でもありな感じだった。 リハを見た限りでは、普通のバンドもあれば、オケで歌うグループもあり…同じくカラオケ音源で歌うソロの人もいれば、ダンスを披露するグループもあった。 そんな中での…トキドルか… はたして大丈夫なんだろうか… 「新しいお客さん獲得のチャンスですよ!」 リハも終わり…近所の昼からやってる居酒屋で…僕らはいつものように、ショウヤとハルトと合流した。 「俺のファン増やすー」 「うんうん、絶対増えますって」 「ショウヤの予言は当たるからな」 「ま、楽しんで行こう」 僕の不安をよそに…皆、とても呑気に言いながら…いつものように2回目の乾杯をした。 「今日も写真集、いっぱい売りますよー」 彼は、目を爛々と輝かせながら言った。 「そう言えば、今日、準備…カオルんち使わせてもらえるんだって?」 ハルトが言った。 「…散らかってますけど…」 「何だよ、ちょっとは片付けてないのか?」 「あーえっと…一応布団は畳んできました」 「それ普通だろ」 「ありがとうね、すごく助かる…」 「…」 ハルトにニッコリ笑いながらそう言われて…僕は、もうちょっと片付けてくればよかったと…少し後悔した。 そこそこ飲み食いしてからの…僕らはコンビニで飲み物を仕入れて、ウチへ向かった。 ドアの鍵を開けながら、僕は皆を振り向いて、いつものように念を押した。 「スイマセン…ホントに散らかってますから」 「知ってる」 「いーよいーよ」 「いいから早く開けてー」 「…」 そして僕は、鍵を開けた。 「お邪魔しまーす」 ゾロゾロと、大人数が狭い部屋に上がり込んできた。 「ホントだー散らかってるー」 「…っ」 「いや、これがカオルさんの生活感って思ったら、めっちゃ萌えませんか?」 「あーなるほど…明るいときに見ると、確かに散らかってるな…」 カイが、部屋を見渡しながら言った。 「何それー意味深な発言ー!」 すかさずサエゾウが突っ込んだ。 「俺が来たときは、真っ暗だったからな…」 「ズルいー!いつの間に来たのー?」 「…」 カイさんも、割としれっとハッキリ言っちゃうんだな… シルクもだけど… 顔を赤くして俯く僕にお構いなしに…サエゾウは奥の部屋を覗きにいった。 「へえーこんな大きい鏡あるんだー」 「カオルさんが、ここで衣装とか着てポーズとってるのかと思うと…ヤバくないですか?」 「俺もそれやろうー」 こっちのカイとシルクは、買ってきた缶を取り出して、これまた勝手に冷蔵庫を開けていた。 「何にも無いな…料理できるくせに、大学生みたいな冷蔵庫だな」 「おかげで缶がいっぱい入るわ」 「…」 「この机の上…使っていい?」 「あ、はい…」 他の皆が、部屋の中を色々と見学していく中… そんな事はどうでもいい感じで、ハルトはテキパキと道具を取り出して、机の上に並べていった。 「そんなにゆっくりしてる時間は無いからね、皆さっさと着替えた方がいいよ」 そう言いながら、ハルト母さんは、僕の衣装を出した。 前回とは少し違う…でもやっぱり前回同様、中にパニエを履くタイプのふんわりしたスカートだった。 「…今日も女装ですか…」 「だって、途中でイってもバレない大前提だから」 「…っ」 有無を言わせぬ説得力に…僕は抗えるワケも無かった。 「あと…これね」 「…!!!」 ま…マジ…ですか…!? 「大人用、介護用だから」 「ハルトさん、ホントに紙パンツ買ってきたんですね!」 「え、だって…」 「あはははっ…」 「ホントだー見せて貸して触らしてー」 サエゾウは、ハルトから紙パンツを受け取ると、それをしみじみと見た。 「すごい薄いー」 「イマドキは、進化してんのな…」 皆、興味津々で…順番にそれを手に取って見ていった。 「……」 最後にそれが、僕の手に渡ってきた。 「ホントだ…薄いんですね…普通のパンツとあんまり変わらない感じ…」 「カオルさん、ぜひ…それの使い心地のリポートもお願いしますね!」 ショウヤが楽しそうに言った。 「そうだな、俺らだって…将来それのお世話になるかもしれないもんな」 「ってか…割と近い将来かもしれないし…」 「あーそれだったら、銀色が出ても安心だよねー」 「……」 もうー 他人事だと思って言いたい放題なんだから… 思いながら僕は…チラッとハルトの方を見た。 彼はニッコリ笑って、キッパリ言った。 「さっさと履き替えてきて」 「…」 僕は何も言い返せなかった…

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